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千文小説 その1075:先天

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 すったもんだのぐるぐるループから、ようやく、抜け出して。

 無印の第九世代のiPadは、無事、その真の姿を、現しました。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 無印の第九世代、スペースグレイ、64GB。

 愛称は、iPad Vieux。

 深海でたわむれる二頭のクジラが描かれた、ブルーグレーのグラデーションの歌詞カードを、磨りガラス風のケースの背面に挟んで、非常に、シック。

 言い換えれば、とことん、地味。

 …この、地味さ、こそ、僕の性格における、最重要クラスの特徴なんだよな。

 何をしようと、目立たない。

 かなり大きく動いても、人目につかない。

 もはや、忍者級のひっそりさは、僕の書く物にも、確実に、反映されている。

 今回は、いい感じに書けたな。

 浮かれている時は、まるで読まれない。

 今回は、全く冴えなかったな。

 肩を落としている時ほど、身に余る高評価を頂く。

 長年、落差に戸惑っていたのですが、無印の第九世代のiPadの設定を通して、理解しました。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 とにかく、地味であること。

 地味でないものは、地味になるまで、何度でも、推敲すること。

 …なかなか、難しいです。

 放っておけ、ということだから。

 そもそもが、地味なので、何一つ、手を加えなければ、自然と、地味になる。

 でも、何一つ手を加えない、なんて、できるか?

 断言します。

 無理です。

 それができれば、物書きはいらない。

 ぐちゃぐちゃに苦しんで、何度もあきらめて、また這い登り、やっとのことで、到達した地点に。

 初めからこうだったよ、という地味さが待ち受けている、くらいで、ちょうどいい。

 徒労だね。

 いっそ、初めから、マジで、なんにもしなければ、いいんじゃない?

 思いたくなるのは、人間の性ですが、さにあらず。

 書くことで、僕は、地味になる。

 書く前から、地味だったわけではない。

 ただし、この地味さは、よそから付け加えたのではなく、元々、僕に備わっていたもの。

 であるかのように書け、ということなので、大変、ややこしい。

 真実と虚偽、天然と作為が、入り乱れて、綾をなす。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 作品だけが、本当のことを、語ります。

 書き手の僕ではなく、出来上がった文章を、ご覧ください。

 読み手には、そのように促せますが、電子機器の場合は、ユーザーも設定主も、僕。

 本気で地味なのか、地味を装っているだけなのか。

 無印の第九世代のiPadを、よくよく観察することで、残酷なまでに、露呈する。

 …見たくないな。

 でも、見ざるを得ない。

 見ます。

 見ています。

 僕の出身地は、埼玉県。

 ご存知、海なし県で、十八年間、生まれて、育って。

 水族館にすら、行った記憶はなく、ほとんど、海との接点はない。

 かろうじて、胸の奥、深海の底に、リュウグウノツカイと思しき、謎の生物がお棲まいだが、…クジラは、いないな。

 表面の意識で、この歌詞カードが好きで、挟んでいる、わけではない。

 本当は、赤地に白文字、水平に五分割された脳と脊椎が描かれた歌詞カードを、入れたかったのだけれど。

 合わなかった。

 地味さに、太刀打ちできなかった。

 のか?

 本当は、の方が、本当です、という可能性は、ないのか?

 そもそも、無印の第九世代のiPadは、炬燵の上の電子機器集団、カメラレオンにおいて、メインなのか、サブなのか?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 膝の上、大爆睡の愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんで、抱き直し。

 姿勢を正して、正面の壁、ドーベルマンの肖像を、見つめます。

 無印の第九世代のiPadに関しては、これ以上、何も手を加えたくない、というのが、本音。

 地味を作り上げるのに、相当、労力を使って。

 使い果たして、もう、いい。

 考えたくない。

 …と、いうことは。

 僕にとって、地味である、ということは、決して、所与ではない。

 放っておいても、書いた物が、地味になるわけではない。

 この地味さは、僕が、僕のために、僕によって、獲得したもの。

 生き延びるために、書き続けるために、死に物狂いで、地味にしている。

 りきむのはよくないよねー。

 どこかにつけがくるからねー。

 …ありがとう、脳みそくん。

 世間一般の基準で、地味を測ってはいけない。

 僕は、地味。

 それは、間違いない。

 では、僕にとっての、真の地味とは、何だ?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 かぽん。

 ぱこん。

 すぽん。

 じゃーん。

 はあいー。

 こんにちはー。

 …こんにちは、脳みそくん。

 変な生き物と、暮らしたい。

 それが、僕にとって、このうえなく、地味な、先天的な、願いです。それでは、また。

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