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千文小説 その962:研磨

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 iPhoneとiPadとiPodは、だいぶ、練れてきた。

 それぞれに、個性はあるが、無理はしていない。

 ごく当たり前に、そこにいて、働いたり、充電したり。

 生きてるなあ…。

 皆様、お元気で、何より。

 このまま、お互いに、穏やかに、年を重ねていきましょう。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 こちらも元気な、爆睡の猫と、超然の深海生物を抱えて、ため息をつき。

 姿勢を正して、炬燵の上、最後のデバイス問題に、挑みます。

 ラスボスです。

 手ごわいです。

 戦う前から、戦意を喪失するような、威圧感。

 その名も、MacBook Pro。

 …無理、してますね。

 ものすごく、不自由と、不便を感じる。

 がんじがらめで、身動きが取れない難局から、果たして、この機体とともに、生還できるのか。

 リセットになるか、買い替えになるか、危険は、充分に、遍在している。

 リスクを取って、やるしかない。

 頑張ろう。

 おー。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …なんて言ってる時点で、既に、疲労感。

 ご覧の通り、僕は、完全なる、文化系。

 やるぜ!

 討つぜ!

 王道少年マンガの主人公には、とうていノミネートされず、個性豊かな脇役にすらなれず、一コマ出て来て、はい、終わり。

 棒人間のモブキャラが、なんで、MacBook Pro、なんていう、ダースベイダー級の黒幕と、真剣勝負に臨まなければならないの?

 速殺必至。

 文字通り、お話にならない。

 しかし、僕は、物書き。

 主人公にはなれないが、主人公の一挙手一投足を観察し、周囲の状況を交えて描写する、黒子の語り手になら、なれる。

 なりましょう。

 なぜ、MacBook Proとの一騎打ちに、至ったか。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 13インチ、256GB、スペースグレイ、日本語キーボード。

 ノートパソコンに、僕が求めるものは、それが、全て。

 今代のMacBookも、その意味では、完璧。

 何も言うことはない。

 …だからこそ、厳しいのです。

 今代を購入した、二年前の春。

 当時の最新モデルには、上記四点を兼ね備えた機体が、Proシリーズにも、存在した。

 バッテリー保ちという観点では、Proは、断然、Airに勝る。

 お値段も、そう変わらなかったので、ほとんど迷わず、今代は、Pro。

 しかし、月日は流れて、幾星霜。

 Proシリーズから、13インチは消え、256GBも、なくなってしまった。

 かろうじて、最も安いラインに、スペースグレイだけが残っており、日本語キーボードと組み合わせて、条件の半分は、クリアできる。

 半分でいいなら、Proシリーズを、継続してもいいのでは?

 …それができれば、こんなに苦しまない。

 お値段、なんと、今代の、倍近く。

 無理です。

 ノートパソコン一台に、四捨五入で三十万円は、出せない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 でもさ、よくよく、考えてごらんよ。

 そもそも、四つの条件の中に、Proシリーズであること、なんて文言は、含まれていないよ?

 どこから、MacBookはProに限る、みたいな、自縄自縛に陥ったの?

 …今代の、画面の下部、本体と蓋の繫ぎ目の部分に、黒地に、白抜きで、MacBook Pro、と書いてある。

 毎日毎日眺めている、その十文字こそ、僕をして、MacBookはProでなくては、と刷り込んだ、当のもの。

 文字の真下、ちらちら光って落ち着かないTouch Barと合わせて、その一帯が、今代のMacBookにおける、どうしても、折り合わない部分。

 逆に言うと、そこさえ克服するなら、僕は、今代と、いつまでも、どこまでも、添い遂げることができる。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 寝返りを打ちまくって、ついには、ぽんぽこお腹をむき出しに、仰向けで、だらりと寝こけている、警戒心ゼロ以下、のんき極まりない愛猫に、西武ライオンズのバスタオルを、掛け直して差し上げつつ。

 開いたMacBookを前に、ため息をついて、対策に乗り出します。

 Touch Barは、表示設定を操作することで、かなり、ちらつきは軽減された。

 いっそ、表示項目を、愛猫の警戒心に倣って、ゼロにしてみたら?

 普段、ほぼ使用しないので、それによって、不具合が出ることはないはず。

 ただの黒い帯が横たわっているだけ、になれば、万々歳。

 やってみるとして、では、MacBook Pro、の文字は?

 シールでも貼って、隠します?

 …下手にいじると、かえって目立つ。

 ここは、もう、そっとしておくしかない。

 必須の四条件を、繰り返し、頭に浮かべて、高額デジタルデバイスを所有したい虚栄心を、せっせと、こそげ取る。

 今代の寿命までに、どうか、研磨が完了しますように。それでは、また。

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