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千文小説 その1072:間合

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 手帳の季節です。

 毎年、ちょっと、憂鬱です。

 また、悩むのか…。

 今年は、どれだけ、引きずるかな…。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 手帳本体は、ここ十数年、同じメーカーのものを、買っています。

 大変、良い造りで、とても満足しています。

 カバーも、百均ショップの、透明なビニールのブックカバーに、CDジャケットと歌詞カードをコピーしたものを挟んだ、自作を使っていて、こちらも、問題なし。

 悩むこと、ある?

 …あるんです。

 件の手帳メーカーは、専用の自社カバーを販売していて、それがまた、多種多様。

 手帳を検索すると、どうしても、同時に、出て来てしまい、どうしても、思い乱れる。

 いいなあ。

 欲しいなあ。

 この、己の欲との闘いに、毎年、消耗するのです。

 さすがに、十数年のキャリアがあるので、自分の迷いポイントというのは、ある程度、把握している。

 把握しているからこそ、また、やってる。

 同じパターンの繰り返しに、そろそろ、飽きてきて。

 何か、新しい切り口はないか。

 思いつつ、ぐだぐだループに、今年もまた、懲りずに、はまりかけていたところ。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 手帳メーカーの直販サイトとは別に、大手雑貨店のネットストアに、発売開始の数時間後に、アクセスしたら。

 …なんと、僕が気にかけていたカバーは、軒並み、売り切れ。

 休日だったこともあり、出足が早く、年中無休のフリーライターは、高波に、乗り切れなかった。

 しょんぼりして、手帳本体だけ、注文し。

 今年は、カバー、買わなくていいか。

 あきらめつつ、しかし、ふと、手帳メーカーのサイトを、のぞく気になり。

 どうせ、こちらも、売り切れているんだろうな。

 やさぐれながら、ラインナップを拝見したら。

 あれ?

 ほぼ完璧に、在庫あり。

 なんなの?

 魔法?

 混乱しつつも、じっくりと、選ぶことができて。

 最終的に、これまでとは、少しテイストの異なる、それでも、好きなデザインの一枚を、購入することになりました。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 おやつのするめをかじり終え、満腹で、寝落ちした愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんで。

 食べ残しのイカを口に、天井を仰ぎます。

 …電子機器問題で、つくづく、実感しましたが。

 僕は、あるメーカーの、ある品が気に入ると、そのメーカーの品で、全てを統一したくなる。

 iPhoneを愛用しているからと言って、パソコンまで、MacBookに揃えなくてはならない、という決まりはないのです。

 スマホは、iPhone、パソコンは、Windows、デジタルウォッチは、また別。

 そんな方は、数多くいらして、むしろ、そちらが、多数派。

 ところが、僕の場合、凝り性と言おうか、ブランド主義と言おうか。

 iPhoneとWindowsを同時に使っていると、なんとも、むずむずする。

 同じことが、手帳にも言えて、できれば、毎年、同じがいい。

 年によって、メーカーを変えたって、まるで構わないのです。

 デジタル隆盛とはいえ、まだまだ、紙媒体も健在で、あちこちに、山のように、手帳が積まれている。

 わかってはいる。

 でも。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 手帳本体だけなら、まだしも、カバーまで、毎年、同じブランドの、同じ規格を要求するというのは、かなり、高くつくんじゃない?

 …そうなんです。

 この手帳に出会ってこの方、カバーは、いつでも、とある服飾メーカーとの、コラボアイテム。

 ただ、その服飾メーカーというのが、いわゆる、高級自然派婦人服、の会社。

 四十歳を超えた、貧しいおじさん物書きとは、そもそもが、手帳カバー以外に、何の接点もない。

 のだが、たとえ、一点でも愛用している限りは、そのメーカーの製品も、何かしら、買わなくては、申し訳が立たない。

 若い頃は、無理をして、まるで似合わない、というか、付け方もよくわからないアクセサリー等を、せっせと集めたりも、していたものです。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 無理は、続かない。

 頑張って集めた品々は、結局、全て、手放してしまいました。

 残ったのは、布カバンが、二枚。

 不思議な生き物を模したチャームが、一個。

 電子書籍が、三冊。

 手帳カバーが、一枚。

 このたび、そこに、カバーが一枚、追加されて。

 …大丈夫かな。

 また、むりくりかき集めループに、はまらないだろうか。

 炬燵の上、Apple製品も、既に、飽和状態。

 人生も後半戦、そろそろ、減らす、とまではいかなくとも、膨張する欲望との、快適な間合いを、模索する時期に来ました。

 さしあたり、カバー、楽しみだな。

 届くまで、一ヶ月。

 持ち物を見直して、すっきりと、迎えられるようにしたいです。それでは、また。

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