千文小説 その757:That's all.
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
…こんな結末を、誰が、予想し得ただろうか。
iPodが、古いCDたちの箱に収まり、静かになったので、そっと、電源を切り。
本棚に安置して、さて、iPhone7と、12 mini。
画面の明るさ等を調節し、交互に、電子書籍を読んで、いいんじゃない。
このまま、二台で、サブ機のリレーということで。
ほっとして、両者を置いて、MacBookで、zoom会議をこなし、夕ご飯と入浴を済ませた、その直後。
ああ、ここだよ。
ほら、ぴったりだ。
じゃあ、そろそろ、行くね。
お世話さま。
…なんと、iPhone7、唐突に、引退。
クローゼットの下段、古い雑誌の山の上、ブック型カバーに包まれて、身を横たえ。
それっきり、反応が、なくなりました。
にゅーしゅしゅ。
ずりずり。
ぐりぐり。
…あまりにも、衝撃が大きいと、人間は、どうなるか。
そうか…。
なるほど。
そうだよね。
ありがとう。
ご苦労さま。
かえって、すとんと受け入れて、さくさくと、動作をこなします。
人間だもの、僕も、そうなり。
うなずいて、電源を落として、足元にまとわりつく愛猫とともに、すたすたと、ベッドへ。
なんで?
長いこと、ものすごく、執着してたじゃない。
やっぱり7が一番さ、って、何度、書いたことか。
なのに、こんなに、あっさり、ざっくりした別れでいいの?
どうしちゃったの?
にーぬふふ。
ごろごろ。
ごりごり。
…わからない。
衝撃で、頭が、働いていない。
とりあえず、夜のルーティン、iPhone14 ProでのメールチェックとSNSの閲覧を。
…混乱が極まると、人間は、いつものこと、に逃げます。
ご多聞にもれず、僕も、逃げて、いつものように、愛猫を腹に、ベッドの背もたれに寄りかかって、Proを構え、アプリを開くと。
…今?
どんぴしゃのタイミングで、ファンであるところのバンドの、新曲のミュージック・ビデオが、公開されたとの知らせが。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
爆速で寝落ちした愛猫には、明日、改めて、観せてあげることにして。
取り急ぎ、イヤホンを耳に、YouTubeのリンクをクリックします。
少し前に公開された作品の続編という位置付けで、不幸にも、闇に引き裂かれた恋人の片方が、もう片方の面影を追って、ファンタジックなロードムービーを繰り広げる設定。
もちろん、最後には、二人は再会できます。
できます、が…。
…あれ?
これって…。
まさか…。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
愕然として、身を起こし、炬燵の上を見やります。
MacBookと、筆箱と、手帳に囲まれて、ちんまりと鎮座する、白黒のiPhone。
背面に貼り付けられたステッカーこそ、まさに、今、流れている曲の前作を購入した際の、特典付録。
…と、いうことは。
まさか、iPhone Proの、真のサブ機は。
miniなのか?
7でも、iPodでもなく?
ミュージック・ビデオのヒロインのように、富や名声をかなぐり捨て、地上を離れてまで追い求める、誰より愛しい相手は、まさかの…。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
…乱文、何とぞ、ご容赦いただきたい。
自分でも、何を言っているのか、よくわかっていないのです。
しかし、物書きの真価は、理性の制御が崩壊した、まさにその時に、発揮される。
早い話が、修羅場に強い。
物書きに、言語で、ケンカをふっかけるのは、なるべく、よした方がいい。
開き直って、ぺらぺらしゃべり、それがまた、妙に真実をついており、下手をすると、一生引きずるくらいの、深いトラウマとなる。
真実は、なるべく、知りたくないもの。
できれば、ほんわり、ふんわり、たゆたうように、生きていきたい。
でも、時として、現実は、裂けます。
一瞬だけ、きらりと光る、真実を、手にするには、裂け目に、素手を、突っ込まなくてはならない。
突っ込みました。
引き抜いた。
しゅぽっ。
再び、現実は、何事もなかったように、閉じた。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
後には、寝こけるぬいぐるみの猫と、超然たる深海生物と、動画再生中のスマホ。
それだけ。
That's all.
…マジですか。
それだけですか。
真実は、かくも残酷。
複数の電子機器を所有して、使い道に困っていた自分が、可愛く思える。
いや、大変だ…。
見てしまい、つかんでしまった、後が、きつい。
現実と真実を、折り合わせるために、どれくらいの文字を、費やさなくてはならないか。
気が遠くなる、先の先まで、真実は、照らします。
…頑張らないと。
タヌキのキャンディ、おしゃれだね。
ダークでウォームなミュージック・ビデオの助けを借りて、どうにか、地上に帰りたいです。それでは、また。
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