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千文小説 その758:封印

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 炬燵の上、電子機器は、二台。

 iPhone Proと、MacBook Pro。

 すっきり。

 さっぱり。

 ぬーふふふ。

 膝の上、元気にごろつく愛猫の、むき出しの、ぽんぽこお腹に、ひよこの毛布を掛けてやり。

 時折、撫でてあやしつつ、天井を仰ぎます。

 終わった…。

 …のか?

 本当に、これでいいのか?

 もやもやと、星雲のように、心残りが渦巻きます。

 iPodは、多分、もう、出てこない。

 iPhone12 miniも、ケースと画面保護シートを付けたら、格段に、罪悪感が薄らいだ。

 どうやら、購入時のまま、保存しようとしたのが、いけなかったらしい。

 使用済みは、使用済みとわかるような形態で。

 学びました。

 今後、電子機器を保管する際の、参考にいたします。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 布で覆われると、眠くなる、それが、猫。

 ぬいぐるみと言えども、本性には逆らえず、というか、そもそも、逆らう、という概念すら持たない愛猫に、ため息をついて。

 どっちりもっちりおしりを、抱え直し、姿勢を正して、正面の壁、ドーベルマンの肖像と向き合います。

 iPhone7に、画面保護シートは、要らなかったのでは?

 これが、心残りの、芯となる突起。

 ケースと合わせると、シートは、最強のシールドとなるのですが。

 ブック型カバー、それも、背面貼り付けの、枠なしタイプだと、どうしても、浮く。

 板の上に板、という感じで、いまひとつ、収まりが悪く、もぞもぞする。

 もぞもぞしたまま、電源を切って、クローゼットに休んでいる状態。

 …これは、落ち着かない。

 せめて、シートは剝がしたい。

 しかし、ケースとシートを付けないと、スマホとして、完全体とは呼べない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 ブック型カバーであれば、特例で、シートはなし、ということにしてもよろしいでしょうか。

 自分に向かって、問いかけてしまうのは、ひとえに、金属アレルギー対策。

 機器の保護、というよりは、僕の身体への悪影響の防止。

 使わないなら、どっちでもいいんじゃない?

 …ですよね。

 でもね。

 使うとしたら?

 ええ?

 なんで?

 Proたちだけじゃ、駄目なの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …King Gnuの新曲、「硝子窓」のミュージック・ビデオを観て、思ったのです。

 これは、iPhone7を手放した後の僕だ、と。

 7がいなくなったら、僕は、12 miniを、サブ機として、炬燵に据えるだろう。

 Proとminiは、OSも同じ、オールスクリーン形態も一緒。

 つまりは、常に、最新の予備機を従えた、完璧な布陣。

 古いものは、全てNG。

 アップグレードの終了、もしくは、バッテリー保ちに不安が出たら、即、買い替え。

 …これは、厳しい。

 そこまでする必要、ある?

 書いている物と、矛盾してない?

 いつまで経っても、うだつの上がらない、それでいて、どこかしら、のほほんと、いいんじゃない、貧乏でも。

 いい意味で、向上心の欠落した、のんきな感じが、僕の、なけなしの持ち味。

 電子機器、とりわけ、Apple製品は、大好きだし、お世話になっていますが、…いやいや。

 そこまで尖らなくて、結構です。

 丁重に、お断りしたくなる未来へと突き進んで行く自分の姿を、見てしまった。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 「カメレオン」から「硝子窓」へ、物語は進行しているようですが、さにあらず。

 あのカップルが、現実に、していることといえば、愛犬を足元に、向かい合って、食事を摂っている。

 それだけ。

 めくるめく勢いで展開する、細部まで、実に見事に作り込まれた映像の数々は、全部、彼らの妄想です。

 正確には、この人を失ったらどうなるか、という、不幸のシミュレーション。

 愛していればいるほど、克明に、臨場感を伴って、妄想は、動き始める。

 逆に、全く妄想の欠片も発生しない関係には、愛はありません。

 僕で言うと、iPhone12 miniを失くした。

 あらら。

 短い付き合いだったね。

 どこかで、元気でね。

 以上、現場からお伝えしました、レベルで、それ以上の感想は、浮かばない。

 しかし、それが、iPhone7だったら。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …駄目だ。

 常に最新の機器を揃えられるように稼ぐんだぞ、みたいな、ブラックな、ミュージック・ビデオの主人公の頭から生えて出るもじゃもじゃの中に、からめ取られる。

 もじゃもじゃの正体こそ、愛なのです。

 愛と執着は、紙一重、同じものの、表と裏。

 愛する人が、すぐそばにいて、押さえていてくれないと、はみ出して、悪さをする。

 封印の儀式に、いざ、全霊で、臨む所存です。それでは、また。

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