千文小説 その1026:半分
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
無印の第九世代のiPadを、リセットし、あらゆるアクセサリーを取り除いて、クロスで磨き。
いったん、箱に収めて、クローゼットに運んで、半日置き。
改めて、炬燵に連れ帰り、設定・外形・名前の三点について、真剣に考えます。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
無印の第五世代からの直接転送。
電器店で買った専用ケース。
それらは、もう、変えられない。
間違っていたのは、名前だ。
あれこれ、いじりすぎて、わけがわからなくなった。
やはり、第九世代、neuf、を尊重し、頭文字は、エヌで確定。
しかも、小文字ではなく、大文字で。
というのも、iPhoneとMacBookが、それぞれに、それぞれの特徴を、見事に冠した名前を見つけて、今後とも、引き継いでいくことが決まった。
iPadにも、ぜひ、一代限りではない、恒久的な愛称を差し上げたい。
N、か…。
何があるかな…。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
膝の上、爆睡の愛猫を抱えつつ、天板の上、分厚い仏和辞典を開きます。
大学時代に愛用していたもので、手垢と劣化で、ぼろぼろ。
それでも、手放すつもりはない。
フランス語と僕は、なぜか、深い仲。
ともに、古びて参りましょう。
よいしょ。
ばさっ。
neutre。
…これだ。
英語の、ニュートラル、に当たる単語で、中立、という意味がメインだが、二番目に、特徴のない、精彩を欠いた、とある。
これですよ。
無印の第九世代の特徴は、とにかく、目立つところが、何もないこと。
スペースグレイ、と名乗ってはいるものの、MacBookの、ぱっと明るい薄灰色ではなく、沈み込むような、漆黒に近いボディー。
ホームボタンの関係で、ブラックベゼルが、かなり太くて、下手をすると、画面が、遺影。
おまけに、カバーが、これまた真っ黒で、かろうじて、背面は、スケルトンなのだけれど、結局、漆黒。
地味を通り越して、無色透明。
ベーシックも、ここまで極まると、逆に、存在感が増す。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
無印の第九世代のiPad、改め、iPad Neutre。
MacBookにケースを付けたような、iPhoneからステッカーとスマホリングと画面保護シートを取ったような。
シリーズは、問わない。
歴代、このとんでもない無精彩と、それに伴う一種の超越感を、受け継いでいく。
ふさわしい機体が見つからない限りは、いかにOSが期限切れだろうと、次代は、決して買わない。
iPhone14 Proこと、iPhone Trois。
無印の第九世代のiPadこと、iPad Neutre。
13インチのMacBook Proこと、MacBook Gris。
この三台を軸に、iPhone7、無印の第五世代のiPad、第六世代のiPod touchを加えて、炬燵の上の電子機器集団、カメラレオン、完成。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
これでもか、と本体とケースを磨き上げ、ぴかぴかのつやつやにしてから、スタンドを立てて。
無印の第五世代と並べて、電源を入れて、データと設定を、そっくり転送し。
無印の第九世代のiPadは、無事、生まれ直しました。
いや、良かった。
これで、安心して、楽しいデジタルライフが送れる。
みなさま、末永く、よろしくお願いいたします。
静かに並んだ、六台の電子機器に、深々と、頭を下げて。
いよいよ、最後の難関、小さな白いiPhoneに挑みます。
iPhone12 miniです。
…これがまた、何がなんだか、さっぱりわからないんだよな。
百均ショップで買った、iPhone13 mini用の画面保護シートが、これまで貼ったなかで、最もフィットして。
それだけは、装着していますが、あとは、むき出し&リセット済み。
せっかくの汎用ケースも、ステッカーも、駄目にして、ぽつんと、ちょこんと、天板の上、どことなく、ユーモラスに、真っ白い背面を見せている。
…そうなのです。
この、妙におどけた感じというか、あんまり気にしません、みたいな適当さというか、それこそが、12 miniの真骨頂。
名前、違ってたかも。
miniなので、エムで始まることは、間違いないが。
まさか、これも、大文字?
後継機、ある?
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
…さすがに、ないだろう。
小文字かつ英語の、iPod touchと、一緒だろう。
小文字かつフランス語、mで始まる、ちょっと間の抜けた単語…。
再度、仏和辞典の出番です。
よいしょ。
ばさっ。
moitié。
半分。
ほとんど。
不完全。
…なんだか、打ちのめされた理由を、よく考えてみます。それでは、また。
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