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千文小説 その959:解縁

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 あまりにも、どうにもならない。

 いっそ、全台、炬燵に、乗せちゃえば?

 むふーん。

 よしよし。

 なでなで。

 くふーん。

 膝の上、ごろごろくつろぐ愛猫の、ぽさぽさの、青緑色の毛皮を撫でながら。

 天板に、ずらり並んだ、全七台の電子機器、カメラレオンのフルメンバーを、見やります。

 MacBook Pro、スペースグレイ、256GB。

 無印の第九世代のiPad、スペースグレイ、64GB。

 無印の第五世代のiPad、ゴールド、32GB。

 第六世代のiPod touch、ピンク、32GB。

 iPhone7、ゴールド、32GB。

 iPhone12 mini、ホワイト、128GB。

 iPhone14 Pro、ディープパープル、256GB。

 …やっぱり、きれいに、折り返せるな。

 iPodを軸にして、見事に、線対称。

 そして、迷いどころは、いつでも、二番目。

 パソコン類においては、無印の第九世代のiPad。

 スマホ類においては、iPhone12 mini。

 そこを、抜くか、抜かないかで、ずっと、もめている。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 無事、爆睡にお入りになられた愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんで、抱き直し。

 姿勢を正して、正面の壁、ドーベルマンの肖像と、向き合います。

 …抜こうとして、駄目だったなら、このまま、置いておくしかない。

 iPad9は、ブラックのキーボードを付けると、むき出しよりも、どうにもならなさは減る。

 使わなくても、まあ、仕方ないかな、くらいには、負担感を、ゆるめることができる。

 iPhone12 miniがね…。

 これぞ、ど真ん中の、どうにもならなさ。

 何をどうしようと、違和感が消えない。

 カバーもケースもステッカーも、全部、ゴミ。

 ホーム画面をいじっても、変わらず。

 処分もリサイクルも下取りも、不可。

 やばいよね…。

 これ以上、いったい、どうしろと言うのでしょう。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 頑張るべき局面というものは、確かに、あります。

 投げてはいけない。

 何があろうと、持ちこたえなくては。

 カメラレオンで言うと、おそらく、無印の第九世代のiPad、キーボード付き。

 ここは、意外と、僕にとって、新領域なのです。

 ただの板としてのiPadは、無印の第五世代で、堪能させていただいた。

 iPadとの関係に、将来性があるとしたら、この方向しかない。

 全くの未知なる分野というのは、踏み込む際、かなりのプレッシャーをもたらす。

 iPad9を購入して、三ヶ月。

 未だに、延々ともめ続けているのは、相性の問題というよりは、僕の側に、覚悟ができていないから。

 受け入れるぜ。

 物書きとして、キャパシティを拡大し、より広い世界を、文章に収めるために。

 …なかなか、すぱっと決断できない、ぐずついた性格で、まことに、面目ない。

 どんなに時間がかかろうと、いずれ、胸を張って、愛機と呼べるように。

 キーボードを装着した無印の第九世代のiPadは、これから、意を決して、再設定に、取り組みます。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 そして、頑張らない方がいい局面も、確かに、ある。

 何もかも、どうしようもなく、駄目だ。

 投了。

 負けました。

 恥を忍んで、涙を飲んで、その一言を言わない限りは、次の勝負に臨めない。

 iPhone12 miniに関しては、僕は、完敗。

 これほどがつんと敗北する機会は、そうそうない。

 得難いチャンスだった。

 でも、…もう、いいよ。

 miniのためにも、僕のためにも、そろそろ、別れよう。

 リセットして、バックアップを削除して、クロスで拭いて、箱にしまって、クローゼットに。

 臥薪嘗胆、時々、眺めては、これより下はないどん詰まりを、思い出すよすがとする。

 iPhone12 miniに比べれば、どんなデバイスも、楽勝です。

 そういう機体も、あるんだな…。

 努力を重ねても、駄目なものは、駄目。

 では、重ねた努力は、無駄だったのか?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …しないで済めば、どんなに良かったか。

 それでも、せざるを得なかった。

 miniで苦労しなかったら、他の機器で、もっとひどい目に遭っていたかもしれない。

 そう思うより他に、残念ながら、心を救う手立てはない。

 それくらい、miniとは、どうにもならなかった。

 ならなかった、と過去形で語れるほどには、真芯の苦痛は、遠ざかりつつある。

 終わったのです。

 あとは、認めるだけ。

 ありがとう、iPhone12 mini。

 小さな体に、矛盾の全てを詰め込ませてしまって、申し訳ない。

 どうぞ、ごゆっくり。

 来世こそ、出会わなくても済むように、じっくり、ご縁を、ほどきましょう。それでは、また。

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