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千文小説 その1027:時代

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 iPhone12 miniに関しては、諸々、あきらめました。

 リセットしようとしても、しきれない。

 名前を変えようとしても、変えられない。

 ケースもカバーも、付かない。

 画面保護シートを貼れたのが、進歩ではあるが、それも、13 mini用。

 再設定も、いつでも同じ手順で、動かない。

 …これは、もう、いじらない方がいいな。

 ちなみに、使おうとしても、使えないので、そこも、あきらめないと。

 iPhone miniという愛称で、お望みの通りに設定して、そっとしておく。

 充電と、コンテンツのダウンロード以外には、極力触らず。

 永遠のガラパゴス、第六世代のiPod touchと並んで、仲良く、余生を全うしてください。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 膝の上、一心に、おやつのするめをかじる愛猫の、大きなおしりを抱き直し。

 炬燵の上、七台揃った電子機器集団、カメラレオンを見やって、ため息をつきます。

 miniとiPodを除いて、稼働可能なのは、五台。

 iPhone7。

 iPhone14 Pro。

 無印の第五世代のiPad。

 無印の第九世代のiPad。

 13インチのMacBook Pro。

 この五台であれば、好きなように、好きなだけ、使ってもいいのか?

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 …という感じでも、ないんだよな。

 二台のiPhoneたちは、とりたてて、何も思わず、心身の要請に従って、手に取ることができる。

 パソコン類に対して、構えてしまうのが、難関。

 我がMacBookは、なんとも、読めない人物、ならぬ、機物。

 ちょっと変わったこと、例えば、フランス語のキーボードを入れる、みたいなことをしようものなら、たちまち、上を下にの大騒ぎ。

 ロック画面のパスワードや、英数キーを押す時も、全部、フランス語にしてしまって、テコでも動かなくなる。

 仕方なく、フランス語キーボードを削除して、事なきを得ましたが、…いやはや。

 気難しいというか、一本気というか。

 うっかり、変わったことがしづらくて、決まった業務の遂行だけしか、お任せできない。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 無印の第五世代のiPad、足掛け八年の付き合いになる相棒を、何より、愛しているのですが。

 いかんせん、さすがに、古い。

 ゴールドの本体も、ホワイトベゼルも、32GBも、何もかも、時の彼方に消え。

 同じ型の後継機を据えることは、もはや、不可能。

 できるなら、いつまでも、一緒にいたい。

 でも、ふさわしい代理が来るのなら、機体のためにも、ぼろぼろになり過ぎる前に、譲ってあげたい。

 葛藤のなか、同じホームボタン搭載の、無印の第九世代を買ったものの。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 満腹で、寝落ちした愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんで。

 食べ残しのするめを口に、天井を仰ぎます。

 無印の第九世代のiPad、愛称は、iPad Neutre。

 …これがまた、iPhone12 miniに匹敵する、とんでもない袋小路。

 中性、という概念は、非常に厄介です。

 女でも、男でもない。

 陽でも、陰でもない。

 iPhoneでも、MacBookでもない。

 これを御せれば、あなたも、ノーベル賞。

 無理ですね。

 へなちょこ物書きが、湯川博士に肩を並べようなんて、おこがましい。

 そもそも、中性は、それ自体で存在しているわけではない。

 あくまでも、男女や陰陽という両極があってこその、中間。

 酸とアルカリを混ぜると中性だね、という、基本的には、混合物。

 状態が、常に大変不安定で、だからこそ、破壊的な原子力を有する。

 iPadという、固定的な物体の形を、一瞬は、形成できても、持続するのは、ほとんど、夢物語。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 大学時代、モーリス・ブランショの、Le Neutre、中性的なるもの、という概念についてのレポートを書いていたら。

 僕にしては、珍しく、ウイルス性の胃腸炎にやられて、吐くわ下すわ高熱だわ、それはひどい目に遭いました。

 文字通りの、消化不良。

 要するに、向いていない。

 …物書きとして、中性的なるもの、を実行しようとすると、どうしても、覆面作家に、なるしかないんだよな。

 僕の作風と、覆面・匿名は、まるでかみ合わない。

 中性を突き詰めるのは、どうやら、やめた方が良さそうです。

 iPhone12 miniと、無印の第九世代のiPadは、OSのアップグレードが終了するまでの、臨時メンバーということで。

 期限が切れ次第、順次、リセットします。

 ごめんよ、無印の第五世代のiPad。

 今度こそ、真の後継機が見つかるまで、君の時代は、まだまだ、続きそうです。それでは、また。

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