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千文小説 その896:改修

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 iPadから、noteの記事執筆を取ったら、何も残らない。

 …嘘でしょ?

 何かは、残るよね?

 いいえ。

 残念ながら、他に、することはない。

 やろうと思えばできる、のレベルで、それがメインにはならない。

 じゃあ、腹をくくって、iPadで、書けば?

 毎日毎日、こつこつ、とつとつ、キーボード、打っていけば?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 久しぶりに暖かい午後、床に差し込む光の帯の上。

 ぽさぽさの、青緑色の毛皮が、大の字、を通り越して、虎の敷物状態で、仰向けで、大爆睡。

 いいな…。

 僕も、隣で、寝ちゃいたい。

 頭を振って、誘惑をやり過ごし。

 炬燵の上、静かに並んだ電子機器集団、カメラレオンを見やります。

 このところ、noteの記事は、iPhoneで、書き始める。

 MacBookとiPadで、日替わりで、仕上げる。

 そのペースで、定着しつつあります。

 無印の第九世代のiPadと、13インチのM1チップのMacBook Pro。

 いわば、パソコン界の、底辺と頂上。

 上には上があり、最上位ではないけれど、下は、これ以下にはならない。

 今後、いかなるiPadを買っても、常に、レベルアップ。

 いいですね。

 アメリカン・ドリーム。

 しかし、まさに、その、レベルアップ、という概念が、僕に合わない。

 人間、そうそう変わるものではない。

 成り上がりを疑問視するのが習い性で、どうにも、いつでも、同一水準を保ちたい。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 だが、iPadを、もはや、同一水準に保つことができなくなってしまった。

 第十世代の無印は、第九世代の後継モデルではなく、Airシリーズの廉価版。

 結局は、MacBookと同様、ProかAirか、の二択に吸い込まれてしまう。

 iPadを継続しようと思ったら、必然的に、成り上がらざるを得なくなる。

 Apple Pencilも使わない、カメラの性能も問わない。

 キーボードが付いていて、文章が書ければ、それでいい。

 愚直な物書きに、最高レベルのタブレット端末は、果たして、必要か。

 …ちょっと、どうかな。

 電子機器好きとしては、興味がなくはないが、そこまで実験する意義は、ほぼない。

 今代のiPadは、ひとえに、MacBook Proのアンチテーゼ。

 機能も素材も、最低限にしぼり詰めて、それでも、書けるか。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 書けます。

 充分です。

 しかし。

 …その他が、なかった。

 物書きは、基本的に、どんな道具でも、書けるのです。

 裏を返せば、どんな道具でも書けるなら、物書きなのです。

 僕は、物書きだ。

 iPadを使うことで、それだけは、よくわかった。

 それで、いいんじゃない?

 iPadで、書けるなら、書けば?

 …もちろん、書いてはいる。

 書いてはいるのだけれど、やはり、もやもやする。

 未来がない。

 今は良くても、この先に、何かが待っている気がしない。

 廃版になったから、というのが大きいが、それだけではなく。

 男女の仲で言えば、どうも、結婚する感じではないというのが、近い。

 それなりに、相性はいいし、とりたてて、文句もないのに。

 連れ添うか?

 No。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 寝息に合わせて、元気に上下するぽんぽこお腹に、燦々と、照り付ける日差しに、目を細めつつ。

 ため息をついて、天井を仰ぎます。

 iPadは、MacBookから、ウェブでの執筆機能だけを取り出したデバイス。

 取り出す意味、ある?

 ないよね…。

 iPhoneの電池保ちをカバーする、という観点からは、大変、頼もしいが。

 MacBook Proを、なめすぎでしょう。

 なんで、MacBookを使わない?

 先代の、Intel搭載のAirのように、ラップトップの名の通り、膝に乗せてまで、がんがん書けば、iPadで、こんなに悩むこと、ないのに。

 …おっしゃる通りとしか、言いようがない。

 どう考えても、未来も現在も、僕に向いているのは、MacBook。

 過去が、引っかかっているのです。

 iPadを使って、楽しかった記憶。

 MacBook Airとの、がむしゃらな思い出。

 初代たちの印象が、それは、強烈で。

 今代たちでは、未だに、上書きできていない。

 昔は良かった、に囚われてしまうのは、なぜ?

 あまりにも、そのままだから。

 MacBookとiPadでiPhoneの補佐をする、という枠組みに、思考の全てが、がっちりと、はめ込まれてしまっているから。

 変えるべきは、重心。

 メインは、どこなの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 ゆっくりと、顔を戻して、姿勢を正し。

 正面の壁、ドーベルマンの肖像を、見つめます。

 頭の中、大規模改修が、始まったようです。それでは、また。

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