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【限り無い】

私は波間に

ぽつんと立っていた


いつの間にか潮も引き、

私は小さな中州の上に立っていることに気付いた


空を小さな明烏が横切ると


私の身体は一気に冷え込み

肋の骨にえぐれるような痛みを感じ始めた


そこへ一人の少年が

どこからともなくやってきて

「その衣は、あなたの物ですか?」

と、変なことを聞いてくる


寒さに唇が震え、まともに声を出せずにいるや、


少年はこう続けた


「もう一度あの明烏が横切るとき、あなたはそこに居てはならない。」


やっとの思いで「なぜ」と言えた頃、

目の前が白んで

少年は消えてしまった


考えど考えど、意味が分からない


潮がまた満ちようとしている

とにかく歩き出そう


そう思い、左足を前に出したつもりが、

私の左足はいや左脚は

根元からごっそり消えていた


そこに見えるのは、中洲に押し寄せる小さな波たち

幸い、一方の右脚は、まだ私のもののようだ


「なぜ脚が無いのか?」

そんな問いも無意味なのだろうと、

変にこの状況を冷静に受け止めている自分がいる


きっと、私がこの衣を盗んだ、バチが当たったのだろう


盗っ人は、極楽浄土へは行けぬ


片脚で、何処ぞの妖怪のような素振りで

ぎごちなく比重を取りながら、中洲の端までやってきた


なるほど、

ここは、私の知っている世界では無いようだ


その端から浅い海の中へ目をやれば

人間の骨ばかり


屍をこえてゆけ、とは、

まさにこのことか?


この骨を蹴って進めば、あちらの浜辺に辿り着けそうだ


しかし、これは私の道徳を、試しているのか?


盗っ人の道徳を、試そうというのか?


そう疑心暗鬼になっていると、

空を先ほどの明烏が横切った


潮が満ちる前、私はその屍の

仲間となった。

いただいたお気持ちは、創作意欲を掻き立ててくれる毛むくじゃらでニャァと鳴く息子・娘で分け合います(^_^)