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就労支援のメリットとデメリット

障害者の方が働きたいと思った時、様々な選択肢があります。
その中で、制度として用意されている就労支援機関を活用するかもまた、選択肢に挙げられます。
障害者雇用や関わる支援機関については以前、概要としてまとめたことがありますので、よろしければ以下の記事でご確認をば。


今回は支援の活用に関して、そのメリットとデメリットを考えたいと思います。これはあくまで私が実際の支援の中で考えていることの一部なので、ひとつの意見として参考になれば幸い。
最終的にはそれぞれの支援機関に直接問い合わせて、ご自身の考えや支援者との相性で活用するかどうかを決められるとよいと思います。

今回は主に一般就労を考えた時に、入口になることが多いであろう、「就労移行支援事業」と「障害者就業・生活支援センター事業(以下ナカポツ)」の2つに絞って、そのメリット・デメリット、活用に向いていると思われる人をまとめていきます。

就労移行支援事業活用のメリット

メリットの1つは、ひとつの場所に所属して訓練を受けることができるという点でしょうか。
就労移行支援事業は、原則として最長2年間の訓練期間を設け、一般就労に関する知識や技術を身につける場所です。週5日、1日5時間程度の訓練をおこないます。訓練は座学、グループワーク、作業訓練などが主です。
座学では障害者雇用について、支援について、働く上でのマナーについてなどが取り上げられているようです。外部の講師を呼んで、例えば身だしなみ(女性ならビジネス場面でのお化粧など)についてなどの講義をしている事業所もあります。
グループワークでは、座学で学んだことについての意見交換や、ロールプレイ(学んだマナーを実践する場を想定した即興劇のようなもの)をおこなうことがあるようです。自分自身の障害特性をまとめて、発表している事業所もあるとか。
作業訓練では、事業所ごとに独自の訓練を用意していることもあります。ひたすらボールペンを分解して、組み立てて・・・の時間を測ることもあれば、パソコンでの入力訓練をおこなうこともあるようです。実務系(身体や手先を動かす作業)と事務系(パソコンや電話を使った作業)が準備されていることが多いです。同じ会社が運営する別の事業所と時間を合わせて、電話の練習をすることや、実際に外部からの電話に訓練生が出ている事業所もあります。
ひとつの事業所に所属しながら、こういった訓練をおこなう。支援者が担当制でつくことが多いので、自分のことを徐々に知ってもらいながら、一貫した訓練をおこなうことができるのがメリットの1つだと考えます。

もう1つは職場実習の機会を得られること。
大概の就労移行では、ある時期から職場実習の機会が提供されます。いわゆるインターンのようなもの。収入は得られないことが原則ですが、実際に一般企業で働く体験ができる機会になります。多いのは1週間から2週間、実際に働く場所・時間・内容で体験することができます。この場にも支援者は適宜訪問し、実習スタートの調整(時期や内容)から、実習中の調整、終了後の振り返り(反省会のようなもの)までを見守ってくれます。
初めて仕事をする、という人や、経験のない職種に挑戦したい人は特に貴重な体験ではないでしょうか。求人票だけではわからない、その職場の人間関係や雰囲気、忙しさなどを体験することで、就職してからの「こんなはずじゃなかった」を減らせる可能性があります。

最後に、就職後も支援を受けることができるという点も挙げておきます。
就職したら「はい終わり」ではなく、制度的には6ヶ月の「定着支援」が実施されます。職場の人との関係性(本人と企業の相互理解、問題が生じた時の対応の把握など)の構築を目的に、支援者が6ヶ月間、職場に訪問します。支援者が企業側の担当者と何か課題が生じていないか、生じている場合はどのような対応をするかを確認します。
職場訪問だけでなく、必要な場合は電話や面談で本人に聞き取りをおこないます。手法は実施する支援者によって異なりますが、目的は同じ。「本人が働き続けるために、本人や企業に助言や支援をおこなう」というものです。
就労移行支援事業による職場訪問は制度上6ヶ月で義務が終了します。その後は必要に応じて、適宜別の機関(就労定着支援事業やナカポツなど)に支援をバトンタッチしていきます。

就労移行活用のデメリット

1つは就職まで時間がかかることです。
最長2年間、と言いましたが、大抵の場合は2年間近く訓練を実施する事業所が多いと思われます。それは訓練がそれだけ必要、という真っ当な理由もあれば、移行支援事業所としては長く利用してもらい、収入を上げたいという経営上の理由もあると思われます。
最近は、「最短コース」みたいな文言で、就職経験者に対して3~6ヶ月の利用を想定したコースもあるようですが、その在り方に対して個人的には懐疑的です。
重要なのは、それだけの期間をかけて訓練する価値や意味を感じることができるかです。
中には淡々と決められた訓練をパッケージ通りにおこなうことが目的になっている事業所も見受けられます(というかそういう事業所が多い)。本来的には、そういった訓練を通して本人が障害特性や性格特性に気付き、自己理解を深め、対応策を発見・実施できることを目的としていると思いますが・・・。
ともあれ、訓練はいらない、すぐに就職したい、という人にはそもそも通う理由がないとも思われます。

次に収入が発生しないという点です。
様々な訓練があり、中には内職では?と感じるメニューがあります。しかし、あくまでこれらは「訓練」なので、収入を得られない場合が多いです。中にはせめて交通費、弁当代を、という事業所があり、内職を通した訓練をおこない、訓練生に還元している事業所もあります。
最近では「皆勤賞」としてクオカードを配布している事業所や、弁当代を負担してくれる事業所もあるようです。助かる人はいるんだろうなぁ。
また、交通費は自己負担が基本です。居住地によっては独自の補助制度がある場合もあるようなので、行政にご確認を。

最後に放りっぱなしの支援もあるということです。これは事業所や担当支援者の手腕によると思いますが・・・。
移行支援事業所としては、実績を上げたい(=宣伝効果や収入に影響)という思惑があるのが実情です。なので、利用期限が近づいてくると何とかして就職を、という事業所もなくはないのです。対人関係に不安があるのに接客業を推してくる(極端な例ですが)ようなことが生じていることもあります。
また、支援の必要性よりも事業所や制度の原則を優先し、支援がバッサリと終わることもあります。頼むからちゃんと引き継いでくれ。いや雑でもいいから引き継いでくれ。
計画相談員がついている方は、支援に不安を感じたら相談を。ついていない場合は相談員や他に繋がっている支援機関に相談しみてもいいかもしれません。願わくはそんなことがありませんように・・・。

ナカポツ活用のメリット

手前みそ的にはなりますが・・・。
1つは、総合的な助言を受けることができるという点でしょうか。
初めて「障害」に該当すると言われた際に、一般就労を目指すべきか、それとも福祉サービスで訓練や支援を受けるべきか迷うことがあると思います。そういった時に、たとえば障害者雇用の概要を知りたい、地域にある支援機関について知りたい、など、総合的な情報をひとつの場所である程度受けることができます。より具体的なことについては、専門の機関を紹介するに留まりますが、その地域の独自の制度・施策や、障害者雇用の傾向、支援機関の特徴はだいたい網羅されていると思われます。入口として、まずは情報収集、という場所としては活用できる機関だと思います。
また、基本的には訓練機能はないものの、実習の機会を提供する機関になっているので、生活リズムや体調の準備はできているけど、働いた経験がなくて不安、という場合には実習の実施を相談されるといいと思います。ハローワークで出ている求人から、職場実習を設定してくれることもあります(企業が了解してくれれば)。

次に、自分のペースで支援を受けることができるという点でしょうか。
ナカポツは毎日通ってくる場所ではないので、支援者とはある程度の距離感が生まれます。自分が相談したい時に予約し、対応してもらえる場所になります。ただし、気が向いた時にふらっと相談に行けるわけではなく、経過は都度共有するよう言われる可能性があります。
その距離感や情報共有するタイミングは、ナカポツによって考え方が異なるので担当者と確認するといいでしょう。
よくあるのは、初回の相談から連絡がなくなり、いきなり就職していて定着支援を、と希望される・・・というケースです。対応はしますが、支援者側からすると、本人の状態像が変わっていることや、そもそも合ってない仕事を選択されていること、制度上支援が入ることのできない場所に就職していたことなど、対応が限定されてくることがあり、「もっと早く情報共有してほしかった」と思うことも少なくありません。
本人のペースで進むことは重要ですが、支援を希望するのであれば、ある程度情報は共有していただけると支援者としては助かります。

最後に、就職から引退までを一貫して支援できるという点でしょうか。
「障害である」と言われ、一般就労を希望したところからかかわりを持つことができます。そこから訓練、実習、就職、定着と、その人個々の経過を辿っていくわけですが、顔合わせの頻度は増減がありますが、希望する限り登録は継続していくのが原則です。
大抵は「〇年間やり取りがなかったら登録抹消」のような基準がありますが、そうでなければ、ゆるーく関係は続いていきます。10年ほど関わりがなく、登録抹消していた人が連絡してくる、ということもあります。当時の担当は異動していますが、現在の担当と新たに関係性を作り直し、支援に入ることができます。
本人が「もう働きたくない」「働けない」と判断するまで、支援を希望すれば支援できるというのがよい点でしょうか。

ナカポツ活用のデメリット

1つは就職まで時間がかかるという点です。これはかなり個人差があります。
基本的にナカポツは、本人の動きに合わせて支援をおこないます。本人が求人情報を持参してきて初めて、具体的な支援(就職活動)が進んでいきます。場合によってはナカポツから企業見学や実習の案内がありますが、それを待っていると時間がどんどん経過していくと思います。かといって、本人が思うペースでガンガン進むと、支援者としては調整が利かないこともあるので、本人と支援者が足並みをそろえる必要があります。このスピード感は、人によっては「おっそ!」と思うかもしれません。

次に訓練機能がないという点です。
相談での助言に留まるので、今現在の本人の「働く力」で就活を進めることになります。といっても、多くのナカポツの運営法人では就労移行を持っているし、同一法人で持っていなくても地域の事業所のことを知っているので、そこに繋ぐわけですが。
そういった訓練機関を使う場合には、ナカポツとの距離感はある程度離れると思います。訓練を経て、具体的な就活に入った段階でナカポツに繋ぎ直されると思いますが、そうした場合、支援の主導を握るのは訓練機関になるので、ナカポツとの関係性は薄くなります。

最後に、支援者との関係がみえにくいという点もデメリットかもしれません。
訓練機関のように毎日顔を合わせ、決められた訓練に取り組む。そこで適宜訓練内容を報告したり、やり取りが発生したりする相手ではないので、「どういう時に声を掛ければいいかわからない」と思われる方も少なくないと思います。
これは支援者側の説明不足もありますが、本人自身に相談しようという動機やモチベーションがないと、ナカポツは登録したはいいけど使わない・・・ということもあるのが実際のところです。
具体的に、就活の時に一緒に求人票を見てほしい、見学に同行してほしい、実習を調整してほしいとか、就職後に定期的に訪問や面談で状況を把握してほしい、職場の人にお願いする時に内容を支援者と考えたい、伝える時に同席して補足してほしい・・・などなど、希望があれば伝えてみてください。そうすると、支援者側から「このタイミングで声をかけてほしい」と示すことができるはずです。支援者側としては、「何かあったら相談したい」と言われてしまうと、「何かあったら」は本人に委ねることになってしまうのです。

そもそも「支援」を受けるか否か

そもそも論ですが、支援は必要ですか?
就職活動や就職後の職業生活の中で困ったことがあれば、前述した具体的な希望が出てくると思われます。しかし、中には「周りに言われたので来ました」という人もいて、特に困りごとがない人もいます。また、困り感を整理しきれず、言語化できていない方もいます。
本人が整理できていない場合、基本的に支援者は過去の経過を聞きながら、できることを探します。そして提案するわけですが、本人がピンと来ない場合には、支援を断ってもいいのです。そして、必要になった時に改めてつながる、という形でもいいでしょう。
また、企業見学や実習は、必ずしも企業を安心させる材料ばかりではありません。企業の中には「支援者がついていてくれるなら安心」と思う企業もいれば、逆に「支援者がいないと駄目なの?」と思う企業もあります。それは企業ごとに考えが違うので、「支援=あればいい」ではないのです。

個人的には、支援については必要性で判断すればいいと思っています。様々なメリットやデメリットがあるけれど、訓練が必要なのであれば訓練をする。支援を依頼する。
たとえば、ひとりで初めての場所に行くことがとても不安で、最初だけでも同行者がいてほしいということなら、企業にどう思われようが企業見学への同行を依頼する。
企業側にもその必要性を伝え、理解してもらえる企業でないと、いつか無理が出てきます。無理をしての就職は、その後も無理が続くものです。最初に支援者の同席や、配慮事項を伝えた上で、理解してくれる企業を探すことも重要です。それでも上手くいかない場合には、求める配慮や支援が過大なのかもしれません。であれば、さらに数を打つか、訓練や治療を優先し、求めるものを今より少なくする他ありません。

支援者の同席や、訓練機関の利用のデメリットがどうしても気になるようであれば、自分だけで取り組んでもいいのです。その中でどうしても乗り越えられないものが出てきた時に、初めて支援を検討すればいいと思います。

支援の必要性を飲み込めていないと、支援者からの言動はうっとうしいだけで終わってしまいます。誰かに勧められて受けるものではありません。
勧められて、実際に話を聞いてみて、それで自分が判断すればいいのです。判断が難しい場合には、迷っている点を支援者に伝えてみてください。他の手があったり、判断のタイミングについて助言がもらえたりするかもしれません。

まとめ

訓練する際には、同じ支援者から一貫した助言をもらいながら訓練ができます。また、自分だけでは調整できないような企業見学や職場実習に参加できることもあります。
一方で、訓練機関ごとに進め方が決まっているので、自分では準備がばっちりでも動きが制限されると感じることもあるようです。また、訓練中の収入についても検討する必要があります。

ナカポツの利用については、訓練機関よりも緩い関係性なので、ある程度は本人のペースで就職活動を進めることができます。見学や実習の情報も得られるかもしれません。
一方で、支援者と意思疎通をよくしておかないと、依頼しようと思っていた支援が提供されなかったり、ナカポツに求める役割がぼやけてしまったりすることもあります。
自分で進められるということは、自分で進めなければならないということでもあり、また勝手に進めていいものでもありません。就活の主体、情報入手は誰がおこない、どのタイミングで共有するのか。その点をよく話し合って認識を共有することが重要です。

支援はあればいいというものではありません。
自分の考えで進めたい、という人に支援は向きません。場合によって支援者は「就職はまだ早い」ということがあるからです。その言葉は、支援者としては根拠を持って伝えているつもりですが、本人としては言葉や理由に納得できることばかりではないと思います。
自分の考えで進みたいのであれば、そうすればいいのです(突き放すつもりはありません)。その上で、フォローしてもらいたい心配があれば伝えてください。フォローできるところはします。一方で「その進め方ではフォローできない」ということもあります。支援は一方の気持ちや行動で成立するものではないのです。この協調ができるかどうかも、あるいは職場で必要な視点かもしれません。

支援を希望する人が、望むような支援を受けられれば一番です。
これからも支援を押し付けるのではなく、相手の希望することを整理し、提案し、実行し、調整するということを続けたいと思います。

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