さくらんぼ

道端に落ちている人間たちの愛が、あまりにも寂しげにこちらを誘惑してくるもので、つい拾い上げてしまいました。かたちも色もばらばらなそれらを、全て一括りに愛と呼んでしまえるほどの無関心さが、わたしは心底嫌いでした。眠りに落ちる数秒前、いつもきまってわたしの頭の中を飽和する波長は、いつからか少し変わってしまったようで、こうして日々を過ぎ去って大人になっていくのだろうなと思いました。やりきれない怠慢な日々も、目まぐるしく駆け回るような忙しなさも、どちらもわたしの色とは不釣り合いで、そもそも人間というのがわたしに似合っていないように感じてしまうのもまた、日常の一部と化した他人との比較によって生み出される感情で、悲しみに溺れながら一日を終える日々を思い出してはため息をつくような人間でした。なんて、難しい言葉でたくさんの汚い本音を綴っても、わたしが救われるなんてことはなく、ただ、もやもやとした黒色で粘着質な物体が、そのかたちをはっきりと主張してわたしの記憶の隅にこびりつくだけでした。くるしいは自分でやっつけないといけないんだよってきみが言うから、わたしはもう戦うことに疲れてしまって、いつまで耐えればいいのかもわからないくるしさを、一瞬にして消し去ってくれるのがあの部屋の隅でもう何年もうずくまっている少女なんだろうな、と実はもうずっと前から気がついていました。今日やっと、わたしは彼女に話しかけてみました。「ねぇ、あなたが食べた不幸はどんな味がするの?」

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