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ひぐらしのなく頃に卒 14話感想

ネットの感想では爆笑した、沙都子の動機がしょうもなさすぎる、梨花ちゃんド正論、などと言うものが満ち溢れているが、私は真逆の感想を書くので、嫌な感じがする人はどうかここで引き返して頂けたらと思う。

沙都子が勉強すれば良かっただけの話なのか?

私は最初から今現在まで、全く持って沙都子側なのである。

犯罪者の肩を持つとか、擁護するなどではない。

沙都子のこの、「自分のできることを全てやり切り、かつ、それ以上の継続と上のランクへ行く事を求められた」ことが、どれくらいの人が経験があるだろうか。

合わせて「限界までの孤独、孤立」に追い詰められ、「信じていた人からの救済がもたらされなかった人」も、どれくらいいるだろうか。

そんな経験をしたことがある人が、どれくらいいるだろうか。

私はこの沙都子の行動が、現実世界でも実際に起こっている弱者男性が起こす凶悪犯罪と重なって見えた。

ネットに飛び交う、いともイージーな感想、「梨花ちゃんド正論」「沙都子が勉強すればいいだけの話」とは、私にはとても思えないのだ。

梨花は沙都子を助けたか?

人を殺していいわけでもないし、沙都子がやったことは最低最悪手であることには間違いはない。

しかし、そこまで沙都子を追い詰めた梨花には、何の責任もないだろうか。「高校生なんだからひとりで勉強しなさい!」は確かに正論だろう。しかし、梨花はあれだけがんばった沙都子になんら報酬を与えなかったこともまた事実ではないだろうか。

原作でも、あるカケラの世界では梨花と沙都子が険悪な関係のシナリオがあり、そこでは梨花の女王様気質な部分がよく描かれていた。

今作の業では、梨花のその女王様気質がふんだんに描写され、彼女はサロンを開き、下僕を従え、スクールカーストの頂点に君臨していた。

落ちこぼれていく沙都子に勉強を教えようとした手を差し伸べてはいるが、沙都子がその手を払った。払ったのならと沙都子のことは放っていた。

別に他に友人を作るなとは言わないし、それでも全くかまいはしないのだが、新しい生活に夢中になり、沙都子へのフォローや思いやりがなかったように感じるのは私だけだろうか?

沙都子をあのようなサロンに突き合わせることが梨花の望だったのだとしたら、それもまた、沙都子の勉強が嫌だと同じくらいにしょうもない理由ではなかろうか。

二人の想い…入学がゴールであった沙都子と、そこがスタートであった梨花の気持ちは受験前からすれ違っており、それにお互い気づかなかったこともまた事実であろう。

しかしそんなことは、現実の人間関係でも頻繁に、そうとても身近で頻繁に起っていて、友人間で、夫婦間で、仕事間で、常に起こり続けている。

「あなたの正論」は人を救わない

私が最も尊敬する女性のひとりである祥龍院隆子様もこう言っている。正論は人を救わないと。

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隆子お嬢様が言っているこのセリフは最低かもしれないが、人の弱い心を表した真実の言葉ではなかろうか。

「あのとき」沙都子に必要だったのは自分よりも沙都子を大切にして、沙都子のために動いてくれる人だった。

そしてその人はすでに作中に登場している。

入江先生だ。

ルチーアへの進学費用だって彼が出してくれていたはずだ。

だから沙都子を救う正論があったとしたのなら、それは梨花の正論「勉強すればすんだこと」ではなく、「沙都子のための正論」

「彼女たちのお互いへの執着を薄め、ルチーア学園から離してあげること」

で、あったのではないかと思う。

だがその枠に収まってしまったのがエウア…フェザリーヌだったのが、今回の話の始まりである。沙都子は藁にすがり、彼女は沙都子に力を与えた。

誰でも神絵師になれる?

努力すれば誰でも大リーガーになれる!

努力すれば誰でも東大に合格できる!

努力すれば誰でも神絵師になれる!

あなたはそう思うだろうか?

努力してそうなれた人は、努力してなれたのだから、その努力のメソッドを公開する。それはとてもありがたいことなのだが、もしそのメソッドを誰でも実現し、現実のものとしているなら、この世はプロ選手と東大生と神絵師であふれている。

人には各それぞれの、限界があるのだ。

令和の世界はかつての同調圧力からの解放によって形成されている優しい一面もあるが、その副作用として脱落者を許さない。弱者にはとことん冷たい世界である。大好きな言葉は「自己責任」。

沙都子の限界が、ルチーアへの入学だったのだ。梨花はそれを受け入れてあげるべきだった。

あなたの限界はどこだろう。

そのラインを越えて、上へいけるか?

上のレイヤーで、そこに生きる人たちと同等の働きをするために、全命を削り続けねばならいことを、何日続けられるか?

周りが呼吸をするようにこなすことを、あなたは命がけでやらねばならない。

沙都子は、「そこ」にいたのである。

そんな沙都子に「勉強すればいいだけ」「勉強が嫌とはあまりにもくだらない」など、どうしてそんな言葉が吐けるのか。

彼女にはもう、削る命がない。

沙都子(社会的弱者)が孤立し孤独にさいなまれ、惨劇を引き起こす前に、彼女を見て、知って、助けること。それが最適解だったのだ。

梨花は沙都子の悲しみを透明なものとした。

透明化されている多くの苦しみを、知ること。

その理解が、令和のこの世界には、あまりにも乏しい。