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男子の名は劉備玄徳

さて、ひとりの男子がおりました。読書はあまり好きではなく、性格は寛容で寡黙、喜怒哀楽を顔に出すこともなかったそうです。
しかし!心に天下を賭して大志を抱いており、天下の豪傑たちと交わることを好んだのであります!
風体は実に逸品!身長は七尺五寸、両耳は垂れ肩にかかり、両手は膝を過ぎる長さ!目で自分の耳さえ見渡せるその雄姿!顔立ちは冠玉のごとく麗しく、脣は脂を塗ったかのような艶やかさがありました!

この男子こそ、中山靖王劉勝の末裔にして漢の景帝の曾孫、姓は劉、名は備、字は玄徳と申す者であります!

きっとお気づきのことと存じます。
この劉備、その姓名だけでなく字の「玄徳」と紹介されたことに!
これまでの登場人物たちは姓名しか紹介されませんでしたが、この劉備という者は格別、字まで明かされているのであります。
ひとたび字が示されれば、それは物語の中でも重要視された人物であることが窺えますぞ。

その祖先、劉勝の子劉貞は昔漢武帝の時代に涿鹿亭侯に封じられましたが、後に賄賂のためにその地位を失い、そのためこの一族は涿県に住んだのであります。

玄徳の祖父は劉雄、父は劉弘。劉弘は孝廉に合格し吏職にも就いた賢人でありましたが、早世してしまいました。玄徳は幼くして孤児となり、母親に対して極めて孝行したそうであります。
一家は貧しく、草履を売り、むしろを織ることが職業でした。住まいは本県の樓桑村、家の東南に大きな桑の木が立っておりました。その高さ5丈余り、遥か遠くから見ても車の蓋のように大きかったのです。
ある相者がこう云ったと聞きます。「この家から必ず貴人が出るであろう」と!

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