回し手形

相手から受け取った手形に当方の印判を押して支払に当てることを「手形を回す」と言う。

例えば、A社が発行して当方に支払った一〇〇万の手形を、B社へ渡して一〇〇万円の支払を行う事がそうである。多くの会社は自己手形(自分が発行者となる)を切るが、自己手形との違いは、期日が来ても現金を用意するのは発行者であって当社ではないから、資金繰りの負担は無いことだ。また、馬鹿にならないのは印紙代で、年間を通して見ると、払うのと払わないのとでは実に大きな差が出る。

とはいえ、裏書譲渡したら支払義務(現金で期日に支払う)を免れるものではなく、発行者の次順位として全責任を負うのである。

かつて当社は輸出物の大口受注した事があった。

支払は船積み後現金という条件だが、材料の仕入れや加工は先行するのでかなりの支払が発生して、立替負担が大きい。取引銀行へ行って事情を話し、融資をお願いしたがなかなかOKしてくれなかった。挙句の果てにS地銀支店長(静岡県内三地銀はイニシャルが偶然皆Sであるが)は「自己手形を切ればいいじゃない」と言った。私は「自己手形を切るくらいなら、ここへお願いには来ない!」と席を立った。結局、地元信金が全面的に応援してくれて、その仕事は完遂できた。それ以来S地銀との付き合いはゼロで、信金とはずっと続いている。

自己手形はある種の錬金術でもある。月に一〇〇〇万づつ、サイト五ヶ月で切れば、実に五〇〇〇万の金が手元に溜まる。貨幣を発行するようなものであるが、期日は確実に来る。その時は何が何でも落とさなければ不渡り事故になる。交通事故に会おうが、地震で動けない事態になろうが当日午後三時でアウトである。考えれば恐ろしいことだが、これほど多く流通していることに対して警戒は薄い。

そこが不思議に思えてならない。

中小企業で、「うちは回しです」という相手に出会うと、まず安心する。自分の力量の限界を承知していると思えるからである。貰った手形が期日に現金化できない(不渡り)事態になると、毎月一〇〇〇万として五ヶ月分で五〇〇〇万になる。それに当月の納入分がプラスされて、ざっと六ヶ月の損害になり、目も当てられない。

手形で払ってもらう商売とは、浮き草の上を歩いているように、不安定である。

#手形 #地銀 #中小企業 #期日

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