“Project Barrier” by Daniel F. Galouye(1958)

以前、O・S・カード「無伴奏ソナタ」の元ネタがロイド・ビッグルJrの短篇にあったという話や、ホーガンの長篇に設定の似ている古典SFの話を書いたが、今回もその路線の話。別にそんなことばかり追っているわけではないのだが、昔のSFを今の視点から読むと、そういうところについ目がいってしまう。

さて、今回取り上げるダニエル・F・ガロイ(1920〜1976)の短篇”Project Barrier”は《ファンタスティック・ユニバース》誌1958年1月号初出。あらすじは次のようなものだ。

明滅する巨大な壁に囲まれた世界には、四つの国がひしめき合っていた。そのうちの一国で科学研究局のチーフを務めるセイヴォーンは、気球を製造して壁を越える計画を立案するが、チムー元首は戦争が間近に迫っていることを理由に却下する。やがて研究局の解体が決定され、セイヴォーンはひそかにスタッフを再結集して気球計画を続行する。いっぽう、セイヴォーンは他国のスパイと疑っていたマーダス評議員の個室で、評議員とおぼしき影が別の生物に変身するのを目撃する。

科学的探求に情熱を燃やす主人公、無理解な社会、自分たちの社会に秘密裏に浸透している謎の敵という典型的40~50年代SFの道具立てだが、面白いのはこの話の登場キャラクターが熊というところである。主人公も元首も評議員も熊。熊の国なのだ。描写を見る限りほとんど人間そっくりの暮らしをしているようだが、家ではなく巣穴に住んでいたり、ベアハッグで決闘したりといった熊らしい要素も残っているあたり芸が細かい。

さらに興味深いのは、熊文明の原点の象徴として火の話が出てくることだ。たとえば、主人公は自分の計画に無理解な元首を「巨大で毛むくじゃらな獣、鋭いかぎ爪と長い鼻をして、偏見に凝り固まり、原始的な火のまわりにふんぞり返っていた」原始熊だと心中で罵るし、後半の世界の謎が明かされるパートでは「変異した本能によって一握りの熊が冬眠せず、火を発見した」ことが語られる。なんなら、「原初の熊が火を発見した(the first primitive bear discovered fire)」という一節も登場する。

つまり、テリー・ビッスンの有名短篇「熊が火を発見する」(1990)の着想元は本短篇なのではないかというのが筆者の仮説である。もちろん、ビッスン本人はインタビューでもそういうことはいっていないし、第一作品のトーンが違いすぎる。なのだが、偶然にしては要素が似通いすぎていて、無関係と断じるには惜しい。まあ、「これは○○の引用/オマージュ」と断定するのはマニアの発想であって、固有の作品や作家を意識したわけではないけれど、なんとなく頭の片隅に残っていたイメージやフレーズが時間をおいて影響を及ぼしている、くらいの話なのかもしれない。


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