アニメ評論家の藤津亮太さんに「アニメレビュー」を添削してもらった話


「アニメ!アニメ!」にて公開された、「プロ」に聞く「アニメレビューの心得」という上記の記事。曲りなりにも「アニメの感想」を発信している者としては、見ないわけにはいきません。

ラジオ形式で話していると、良くも悪くも「走り切って」しまえるので、ある種ロジックを飛躍させても着地はできるのですが、いざ文章で伝えようとすると「ごまかしがきかないな」と思うことがしばしばあり。

「話すべき箇所が見つからなかったらどうしよう」という不安も常につきまとっていたので、そういう意味でもとても参考になりました。

そしてなんと、「アニメレビュー」を送れば、もれなく藤津さんから寸評をいただけるというではありませんか。おまけに、対象となる10作品の中には、マイ・オールタイム・ベスト『リズと青い鳥』のタイトルが。これはやるしかねぇ、と改めてレビューに挑んだのでした。


時は流れ先日、「実践編」となる続編の記事が公開されました。結果、応募は30作品。予想を上回る数だったとのことですが、30分の1が自分なのかと思うと、なかなかに緊張が走りました。

読者に対して「プレゼンを成功させ、見たいと思わせる」。そのためには「不要なものを取り除く」という、内容の取捨選択が欠かせない。気になった部分を列挙していくことも多い私としては耳が痛い部分で、「確かになぁ」と膝を打ちました。

実際の添削によるビフォーアフターを見ると、そのことがものすごい説得力でこちらに迫ってきます。というか、みなさん着眼点すごいっすね。改めて、大事なのはそもそもの切り口だなぁ、と痛感しました。


と、いうわけで、記事内では題材にはならなかったのですが、せっかくなので、私の原稿と藤津さんの寸評を公開します。

・対象作品:『リズと青い鳥』

本作は、『響け!ユーフォニアム』という作品のシリーズに連なり、「北宇治高校吹奏楽部」という舞台を同じくしながらも、徹底して鎧塚みぞれと傘木希美という二人の少女に焦点を当てた作品となっている。

冒頭、音楽室へと向かう様子が子細に描かれる中で、二人の個性が見えてくる。ポニーテールを揺らしながら大げさな動きで前へと進む希美。孵化直後の刷り込みのように、希美の跡を辿っていくみぞれ。一見すれば仲がよさそうに見える彼女たちだが、音楽室に到着して交わされる言葉は、どこか噛み合わない。

画面に示される文字は「disjoint」。後の授業のシーンで語られる通り、「互いに素」である、つまり、共通項を持たない関係であることが示される。

この作品は、親密でありながら「互いに素」であるという歪な関係を、ようやく交わらせるための物語である。

コンクールに向けて、北宇治高校が自由曲として選択したのが『リズと青い鳥』。本作は、その曲のモチーフとされる童話『リズと青い鳥』の場面と
交互に描かれながら進んでいく。ひとりぼっちのリズの元にやってきて、側に寄り添う青い鳥の少女。二人で楽しい時間を過ごすも、やがてリズは自分が青い鳥を閉じ込める「鳥籠」であることに気づき、青い鳥を空へと羽ばたかせるという、愛ゆえの「別れ」を決断する。

曲にとって重要なパートを担う希美とみぞれは、自身を物語に重ね合わせながら、曲の表現に挑む。みぞれは、自分がリズなら、青い鳥を決して逃がさない、と言う。コンクールの本番、即ち、希美と演奏する機会に「終わり」が来てしまうことを望まない彼女は、希美との瞬間すべてを閉じ込めようとする。希美は、自分が青い鳥なら、会いたくなったらまた戻ってくればいい、と言う。みぞれにとっての「終わり」は、希美にとっての「終わり」ではなく、瞬間の重さのズレが二人の距離をさらに歪なものにする。

物語の後半で、二人にとっての重ね合わせる対象が逆転する。リズが希美で、青い鳥がみぞれ。みぞれを側に置いておこうと閉じ込めていたのが希美で、大空に羽ばたく「羽」を持っていたのはみぞれの方だったのである。

希美はみぞれに「羽」があることを知っていて、とっくに「鳥籠の開け方」にも気づいていたのかもしれない。「終わり」を嫌うみぞれは、「自分のすべて」と言い切ってしまえる希美の言葉でしか羽ばたけない。「みぞれと同等になれると思って」と希美から発せられた「私、音大受けようかな」という言葉は、結果として二人の歪な関係をフラットにしたのである。

物語としては「別れ」と捉えられているが、この先にある未来へ進もうとする彼女たちにとって、それは「巣立ち」である。

「鳥籠」から放つのも愛の形で、そこから飛び立つのもまた愛で。

冒頭で希美が拾ってみぞれに渡した「青い羽」は、もしかしたら鳥籠の鍵だったのかもしれず、空の広さをこれから目にするみぞれから発せられるのは
疑問形の「ありがとう」なのである。

ラストシーンで、希美の後ろでなく、横に並んで心からの喜びと安堵が詰まった笑顔をみせるみぞれ。一歩踏み込んで放った「ハッピーアイスクリーム!」の言葉はきっと希美にまっすぐ届いている。


・藤津さんの寸評

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本作は最終的に二人が別々の道を歩んでいく点に注目する人が多い中、逆に二人がやっと交差するという見方をしている点が面白い原稿です。

「この作品は、親密でありながら「互いに素」であるという歪な関係を、ようやく交わらせるための物語である。」というメインテーマの前に二人の関係を読者に想像させるための助走となるパラグラフがしっかり用意されているのもとてもいいです。

省略しがちな童話としての『リズと青い鳥』をコンパクトに説明している点も優れています。

「「鳥籠」から放つのも愛の形で、そこから飛び立つのもまた愛で。」

この後に、本原稿の主題である「離れることでやっと交差した」「disjoint」等の文章を入れることで、冒頭で提示されたテーマが回収され、もっと良くなるでしょう。

その際、冒頭と同じフレーズを使うことで納得感がさらに増します。

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・寸評を受けて

改めて「タイトルつけてねぇ」ということに気づいて青くなりました。

とはいえ、いかなる指摘も受け止める覚悟で身構えていたので、ひとまずレビューの体を成していたことに安堵。これが『ブルーピリオド』でいうところの「褒められが発生しました」ってやつか。

未見の人を『リズと青い鳥』の沼に引きずりおろす、という気概をもって書いていたので、「慎重すぎるか?」とも頭をよぎった説明部分について、必要なことだと背中を押してもらえたのは嬉しかったです。

流れをまとめるのに必死だったので見落としていましたが、画面の文字演出の話をするなら、結果的に「dis」が消されるくだりは入れたいな、と確かに思ったのでした。


このために『リズと青い鳥』を見直したのですが、結果、言いたいことの骨組みは過去の自分が既に用意していた、ということもあり、改めてレビューに取り組むよい実践の場になりました。これからも精進します。


普段はラジオ形式でアニメの感想を話しているので、よければそちらも聴いていただけると嬉しいです。


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