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「遠くから運ぶほど安くなる!?」 意外と知らない食の仕組み

明けましておめでとうございます!
2020年初noteは自分が関心を寄せ続ける「食の仕組み」について書きたいと思います。関心の発端は中学生の時。「どうしてその辺に畑はあるのに、地産地消を提唱しないとできないのだろう?」と疑問をもったことをきっかけに「大好きな食がどこからきているのか知りたい!」と思い、京大農学部の経済系の学科に進学。大学はとっくに卒業しましたがそこから今日に至るまで「食の仕組み」には関心を寄せ続けてきました。私もまだまだ勉強中の身ですが、食は全員の毎日に関わることなので、現時点で自分の知っていることをなるべくわかりやすく書きたいと思います。このnoteが毎日の食と向き合う、ひとつの視点になったら嬉しいです!
※このnoteは「食の仕組み」と言われてもパッと思いつかない方に向けて書いています。専門家の人にとっては概論的な内容となっていること予めご了承ください。

戦後から変わらない日本の食の流通システム

①ベースは、「どかっと集めて、再分配!」
食の仕組みのルーツを探るには「戦後」にまで時を戻す必要があります。
復興を掲げ前向きに動き出した日本。経済を急成長させるために、東京への人口の集中が始まります。1955年以降は毎年30-40万人が東京に流入したそう。そこで直面したのが食の供給の問題です。今までは各地で生産された農産物をその土地で消費していればよかったところが、それでは東京に集中した大量の胃袋を満たすことはできなくなってしまいました
そこで整えられたのが、現在にも続く全国規模の市場流通システムです。
エリアごとに農産物を割り振り(産地化)、同じもの大量に作って、一回中央市場にどかっと集める。
そして、消費地の人口に応じて全国の農産物を組み合わせ再分配するという仕組みです。
これによって生産地から離れた大消費地でも農産物が食べられるようになりました。これはとっても革新的な仕組みです。

②南から北へ!精緻に組まれた「産地リレー」
さらにすごいのは「産地リレー」という仕組みが組まれたこと。今皆さんがスーパーに行っても、トマト、きゅうり、にんじんなど、一年中同じ定番野菜を買うことができますよね。これはこの「産地リレー」のおかげで、桜前線が南から北へ登っていくように、エリアごとに生産するタイミングをちょっとずつずらすことで定番の野菜が年中ある状態を叶えられるようになりました。

こうした産地化や中央市場流通システム、そして産地リレーによって私たちはどこに暮らしていても、年中定番の農産物にアクセスできるようになりました。

③恩恵の裏で生まれた弊害
これらの仕組みは大きな恩恵を私たちの暮らしにもたらしました。その一方で、一定の弊害も生んでしまいます。ここでは3つほど紹介します。

【弊害1:食べられるのに行き場を失った規格外農産物】
全国の農産物を大量に動かす中で「なるべく効率的に運びたい」という考えが生まれます。そこで設けられたのが全国共通の農産物規格です。流通する前に一定の基準で選別し、あらかじめ基準を満たさない農産物は運ばない仕組み。ここで問題なのは、食べられないものをはじくのは仕方ないにせよ、箱詰め効率を追求するあまり、ちょっとでも形のいびつなものや少しでもキズがあるものもはじくようになったことです。大きな経済で見ると、その方が儲かるという判断ですが、味的には普通においしい農産物でも形・見た目の規格から外れると行き場を失うことになりました。今や畑で規格外農産物を収穫しない、そのまま畑に放すことは当たり前になりすぎて、それをどうこうしようと考える人は少ないです。
ちなみに「だったら安く流通すればいいじゃん?」と言われると、先日私のツイッター投稿で議論が巻き起こった通り、そんなに単純ではなかったりします。

【弊害2:顔の見えない関係性の標準化】
大量にどかっと流通する仕組みの中では、農産物を個人個人の生産者に紐づけるのは難しく、まとめて「〇〇県産」と扱うようになりました。ここに先ほどの、見た目・形を重視した規格が加わることで、生産者の生産基準は「よりおいしいものを追求すること」よりも「規格を満たすものをより多く、早く作ること」に置かれるようになりました。※もちろん、全員ではないです!味にこだわっておいしいものを作ってくださる生産者の方も多くいらっしゃいます。
ただ、もし自分がこだわっておいしいものを作っても、それが評価されなかったら上記のようにシフトするのは必然ですよね。(昨今独自のこだわりを持つ生産者が直販をする理由はここにあったりします。)また消費者も産地情報しか与えられなくなると、作り手への想像力を持ちにくくなるので、農産物を判断する基準は「値段」に偏重していくようになります。「形」と「値段」という淡白な指標だけで農産物は扱われるようになってしまいました。

【弊害3:旬の食文化の希薄化】
最後にあげるのが「旬の食文化の希薄化」です。一年中定番野菜にアクセスできるのは素晴らしい一方で、「いつ何が旬をむかえる?」と聞かれても答えられない方は多いのではないでしょうか。私も正直わからないものも多いです。元来豊かな四季があるおかげで多様な食文化が発達してきた日本。旬がわかりにくくなることで、こうした食文化も身近じゃなくなるようになりました。

遠くから運ぶほど安くなる!?

さて、ここまで日本の基本的な食の流通システムを見てきましたが、現在の食の仕組みを捉えるには、もう一つお伝えすべきポイントがあります。それが、輸入についてです。全国に安定的に農産物が行き渡る仕組みができると、次に食はより「便利に」を追求するようになります。様々な即席食品が開発されたり、チェーン飲食店や小売店が広がったことで、自炊しなくても簡単に食事が済ませられるようになりました。
これも忙しく生きる現代人にとっては大きな恩恵をもたらしてくれました。しかし、食品メーカーや小売店、飲食店の競争が激化することで、より安い原料が求められるようになります。そこで選択されるようになったのが海外産の農産物。身近な例で言うと、大手の野菜ジュースの中身は海外産が主になります。皆さんが「簡単に食べられる!」と感じるものほど中身の原料は遠くからきているということが起こっているんです。
なぜか。
それは「規模の経済」が働くからです。日本で産地化が進んだのと同じように、大量に動かしちゃえば移動距離は長くても結果的に安くなるという現象が経済原則に則ると起こります。加えて皆さんが教科書で見たことがあるように、アメリカなど国土の大きい国では一人当たりの生産量が多いというのもありますし、貧困・途上国では一人当たりの労働賃金が安い(安くさせられている)というのも影響しています。
市場競争の結果、「遠くから食を運ぶ」ことが一般的になっていきました。(他にも輸入拡大の背景には食文化の変化(欧米化・グルメ化)もありますがここではあまり触れません。)

飽食の時代の課題

このように遠くてもどかっと運べば安くなる法則が食の仕組みに影響を及ぼしています。
ただ、先ほどと同じくこの法則にも一定の弊害があります。
一つは物理的距離が遠くなることで生産者への想像力は減り、食品の廃棄や買い叩きといったひずみに心を痛めにくくなること。
実際に日本は世界屈指の食料廃棄大国です。年間約650万トンの食べられる食品が廃棄されていると推計されていて、これは国連の食糧支援量の約2倍に相当する量だそうです。(多すぎる!)

もう一つは、価格は安くなったとしても、フードマイレージ(食料輸送距離)が高くなること。これは輸送にかかる水やエネルギーが増え、環境負荷が高くなることを意味します。
日本はだいぶ前に「飽食の時代」に突入したと言われていて、欲を満たしてくれる便利で、グルメで、おいしいものは常に溢れている環境です。このさらなる追求は世界が目指す環境不可軽減や食料・水不足対策の取り組みと逆行することになります。悲しいかな、飽食が当たり前になったのに、忙しい働く世代や高齢世帯では生活の維持に重点が置かれ、食への関心は薄らいでいるという矛盾も起きています。

新しい時代に向けて

先人が築いてくれた食の仕組みはたくさんの恩恵を私たちの毎日に与えてくれました。それに対しては感謝しかないのですが、今や毎年大きな災害に直面するくらい「ひずみ」が見える化しています。これからは恩恵の裏でこっそり生まれ、でも着実に地球を蝕んできた弊害の方に目を向ける必要があると思います。
その方法は今の時代を生きる私たちが考え続けないといけませんが、ここでは毎日の食の応用しやすい方法を2つほど紹介します。

【方法①:生産者が分かる食材を選ぶ】
便利さ・安さだけを購買基準とするのではなく、「これは誰が作ったものかな?」という視点も持ってみてください。上の弊害を回避するには、少なくとも食は経済圏を小さくすることが何よりだと思うんです。スーパーでいうと、地元産のものを選んだり、直売コーナーのようなところに足を運んでもらえると生産者の名前の書いたものが売られていたりします。個人的に超応援しているのは昨年中目黒に一号店をオープンし産直・量り売りにこだわる八百屋「HACARI」です。都内の方はぜひ行ってみてください。
また、最近ではこだわりをもって生産する農家は市場出荷ではなく「直売」という手法を選択する人が増えています。個別の農園単位で配送も行なっているところはありますし(ちなみに私は柴海農園という千葉県印西市の農園から定期購買しています)、最近だと、ポケマル坂ノ途中食べチョクukkaなどのインターネットを介して素敵な農家を知り、その食材を購入できる機会が作られています。ぜひ見てみてください!

【方法②:「生活の時間」を確保する】
少し視点を広げた話になりますが、食事や睡眠にかける時間を「生活の時間」と呼ぶならば自分の暮らしの中の「生活の時間」の確保を大事にしてあげてください。
私自身、社会人かけだしの頃は毎日を仕事で忙しく過ごし、ほとんどの「生活」の時間を削って生きていたので、生活の時間が削りやすいことはよくわかっています。忙しいと食は雑に、便利に流れがちです。一方で、食事や睡眠を意識的にとる暮らしの方が結果的に生産性高く、心のゆとりのあるヘルシーな暮らしができると私自身実践して確信しています。ちょうど世の中も労働時間短縮の方に舵を切っているので、自分の生活のあり方をちょっとだけ見つめ直してみて欲しいです。そしてすこし自炊してみようと思ったら、上の基準で農産物を選んでみてください。

暮らしのありかたを見つめ直すヒントとしては、手前味噌ですがハタケトというメディアで発信しているのでよければぜひご覧ください。

ちなみに「生活の時間」に関してはこちらのはしかよこさんの書いたnoteもとっても素敵だったので合わせてぜひお読みください。

とても長くなったので、この辺りで終えたいと思います。
何か皆さんの視点の足しになったら嬉しい限りです。
最後までお付き合いくださりありがとうございました!

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<参考文献>
食品ロス削減関係参考資料(平成30年6月21日版、消費者庁消費者政策課)
平成27年度 食料・農業・農村白書(農林水産省)
スマート・テロワール : 農村消滅論からの大転換(2014年、松尾雅彦)

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