「薬のうっかり忘れ」を防止する為に、どんな指導ができるかを考える
薬剤師であれば必ず目にする課題が、患者さんの薬の飲み忘れ。飲み忘れと一言で表しても、月に1,2回ほど忘れてしまう人もいれば、処方された薬を半分以上残している人もいます。
患者さんに薬をしっかり続けてもらうために、薬剤師としてどのような働きかけができるのかを考えてみました。
普段の投薬時に実践していることを中心に書いています。
その飲み忘れはどっちのタイプ?
「薬が余っています」
患者さんが薬を飲み忘れると言ったとします。飲み忘れが発生する理由は、大きく2つに分けられると考えています。
1つめは、薬の重要性は理解しているけれど「うっかり」忘れてしまうタイプ。飲まないといけないと思っていても、つい飲み忘れてしまう。認知機能に障害がある方も、こちらに属します。
2つめは、薬は貰ったけれど「飲まなくても良いのではないか」と考えているタイプ。本人の病識、あるいは薬識が不十分であり、薬を飲む必要性を理解していない場合です。
ひとくくりに飲み忘れと考えるのではなく、薬が飲めない(飲まない)理由に応じて、飲み忘れの対策をとることが重要と考えています。
うっかり忘れの方には、どんな服薬指導が効果的なのか
この記事では、認知機能に問題がないけれど、薬をうっかり飲み忘れてしまうタイプの人について、効果的な服薬指導を考えてみます。
患者さんが病院に行き、薬局で薬を貰いました。このとき、患者さんの脳は「薬を飲む」ことを記憶します。これを心理学用語で『エンコーディング(符号化)』と言います。
そして、適切なタイミングになったときに「薬を飲まなければいけない」ことを思い出し、薬を服用する。エンコーディングで記憶した行動を思い出すことを『想起』と言います。
認知機能に問題がないにも関わらず、うっかり薬を忘れてしまうタイプについてはエンコーディング⇒想起のルーチンが上手くいっていないと考えられます。
エンコーディングと想起のルーチンをより強固にするために、こんなアドバイスはいかがでしょうか。
方法①トリガーセット
エンコーディングを効果的に行う方法として、『関連付け』があります。
新しく習慣にしたい行動を、すでに習慣化している行動に結びつけることで、定着率を上げることです。
例えばダイエットをするときに、「毎日朝起きて運動する」と目標を設定するよりも、「毎日朝の歯磨きの後に運動する」と目標を立てた方が、習慣化に成功しやすくなることが知られています。すでに習慣となっている『歯磨き』がトリガーとなって、その後の行動に移りやすくなるのです。
食事を毎日3食取っている人であれば、すでに『食事』が習慣化された行動になっています。服薬の習慣化は行いやすいと言えるでしょう。
問題は、
・1日2食など、欠食するタイミングと薬の服用時点が一致している場合
・クレメジンといった、食間服用の薬を服用する場合
です。
前者の場合は、用法を食事のタイミングと同じにすることで飲み忘れが改善する可能性があります。
後者の場合は、すでに行っている習慣に紐づけるように、薬の服用タイミングを決めると良いでしょう。食間服用であれば、「〇〇時ごろ、どんなことをしていますか?」などと質問することで、トリガーとなる行動を引き出せるかもしれません。
方法②接触回数の増加
エンコーディング⇒想起を強化するには、単純に対象との接触回数を増やすことも効果的です。
今までお会いした患者さんの中には、薬を飲む必要があると分かっているのに、もらった薬をタンスにしまい込んでしまう人もいました。
薬をどこに保管しているかを伺って、目につきやすい場所で保管するよう指導することも良いでしょう。そう考えると、お薬カレンダーは良い方法ですね。壁に掛けたら見やすいし。時計の下など、良く目にする場所に置くとさらに効果的です。
方法③グループ化
物事を習慣化するには、一人よりも複数人で協力した方が良いとされています。
一人だと、ついついサボってしまうことがあります。友人同士で協力すれば、「人と約束した」という気持ちが強く残るためでしょうか。エンコーディングが強化されやすいとされています。
家族がいれば、協力して服薬することができるかもしれません。
一人の場合は・・・?そんな時に利用したいのが、”みんなで協力して”習慣化を目指すアプリを利用すること。私のオススメは『みんチャレ』です。
5人1組でグループを作り、習慣化したい行動を達成できたら、他の皆に報告します。お互いにスタンプなどで励ましあえるので、服薬をうっかり忘れてしまう人にはピッタリです。
私も一時期利用していました。やはり薬の服用は習慣化しにくいのか、当時は「薬を毎日飲む」ことを目的としたグループもありました。スマホをよく利用されている方におすすめです。
さいごに
うっかり服薬を忘れてしまうタイプの人は、薬の有効性はしっかり理解しているのに、継続が苦手なことが多いです。
更に、薬を習慣化できないことは自分の能力が足りないせいだと感じてしまっている場合も見受けられます。
しかし、継続できるかどうかは、患者さんの能力だけで左右されるものではありません。大事なのは、服薬を継続しやすい仕組みづくりです。自分の記憶だけに頼らず、簡単に服薬を行える仕組みを作るようサポートする必要があります。
認知機能に不安がある方 / 病識が不十分な方への飲み忘れ対処法は、また次回にでも書きたいと思います。
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