妊娠中・授乳中に注意が必要な抗生剤とは

※この記事は医療従事者向けです※

小児科門前に勤めていて、相談を受けることが多い薬剤は、なんといっても「抗生剤」です。

最近は薬をインターネットで調べて、「この薬は授乳中に服用することは控えたほうが良いと書いているんですが・・・」と不安になって相談される方も多い。そりゃあね、自分の子供の健康に直結するかもしれないから不安だよね。

薬の添付文章では、妊娠中・授乳中に「飲んではいけない」と書いてある薬がほとんどですが、より詳細な研究では安全性が高いとされる薬も多い。そんなわけで今回は、小児科で注意が必要な抗生剤についてまとめます。

テトラサイクリン系抗生物質

テトラサイクリン系抗生物質は、細菌のタンパク質合成を阻害し、増殖を阻害する薬です。

商品名はミノマイシン、ビブラマイシン。

テトラサイクリン系は、妊娠中期から後期、乳児の歯牙形成期の服用で、歯牙着色やエナメル質の形成不全が起こることが知られています。

テトラサイクリン系抗生物質を歯の石灰化期に投与すると、歯牙着色を起こす。歯の石灰化は、乳歯では妊娠4ヶ月~生後11ヶ月頃まで起こり、永久歯では8歳頃まで継続する。そのため、歯が完全に石灰化するまで(8歳頃)の間に投与すると歯牙着色の可能性があるため、テトラサイクリン系抗生物質は、他の薬剤が使用できないか無効の場合のみ使用する。石灰化が終了した年長児では着色しないが、いったん生じた着色は一生不変である。

福岡県薬剤師会 質疑応答より抜粋

作用機序は、テトラサイクリン系薬と、石灰化中の歯のCaがキレート形成を起こし、歯に沈着するため。

総投与量が3g以上あるいは投与期間が10日以上になると着色が起こりやすくなるが、特に問題となるのは総投与量である。

福岡県薬剤師会 質疑応答より抜粋

いずれにせよ、使用は他の抗生剤が無効の場合にとどめ、使用も短期間が良いでしょう。

母乳移行率は悪いですが、ミノサイクリンでは母乳が黒く変色する例(2)も報告されているため注意が必要。

ニューキノロン系抗生物質

細菌の増殖に必要な酵素を阻害して、増殖を抑える薬。

商品名は、ジェニナック、アベロックス、オゼックス、シプロキサンなど。

もともと、妊婦への使用は禁忌です。

授乳婦への投与は禁忌ではなく、「授乳しないことが望ましい」とされています。しかし、他の抗生物質に比べ、母乳への以降率が高いのがこの薬。母乳を介して薬を服用することにより、乳児の関節障害のリスクも報告されています。

抗生剤は最低限に留め、有益性をみながら

妊娠中は膀胱炎、腎盂腎炎が起こりやすいため、どうしても抗生剤の処方が必要になるケースがあります。

そんなときに「抗生剤は危ないと聞いた・・・」と言われる方もいらっしゃいます。しかし、妊娠中の尿路感染症は早産や低体重児の出産と相関があると考えられています(3)。

テトラサイクリン系とニューキノロン系の使用は避けるべき。しかしそれ以外の抗生剤であれば、「まずは感染症を治すことがお母さんと子供のためになる」と伝え、服用への不安を払拭してあげることが大切です。

参考文献

1)テトラサイクリン系抗生物質による歯牙着色の機序と、投与量・投与期間の関係は?(薬局) 福岡県薬剤師会
2)Hunt MJ, et al. : Black breast milk due to minocycline therapy. Br J Dermatol, 134 (5) : 943-944, 1996
3) Banhidy F, et al. : Pregnancy complications and birth outcomes of pregnant woman with urinary tract infections and related drug treatments. Scand J Infect Dis, 39(5) : 390-397, 2007





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