見出し画像

いつも「眠剤が足りない」という認知症患者さんへの対処

※この記事は医療従事者向けです。
※個人の特定を避けるためフェイクを入れて書いています。念のため。

眠剤を貰いに来すぎる患者さんがいる。今回は対処法について考えてみました。

眠剤が足りない!?いつも早く受診するTさん

最近の悩みは、正しく眠剤を服用できていない疑いのある患者さん。仮にTさんとしておきましょう。

高齢で、一人暮らしの方です。入眠が遅く、寝床に入っても3時間以上寝付けないことがお悩み。現在は、ゾルピデム5㎎半錠を毎日服用されています。

ところが、1か月分の薬をお渡ししても、1週間や2週間後に来局されます。

どうやら認知機能の低下があるようで、何錠飲んだのか覚えておらず、薬を貰った事も忘れてしまう様子。ゾルピデムを渡して1週間後に、「眠剤が処方されたはずなのに、薬を貰っていない!」と薬局で興奮されることもありました。

「眠剤が無いと寝れない」と訴える高齢者は多いものです。しかし高齢者が服用することで、転倒による骨折の危険もあります。

Tさんが正しく眠剤を服用できるよう、薬局で取り組んだことを紹介します。

       

薬が足りなくなるのは、飲み過ぎが原因?

「いつも眠剤が足りなくなる」「飲んだ数を覚えていない」

こんなときに薬剤師が最初に疑うのは、薬の過量服用ではないでしょうか。

ゾルピデムの添付文章で紹介されている用量は、最高1日1回10㎎。高齢者は運動失調が起こりやすいため、1回5㎎から投与を開始し、なるべく少量で服用することが望ましいとされています。

    

最初は、Tさんは薬を飲み過ぎており、薬が足りなくなっているのではないかと考えていました。

まず初めに行ったことは、一包化したゾルピデムに日付を印字すること。「用法」「日付」を印字してお渡ししましたが、効果はありませんでした。1か月以上薬があるはずなのに、知らないうちに日付がずれてしまったと伺いました。

お薬カレンダーを使うよう勧めましたが、セットするのが面倒くさいので要らないとのこと(なんだそりゃ)。

    

どうしようか途方に暮れていたら、たまたまTさんの息子さんが来局してくださり、お話を聞く機会がありました。

「お薬は渡しているはずなのに、眠剤が足りないと言って来局されるんです。Tさんはお一人暮らしですが、どんな風にお薬を飲まれているのでしょうか?」

「前に家に行ったときは、薬がベッドの下に沢山散らばっていて驚きました。透明な袋を破るときに、ハサミで一気に切ってしまうようです。

な、なにーーーっ!!

と言うことで、Tさんが薬が足りないと来局される理由は薬の飲みすぎではありませんでした。一包化した薬がすべて連なっているせいで、切りすぎて落下してしまうことが原因のようです。

      

しっかり飲んでもらうために行った工夫

Tさんの状況を考えると、以下の通り

・半錠なので、分割するときに分包する必要がある
・しかし、一包化が連結していると切りすぎて落下してしまう
・落下した薬を、普段どうされているのかは不明
・指先が不自由なため、シートから薬の取り出しができない
・5㎎錠に増量し、ヒートのままお渡しすることは難しい

以上の事を考えて、3つの工夫をしました。

①分包品を一つずつちぎってお渡しする

まずは一包化した薬を、1包ずつちぎって薬袋に入れ、お渡しするようにしました。

当然ハサミで切る際に切りすぎることが無いので、落下する可能性は低くなります。

②本人に薬が何日まで持つのかを薬袋に書いてもらう

本人の手で、薬袋にサインペンで『〇月〇日までのお薬』と書いてもらうようにしました。

当然投薬時には「来月の〇日まで薬がありますよ」とお伝えしていますが、本人が帰宅すると忘れてしまう様子。

そこで、ご自身の手で何日までの薬をもらったのか、書いてもらうことにしました。薬袋は捨てずに、必ず保管するように説明。(赤ペンで『捨てない!!』とも書きました)。

自分で書いたことによって、以前よりも薬がどれだけ持つのかを覚えてくださったように感じます。薬が足りないと来局される際も、「袋には僕の文字で『〇月〇日まで』って書いてるから、自分が失くしたのかな?」と仰るようになりました。

③生活習慣の改善

そもそも眠剤に頼らないようにするための工夫として、生活指導に力を入れました。

・やることがないからと言って、寝床で長時間過ごさない
・日中の活動量を増やすために、散歩をする
・夕食時のお酒を控える
・昼寝をする場合は15時以降は控える
・睡眠時間だけで不眠と判断せず、自分の体調が安定していれば気にしすぎることは無い

以上のことを根気よくお伝えしました。

ADLもあまりよくないため、どれだけ効果があるかはわかりません。しかし、睡眠改善の一助になるといいなと思っています。

         

おわりに

以上が、私が所属する薬局で行った工夫です(かなりフェイクを入れていますが・・・)。

高齢者の服薬アドヒアランス改善に悩む薬剤師さんは多いことでしょう。私も日々できることを模索しています。

薬が足りないというと、過量服用ばかりに目を向けてしまいますが、こんなケースもあるよ!ということで情報共有しました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?