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スケートマダムに追いつきたい!

これは、
運動不足のOLが、大人になってから
フィギュアスケートをはじめるお話。

2024年春、ある日の仕事中。

知らない電話番号が
私のケータイをブルブルと震わせた。

そして、その翌月、
突然にわたしのスケートライフは幕を開けた。

私の名前は、なる
24歳。社会人3年目。週1フィギュアスケート。

スケートは初心者で、平日は都内OL。

仕事は超絶リモートで、
気を抜くと、万歩計「8歩」
なんて日も珍しくない。

仕事終わりは、おしりが椅子のかたちに沿いすぎて
割れ目がなくなるかと思う。

そんな毎日からでも、
フィギュアスケート、始められるみたいです(笑)

さて、話を戻して、
仕事中にかかってきた1本の電話。
ここから、私のスケート生活が始まった。

この電話の経緯を話すには
約3年前、大学時代まで
さかのぼることになる。

3年越しに電話がかかってきたことを人に話すと
「そんなことある?」と面白がられる。

そして、だから習い始めたのだと言うと
「え、断らなかったの?」と驚かれる。
(ちょっと感化される人もでてくる。なんか…私も頑張るねっ)

たしかに、それくらい
スポーツとは距離ができた生活を送っているし
スケートってなかなかにハードルが高いと思う。

なのに、私はうそみたいに自信満々。
本当に調子のいい性格。

まあチョコザップも行ってたし?
いけるっしょ!
(月1いけばいい方だったくせにね)

そして、初レッスンの日がやってくる。

何もわかっていないというのは、本当に強い。

私は「ジャンプかっこいい、出来るって言いたい」
という、うすーい理由で
1年以内にジャンプをすると勝手に決めていた。

私のスケートのレベルは、
ただ前に進むことはできる。
それ以上でも以下でもなく、
止まり方もきちんとわかっていない、だった。

出欠を取ると、いつものことだというように
マダムたちは颯爽と列を作り、
そして音楽が始まった。

3人くらいずつが横に並び、リズムに合わせて
まったく原理がわからないステップみたいなものを繰り出していく。

どんどん私の前から、
マダムたちが滑り去っていく。
私の番だ。

終わったー。
社会人にして、こんなにも
窮地に立たされることは初めてかもしれない。

と思っていると、流石にコーチが来てくれた。

よく考えればあたりまえだが、
100人のウェイティングを経てやっと
私の枠が空いたのだから、
もちろん私が絶対的に初心者で下手なのだ。

んんん…はやくも絶望の予感…



レッスン終わり。
足ぷるっぷるの私にマダムたちが近寄ってきた。

マダムたちが口をそろえて
言うことには…

スケートをはじめたその日に
3人から同じことを言われるとは、驚いた。

でも確かに、その日のレッスンでも
借り靴を履いているのは私一人で、
他全員がマイシューズを持っているみたいだった。

変な型がついていない靴で滑ることが
相当に大切らしい。
スケートは、思っているよりも繊細な
スポーツなのかもしれないと、気がついた。

はじめに「10万」と言われた時、
給料明細が頭をよぎり、言葉を失った。

すると近くにいたおじさんが
それを哀れに思ったのか、
「でもまだすぐに決めなくてもいいと思うよ」
と言った。

「その学生さんだと大変だと思うしね」
「いや、社会人なんです」
確かに中学生並みの格好をしていたけれど。

マダムも憐れんで、
「初心者用の靴なら3万くらいのものもあるから・・・」と言った。

それを買おうと決めた。

選手ともなると、
さらに刃を付ける位置や形も
ひとりひとりに合わせてこだわるそう。

奥深しフィギュアスケート…

毎週レッスンを受けていると
リモートワークだけではなかったであろう
人との出会い、知らなかった世界との出会いがあるなと感じる。

そして、その中で、
スケートがうまくなりたい。
もう一段深く、そう思った。

スケートリンクには、
それぞれクラブチームがあり、所属選手がいる。

5歳くらいのミニチュアみたいな
スケート靴をはいた小さい子から
大学生くらいの子まで、リンクの中央スペースで
ジャンプやスピンなどの技を練習している。

そうした選手の人たちや、私のようにレッスンを受けている人、部活の練習かなという人、ホッケーの人、一般の友人グループや親子など、
スケートリンクはいつも人であふれている。

しかし、そんなリンクから、
人がいなくなる瞬間がある。

定期的に行われる、製氷作業の時間だ。

そして、ごくたまに製氷作業の後に
選手たちによるエキシビジョンが行われる。

製氷したてのつるつるの氷の上に、
選手がその感触を確かめるように刃を滑らす。
そして、音楽が始まる。

私がはじめて見たのは、
小学6年生の女の子による演技だった。

まだまだ成長するであろう小柄な体で、
誰もいない広いリンクを目いっぱい使って、
彼女は舞い始めた。

曲は、Fight songだった。

一つ一つの動きもダンスもスピンもジャンプも、
すべてが音にはまって、
リンク全体が彼女のファイトソングでいっぱいになった。

生まれて初めて、生で近くで
フィギュア・スケートを見て、
この子は氷の上でなんて自由なんだろうと思った。

もう一段深く、ちゃんと
スケートがうまくなりたいと思った。

今週も、私は
マイシューズを背負ってリンクへと向かう。

ジャンプという目標を目指して、
もっとあの子みたいに、自由になるまで、
レベル上げを楽しみたい。

まずは、片ひょうたんを完璧にする。
それができたら、マダムが着ているような
風をたくさん含むスカートを買おうと思う。

私がマダムたちに追いつく日はまだ遠い。

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