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巨大建築くらべ(答え)

唐突ですが、東武ワールドスクウェアが大好きです。

テーマパークというものにご縁のなかった自分ですが、若い頃に栃木県日光市にあるこの施設を訪れたとき、「ここは私の脳内か?」と思うほど自分の空想癖を刺激され、中毒になりました。園内には世界中の名建築がずらりと並び、鳥になったように俯瞰できるのです。まさに鳥瞰図。しかも、すべて1/25の縮尺で展示されているので、比べることができます。初めて来園したのは、9.11テロ事件(2001年)が起きる前でした。縮尺なのに、ニューヨークのワールドトレードセンターが実家よりも遥かに大きくてびっくりしたのを覚えています。

一方で、強烈な印象として残っているのは、日本の木造建築がとても小さく見えたことです。アンコール・ワットは姫路城よりもずっと大きくて、カンボジア国旗のデザインである意味がよくわかります。人の模型もたくさんあって賑やかです。観光客で賑わうアンコール遺跡を観光客である私が見つめる構図に、万華鏡に迷い込んだような錯覚を覚えておかしくなりそうです。松ぼっくりのようなトゲトゲした尖塔と無数の人の上に寝転んだら、どんな大怪我をするだろうと破滅的な衝動にも駆られます。その次にあったサン・ピエトロ大聖堂はさらに巨大で、そこだけ縮尺が間違っているのではないかと思うほどでした。その印象があまりに強かったため、十年後に実際にバチカンの大聖堂を訪れたとき、東武ワールドスクウェアで一度びっくりしているからもう驚かないという驚くべき理由で、私はサッとその場を後にしました。

申し訳ない気持ちにもなる

これとは反対に、実物を見て偉大さがわかった建物がエジプトのピラミッドでした。かつて、クフ王のピラミッドは四千年近く、ずっと世界で一番高い建物でした。これだけでも、驚くべきことなのですが、同規模のカフラー王のピラミッドもすぐ隣に並んでいるのに面食らいました。模型では、ただの四角錐なのですが、実物はずっと違うのです。詩人みたいに上手に表現できないのが歯がゆいです。とにかく、空間を占める威圧感が凄いのです。ほっそり縦長の教会建築とは異なり、どっしりして容積がとてつもないです。それ以上に言葉を失うのが、中までみっちりと石が詰まっているという事実です。途方もない石の切り出しと積み上げを思うと、目眩がしそうです。くどいようですが、それがふたつ並んでいるのです。ふもとに立つと、それはもはや直線ではなく、大きな円弧でした。天球図を見るような感覚に近いかもしれません。上から見るものではなく、下から鑑賞するものだと感じました。

大好きな東武ワールドスクウェアですが、そんなわけで、ピラミッドとスフィンクスは割とあっさり通り過ぎます。ああ、あるある。雪が降っても頑張ってね。そんな気持ちでしょうか。先だって、ピラミッドと世界の建造物を較べた絵を掲載したのは、日光のあの極上の空間を自分で再現してみたくなったからです。もう、ずいぶん長い間行っていません。日光もピラミッドも。さて、比較した建物を高い順にご紹介します。

エアバスA380以外は、数字は高さを示します

160m:リンカーン大聖堂(イギリス、1300年ごろ)
    この聖堂が建つまで、ピラミッドは四千年近く世界一高い建造物だった。
    現在、木造だった尖塔は失われているが、それでも83mある。
157m:ケルン大聖堂(ドイツ、1880年)
    完成までに600年を費やしたゴシック建築の金字塔。
146m:クフ王のピラミッド(エジプト、紀元前2600年ごろ)
    世界七不思議のうち、唯一現存する。上端が欠けた現在の高さは138m。
    体積は約260万㎥で、大仙陵古墳(仁徳天皇陵、約210万㎥)より多い。
143m:カフラー王のピラミッド(エジプト、紀元前2550年ごろ)
    クフ王のピラミッドの隣にある。台地がやや高いため、大きく見える。
136m:サン・ピエトロ大聖堂(バチカン、1612年)
    カトリックの総本山だが、広場の中心にエジプトのオベリスクが立つ。
134m:ファロスの灯台(エジプト、紀元前300年ごろ)
    かつて、世界七不思議のひとつだったが、8世紀に地震で倒壊した。
120m:牛久大仏(日本、1993年、鉄骨あり)
    びっくりサイズ。茨城県の防衛基地という噂も。
93m:自由の女神(アメリカ、1886年、鉄骨あり)
    行きたい。
76m:秦の始皇帝陵(中国、紀元前200年ごろ)
    中国最大級の墳墓。体積はクフのピラミッドを上回るおよそ300万㎥。
73m:タージ・マハル(インド、1653年)
    ムガール朝イスラーム建築の最高傑作。世界一美しい墓とも。
65m:メンカウラー王のピラミッド(エジプト、紀元前2500年ごろ)
    ギザの三大ピラミッドのうち、一番小さい。
65m:太陽のピラミッド(メキシコ、200年ごろ)
    テオティワカンに残るアメリカ大陸最大のピラミッド。
65m:アンコール・ワット(カンボジア、1200年ごろ)
    行きたい。
65m:国会議事堂(日本、1936年、鉄骨あり)
    中にいる人たちも含めてイマイチ。完成当時、日本でもっとも高かった。
58m:寛永の江戸城天守閣(日本、1638年)
    完成から19年後の明暦の大火で焼失。日本の城郭史上、最大の建造物。
55m:アヤ・ソフィア大聖堂(トルコ、537年)
    はじめ、キリスト教聖堂として完成し、その後モスクに改造される。
49m:東大寺大仏殿(日本、1709年)
    現在の建物は江戸時代再建の三代目。先代より間口が狭く、やや不恰好。
43m:パンテオン(イタリア、125年ごろ)
    古代ローマ建築の傑作のひとつ。目の前にやっぱりオベリスクがある。
40m:カルナク神殿第一塔門(エジプト、紀元前400年ごろ)
    現存するエジプト最大の神殿塔門。高さは推定。
34m:法隆寺五重塔(日本、700年ごろ)
    基壇を含めた高さ。近世以前では、東寺の五重塔(55m)が日本最大。
32m:ラテラン・オベリスク(イタリア、紀元前1400年ごろ)
    もとはエジプトのカルナク神殿にあった。現存するオベリスクで最大。
30m:ウルのジッグラト(イラク、紀元前2050年ごろ)
    月神ナンナに捧げられた神殿。紀元前6世紀に再建。
20m:ギザの大スフィンクス(エジプト、紀元前2550年ごろ)
    ピラミッドの前に座る人頭獣身のアレ。
20m:ワールドトレードセンタービルの模型(日本、1993年、鉄骨あり?)
    東武ワールドスクウェアにある。スフィンクスと同じ大きさ。
14m:パルテノン神殿(ギリシャ、紀元前430年ごろ)
    女神アテーナーの主神殿。立派な印象と違い、そんなに大きくない。

皆さんはいくつご存知でしたか?10わかったら、立派だと思います。当初、世界一高いドバイのブルジュ・ハリーファ(828m)とも比べようと試みましたが、画面に収まりきらないので諦めました。牛久大仏もそうですが、巨大な現代建造物と比べるのは酷かもしれません。それでも、重機のない時代に鉄骨無しで建てられた建物には、想像力を掻き立てられ、憧れと同時に誇りさえ感じます。大阪府堺市の大仙陵古墳は高さは39.8メートルですが、この画面の倍の範囲に横たわるほど巨大なので割愛しましたが、世界最大級の墳墓と言えるでしょう。ちなみに、最後の旧世代建造物ともいえるサグラダ・ファミリア(スペイン、バルセロナ)は、途中から鉄骨の力は借りるものの、数年後の完成時には170メートルの高さになるそうですよ。

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