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事件はGoogle Mapで起こってるんだ!

「さて、ふつうの探偵物ならこのあたりでいよいよ現地に飛ぶわけですが…。われわれはデジタル歴史探偵ですから、ここで現地に【飛ばない】! はい、それではストリートビューで見てみましょう」

竹中朗さんの『デジタル歴史探訪術入門・日本編』を聴講しました。巷間を騒がせた謎の巨大前方後円墳(?)を端緒に、条里、山城、廃寺、御土居、生麦事件「現場」、芝浜(落語で有名な)、吉原、塹壕など、現存しない(あるいは忘れられた)歴史の痕跡を、さまざまなデジタルアーカイブを駆使して発掘(幻視にも近い)していく試み。

Google Mapをはじめ、地理院地図、空中写真サービスなど複数の地図・地理アーカイブを組み合わせ、そこに文献学や景観考古学などの知見をかけ合わせることで、今は何も見えない場所に秘められた歴史が「見えてくる」プロセスは非常に刺激的。

——と書くと、どうしてもカタくなってしまいますが、実際のところは講座でも連呼されていた「デジタル歴史探偵」というのが、この楽しさを伝えるには正しいんじゃないかと。

講座の冒頭、なぜか明智小五郎風のプロローグが語られたのですが(竹中さんは編集者なのでした)、そのストーリーに沿って(というか勝手に脳内補完しつつ)さまざまな地理的痕跡に宿る意味と歴史がつまびらかにされていくのを、その推理手腕の見事さに感嘆の声をあげつつ聴講するという、ある意味で趣味の極北ともいえる世界を楽しませていただいたのでした。

尚、蛇足ですが、このつかみの探偵小説プロットもじつは確信犯的で、好事家ならジョセフィン・ティ『時の娘』や高木彬光『成吉思汗の秘密』がすぐに思い浮かぶわけです。つまり、ベッド・ディティクティブならぬ「デスクトップ・ディティクティブ」なんですね。

というわけで、『デジタル歴史探訪術入門・日本編』。今回もとてもエキサイティングでした。歴史の痕跡をデジタルというツールを使って精緻に辿ること。そしてそれを読み解いていく複合的な知的作業=遊びの面白さ。あとGoogle Earthも更新(撮影)タイミングでその痕跡が消えてしまうことがある、というのも示唆的でした。膨大なデジタルアーカイブもまた(いや、むしろ)はかない痕跡であることには変わりないのだ。


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