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伊部来訪記

今回の岡山出張、打ち合わせ終了後、いつもよりは体力的に余裕があったので、行きの新幹線でテキトーに当たりをつけておいた小旅行を敢行してみました。ちなみに、出立そうそうイヤホンが断線し、途中ネットにもあまりつながらなかったので、音からも情報からもむしろ自由だった。

土曜は倉敷泊。翌日は岡山に戻り、備前焼の里と呼ばれる伊部(いんべ)まで。岡山から伊部までは赤穂線で40分ほどかかり、川を渡るたび景色はのどかになっていく。乗り合わせた中学生たちの会話を聞くともなしに聞きながら、ゴトゴトと電車に揺られていると、夢のような既視感に包まれる。この感覚が旅っぽい。はじめて訪れる備前地方は山と山が近く、その山裾に窯の煙突が並んでいる光景は印象的だった。

伊部駅を降り、案内所で教えられたとおりに歩いていくと、窯元のギャラリーや陶商の店が軒を連ねる通りに行き当たる。ちょうど台風が近づいていたせいか、僕が歩いていた時間帯は人通りはほとんどなかった。店舗の奥に窯を構えているところもあり、タイミングが合えば気軽に見学させてくれる。登り窯の隣には住まいがあったりして、家々の裏手には焼成に使う松割木が積まれている。

通りはそれほど広くなく、観光地っぽさも倉敷に比べたら格段に薄い。でもあたりまえだけど備前焼だけはたっぷり見られる。飾り気のない棚の上に無造作に置かれていたり、価格別に並べられていたり、気鋭の作家物だけを扱うお店があったりで、圧倒的な物量への戸惑いが消えると、だんだん面白さがつかめてくる。お店の人との会話やちょっとしたかけひきも楽しい(いいものをオマケしてもらうには呼吸が大事)。まったく飽きない。

備前焼の知識もなく、ふと思いつきで立ち寄ったのだけど、野趣や枯淡と称される理由も、ある程度まとまった量にふれると自然と分かってくる。それに、土地の匂いや空気を感じながら歩きまわることで(といってもそれほど広大なエリアではない)じわじわと伝わってくるものがある。ネットにつながりながらも、現地に着いたらその機能は使わない(というか役に立たない)。いきあたりばったりの勘と集中力まかせの小旅行。なかなか得難い体験でした。

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