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小説家になろう大変革!?サービス開始20周年目は新章の始まりか、終わりの始まりか

『小説家になろう』、それは日本最大のWeb小説投稿サイトのことだ。始まりは個人が開発したサイトであり法人化した今でも従業員30人にも満たない会社が運営している。

小説投稿サイトといえば、KADOKAWAの『カクヨム』やDeNA(2021年にメディアドゥに株式譲渡済)の『エブリスタ』など大手企業が運営するサイトが多数存在しているが、なろうはそれらを押し退けて訪問者数でトップに君臨し続けている。その影響力は計り知れず、各シーズンに制作される日本のTVアニメのうちの2割は『小説家になろう』発と言っても過言ではない。事実2024年3月現在放映中のアニメをざっと調べてみたところ約60本中15本がなろう発のタイトルであった。中でも、『シャングリラ・フロンティア』や『薬屋のひとりごと』は一般の人でも名前を聞いたことのある作品だろう。

そんな『小説家になろう』であるが、今年は20周年の記念すべき年となる。実際のサービス開始は2004年4月2日、あと1ヶ月もしないうちに記念日が訪れる。実にめでたい。そしてその前祝いと言わんばかりに、3/2には『小説家になろう』が提供している『なろうラジオ』のパーソナリティをMCに、またなろう作品とご縁のある声優さんと作家さんをゲストに迎えて無料の20周年記念イベントが東京浜松町のニューピアホールで開催された。

私も運良くそのイベントに当選したため、当日は会場に赴いた。当日の様子については今回の記事の主旨ではないため省略するが、そのイベントの中で、個人的に見逃すことのできない2つの大きな事実が判明したのである。

イベントで明らかになった衝撃の事実

まず1つ目。イベントでは、MCとゲストの誰が一番なろうに詳しいかを決める『なろう王クイズ』なる企画があり、クイズの出題と回答を述べる役割として、『小説家になろう』を運営するヒナプロジェクトの社長が登壇した。ヒナプロジェクトの社長といえば、創業メンバーでもある梅崎さん、平井さんであり、外部のインタビューでは専ら平井さんが対応されていたので、今回のイベントでも当然平井さんが登壇されると予想していた。

しかし実際に登壇したのは青山侑矢さんであった。その瞬間「え、知らない!!?」と内心大きく動揺し、イベント終了後に急いでヒナプロジェクトのコーポレートサイトを確認することになった。その結果、2024/2/26のプレスリリースで、梅崎さんと平井さんは退任され、代表取締役に青山侑矢さん、取締役に塩川和就さんが就任されたと発表されていた。

創業メンバーの交代はいずれ起きうるにしても、いきなり全員が経営から身を引くというケースはあまり聞いたことがない。まして梅崎さん、平井さんともにまだお若いはずである。なぜこのような刷新が行われたのか?内部昇格なのか?Google検索にて新しく役員となったお二人の名前を検索するも、ご本人と思しき情報は無く謎は深まるばかりであった。

併せてもう1つ。イベントの最後に今後のなろうについての短めのプレゼンがあった。その中で、なろうのコンセプトが新しくなること、また今後の施策として利益還元をしていくこと、作者と読者の相互作用の仕組みを強化することが発表された。詳しくは後日公式に発表するとのことであったが、利益還元についてはヒナプロジェクトの決算公告までみた上で無理だろうと個人的に結論づけていた施策だったため、特に驚きが大きかった。

なぜ無理なのか?『小説家になろう』は、利益還元を行なっている競合のカクヨムやアルファポリスのように出版事業を持たず、出版社と作者の取次時の手数料も設定しておらず、広告に依存した収益構造である。このためサイトの規模と比して考えられないほど売上は小さく利益も少ない。公開されている直近の官報によると年間の純利益は約1億3000万(2021年度)。ここから更に利益還元しようものなら、1人あたりの還元率を競合よりもはるかに低く設定したところで赤字になるだろう。そして今もその状況は変わったようには見えない。だからこそ、利益還元などという施策が実行のテーブルに乗ったことは、青天の霹靂のようなものであった。

ここ最近の小説家になろうの異常さに気づく

『小説家になろう』は、大半の読者にとって良くも悪くもランキングが全てである。作者にとっては辛い話であるが、ランキングに乗らない作品はまるでそこに存在しないが如く読まれない。月間20億PVもあるのだからとつい期待してしまうが、そんな期待は掲載した翌日には木っ端微塵に砕かれる。それほどランキングに偏重しているということは、その影響範囲の大きさと予測のつかなさゆえに容易に手を加えることができない聖域であることを意味する。

しかし『小説家になろう』運営は、ここ半年のうちに2回もランキングに影響を及ぼす変更を加えている。1つは「異世界転生・転移」タグを有する作品のランキング掲載ロジックの変更、そしてもう1つはUI変更と注目度ランキングの新設である。これははっきり言って異常である。なろうの歴史の中でランキングに影響するような施策は年1回どころか数年に1回のペースでしか実施されてこなかった。事実として、直近1年を除けばランキングに影響する変更は2020年3月の評価ポイントの入力UIと採点基準の見直しにまで遡る。

更に、数年前に機能停止したダウンロード機能。実はサードパーティ製アプリでは、停止して以降もこの機能の提供を続けていた。しかし今年に入ってから行われたUI変更のタイミングでついにサードパーティ製アプリでも使えなくなってしまったのだ(おそらくUI変更の副作用)。その結果、一部のヘビーユーザーが愛用している『なろうリーダー』からダウンロード機能が消えてしまい、なぜか「小説家になろう」運営に問い合わせがいくという笑えない出来事があった。それに対する運営からの説明には、「ダウンロード機能は何らかの不正によるものであり厳しく対処する」との記述があり、今まで放任していた割にはかなり温度感の高い反応だなと感じたものである。

それだけではない。今月にはユーザーページのリニューアルも予定されており、事前のアナウンスによれば長年作者の間では課題とされていた予約投稿の設定時間を1時間刻みではなく10分刻みでできるようになるなど、大きめの改善が複数含まれている。そして先述の通り、この先の収益還元や作者と読者の相互作用強化の取り組みまで発表されているわけだ。もはや、ヒナプロジェクト内部で目まぐるしい変化が起きていることは疑いの余地がないと言えるのではないか。

これまでの小説家になろうを振り返る

ここで『小説家になろう』運営についておさらいしてみよう。今でこそ『小説家になろう』は巨大なコンテンツビジネスの源泉と言えるが、運営がそれを企図してここまで成長を続けてきたかは疑わしい。元代表取締役の平井氏のインタビュー記事を信ずるなら、むしろ「結果的にそうなっただけ」との認識をお持ちのように感じられる。その証拠に、過去のどのインタビューを読んでも「『小説家になろう』は場の提供に徹すること」をサイトの運営方針としていることが窺える。

読者の中にはランキングの中の気に入らない作品をあげつらって、運営が特定作品を優遇しているなどと悪様に言う人もいる。しかし、それはあくまで根拠のない印象論に過ぎず、実態を知れば知るほど運営は作品1つ1つへの関与は避けているのである。

ところで『小説家になろう』は月間20億PVの日本有数の巨大サイトであり、その維持には熟練のエンジニアが必要不可欠だ。しかし、その採用については積極的だったとお世辞にも言えない。たまにエンジニアの求人情報がヒナプロジェクトのコーポレートサイトや、求人サイトを通じて掲出されるが、競合の大手企業と比べて給与水準は低く、これでは優秀なエンジニアを採用することはできないだろうと嘆息したものである。

実際、『小説家になろう』は開発者向けのAPIを無償で提供しているが、本来なら取得できてはいけないデータが1年ほどの間取得できる状態であったし、1万件を超える評価件数の投稿者の評価一覧を開こうとすると、画面の表示が著しく遅くなる問題が、報告したあともずっと修正されずに現在まで残ったままだ。

そういったこともあって、『小説家になろう』の開発チームは、現状維持に手一杯で稀にそこそこ大きめの機能改善するあたりが限界だったろうと考えていた。

交代劇の裏側を推理する

では、そんな状態の『小説家になろう』にもかかわらず、どうして突然このような大規模かつ頻繁な機能改善が行えるようになったのかという疑問が湧く。自社でエンジニアをろくに採用できないのだから、これはもう外部から送り込まれてきたと考えるしかない。そこで、例の役員総入れ替えの話に戻る。

もしも役員総入れ替えが、外部の企業やファンドの主導の元に行われたとするならば、開発チームにエンジニアが補充されることもあるかもしれない。イーロン・マスクがTwitterを買収した直後には、テスラに所属するエンジニアたちがTwitterに送り込まれたことは記憶に新しいだろうし、そういった経緯なら創業メンバーの2人が同時に退任しても納得できるというものである。

実際この報に接した中には、「中国あるいは韓国企業による買収か?」といった憶測を口にする人たちもいた。

ただし私自身は外資という可能性はおろか、日本国内の上場企業やファンドの可能性は低いと見ている。ヒナプロジェクトと言えば、『小説家になろう』ばかりが脚光を浴びがちだが、その他に『ノクターンノベルス』のような官能小説投稿サイトを運営していたり、2023年には『onaco』というアダルトイラスト共有を目的としたSNSをリリースしているのだ(余談だが、この『onaco』は今までのヒナプロジェクトのサイトとは違い、かなりモダンな技術を使って作られているようである)。

このような過激なコンテンツも投稿可能なサービスを運営している以上、上場企業や上場を目的としているファンドは手を出しにくい。もちろんヒナプロジェクトを手に入れた後、そのようなサービスを閉鎖するといった選択肢もあるだろうが、それを創業メンバーが許すとは考えにくいのである。そして同様の理由で、中国や韓国の企業も手を出し辛いのではないかと思う。

その上ヒナプロジェクトの業績や資産を鑑み、買収には50-100億はかかるという点も加味しなければならない。

過激なコンテンツを扱う事業にも理解があり、50-100億の買収を行え、エンジニアを多く抱えている団体となれば、もはや私の頭の中に挙がるのはDMMぐらいである。ただ、DMMは過去にもいくつかのスタートアップを買収しその都度コーポレートで公表しているので、仮にDMMがヒナプロジェクトを買収していたならとっくにプレスリリースが出ているだろうと思える。元VCの知り合いとも議論してみたが、そこでは非上場のオーナー企業による買収の可能性も挙がっていた。ここ1週間、何の発表も無いところ見ると、私もその可能性が一番高いのかなと思い始めている。

おわりに

以上のように、個人がどれだけ情報を集め推測したところで、答えは出てこない。

ただし、今『小説家になろう』が大きく変わろうとしている、変わるために必要な体制も整えていることだけは紛れもない事実である。諸手を挙げて歓迎したいところであるが、ランキングページのUI変更ではネガティブな反応も多かったので、今後の機能改修についてもいささか不安はある。

また、ユーザーへの利益還元をやるならば、広告収入だけでは立ち行かないはずなので、新たな収入源も創り出さなければならないはずだが、それについての情報はまだ何も無いとなれば、既存のユーザーからは心配の声が上がり始めるのは予想できることだろう。

今後のヒナプロジェクトのスケジュールとしては、3/29に『なろうラジオ』のパーソナリティによる本社ロケ公開、4/2には20周年記念日となるので、遅くともこのどちらかの日には新情報が入ってくるのではないかと個人的には期待しているところである。


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