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執筆者と深読む「プロジェクトシンエヴァ」解題編#4_目次をなぞる④

今回も目次を扱っています。
7章 プロジェクト総括 庵野秀明 Ver1.00(2023年1月20日版)について。

目次抜粋 p6~p7

ずっと「普通の展開」

ここまで以下のように構成してきました。

①プロジェクト遂行結果(1章) → ②遂行結果の内訳説明(2章) → ③この遂行結果になった理由の自己分析(3章) →④遂行結果に対する評価(4章・6章)

報告書として「普通の展開」を心がけたため、このような構成になったわけです。
「普通」を意識的に破壊するならば別ですが、「普通」をやるのであれば次が「総括」になるのは機械的に自動決定となります。
何を記録したい、どんな内容にしたい以前に、そうならざるをえません。
報告書という文化に、報告書を作り洗練させてきた人間側に、報告書を読み手として接してきた人間側にその展開、そのリズムが組み込まれているためです。
それをしないと不自然で気持ち悪いことになります。

総括って?

「普通の展開」的要請から、この辺りのタイミングで「総括」の章が入らざるを得ないことは報告書形式にすることが決まったと同時に決定しました。
そしてそれは、さらに同時に大きな問題を生みます。
すなわち、「総括」って何をすること?

辞書で調べると大体こんな感じです。

総括:ひとつにまとめること。しめくくること。

シンプルで単純明快ですね。わからないところがない。
で、何をしたら「ひとつにまとめ、しめくくること」になるのか?

総括、というのはかなりありふれた言葉です。今年の芸能ニュース総括、2010年代の総括、〇〇事件の総括、〇〇震災の総括、〇〇体制の総括、〇〇運動の総括、〇〇戦争の総括、〇〇プロジェクトの総括。
そういうものに目を通してみると気付くのは、総括にはこれをやれば総括である、といえるものが特にないということです。それぞれ扱われ方はバラバラです。

これは大変困ったことです。というのも「普通の展開」の要請に従った結果「総括」が設定されることになった。だが、その「総括」自体には「普通の展開」がない。

「評価」だって難しいですが、まだなんとかできる。
〇〇についてどう思うか?と質問し、それに対する回答がそのまま回答者の〇〇に対する評価である、と言うことができる。
しかし総括は質問そのものが設定できない。
〇〇について総括してください、という投げかけも無効。
なぜならこれをやれば総括と言える、という共通認識がないから。

つまり総括は展開優先で作られたもので、その実何をやればいいかはちゃんと考えられたことがどうもなく、まだ発見されていないっぽい。
それをこの書籍で発見するのは現実的に無理では?
と考えました。なのでいったん棚上げしました。
「総括」はやる。なぜならやらないと「普通の展開」を逸脱するから。しかし何をやればいいかわからない。他方、まだ時間はある。なので棚上げしよう。
脚本に「ここですべて解決して大団円(予定)」と書くようなものですね。

総括と庵野秀明

「総括」は何をすれば総括したことになるかはわからない。
でも「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」の総括と聞いて制作スタッフ達がその資格があると思う対象は一人しかいません。もちろん庵野さんです。
エヴァファンにとってもそのはずです。
これはもう深く考えるまでもないし、深く考えても全く一緒の結論です。
プレイヤーもお客さんも見解一致しているものをズラす必要はない。ズラすことが目的じゃないので。
なので総括はやる。そしてそれは庵野さんによって行われる。しかし庵野さんに何をしてもらうかは分からない。まだわからないので考えなければならない。考えてみたが思いつかない。本の制作を続けていくうちにきっと思いつくはず(願望)。なので庵野さんによる総括はひとまず棚上げして後回しにしよう。

プロジェクトについて書く本にもかかわらず、プロマネ的な思考ではありませんね。
PMPには問題発生時に「「妥協(compromise)」もまぁおすすめしないけど手段としてはありますがね」みたいなノリで紹介されていたと思いますが、棚上げはなかったと思います。あったとしてもそれはやるな、という方向性でしょうね。
でも仕方ない。その結果、この総括は最後の最後に行われることになりました。
この詳細は7章自体の解題で触れることとします。

補足:総括可能者が存在するということは

総括とは何をするか不明である。それでも、総括するならこの人を置いて他にいない。
そう全てのスタッフが考える。
『シン・エヴァ』の制作、すなわち「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」はそういうプロジェクトでした。

うまくいったプロジェクトを測るロジカルな指標やデジタルな指標はさまざまあると思います。
このプロジェクトを総括するとしたら誰がやるべきですか?という問いに全てのスタッフが直感的に「この人」と答える状況がある。好き嫌いも良し悪しも飛び越えてこの人にそれが集約される。
これもうまくいったプロジェクトを測る指標のひとつになるのではないかと思います。


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