松村早希子のイベントレポート 「ミスiDフェス2017~私だけがいない世界へ~ お披露目ハロウィンショーへようこそ」
ついにこの日がきた…!
2017年10月29日。品川インターシティーホールにて、ミスiD2017の、受賞者のお披露目イベント「ミスiDフェス2017~私だけがいない世界~」が開催された。
ミスiDは、講談社主催の「まったく新しいタイプの女の子を発掘し育てる」(公式サイトより)というコンセプトのもと開催されたオーディション。2012年から開催され、今年で5回目。
これまでに玉城ティナ、蒼波純、金子理江、水野しず、保紫萌香らがグランプリを獲得しており、グランプリ以外にも稲村亜美、西田藍、など多数のアイドルを輩出している。
オーディションの過程や受賞結果が一般公開されるミスiDでは、他のアイドルオーディションでは見ることのできないタイプの女の子に出会うことができる。
今年のキャッチコピーは「わたしはこの星で生き残る。」
ロマンティックなようでもあり、あらゆる意味でサバイバル力が必要とされる今の日本の空気を表してもいる、このコピーに相応しく、彼女(彼)達が「生き残る」ことを目指して自分自身を晒け出す姿が見られた。
生き残りを目指す場所は、芸能界かもしれないし、この日本という国かもしれないし、これから探す未知の世界かもしれない。
会場は、大きなステージに花道が作られていて、天井が高く二階席もある立派なホールだった。初めて観た2014年のお披露目イベント時の、ジョイポリス内ステージの雑多な空気とは大きく違っていた。
下図のように巨大なスクリーンに登壇者が映されるので、後方の席でも登壇者の表情が見やすかった。大きなステージのフォーマルな雰囲気と、背景に施されていた手作り感溢れる「HAPPY HALLOWEEN」の飾りが対照的だった。
グランプリを受賞したのは、武田杏香さん。
私はまったくノーマークだった。最終スピーチでも「特に話すことはありません」と、ものすごくアッサリしていて、与えられた時間いっぱい使って話したりパフォーマンスする人が多い中、彼女はおそらく時間の半分も使っていなかった。
とにかく他の人と違う感じがしたのは、顔の筋肉がほとんど動かないこと。全く無表情というわけでもなく、薄っすら微笑んでる写真もあるのだけど、ずっとどこか不機嫌そうに見えた。でも、ほとんどの人がニコニコしていたり叫んだり泣いたりと表情豊かな中で、その固さがとても目立っていた。けれど今思うと、その佇まいに他の人にはない静かな迫力があったし、審査員の大森靖子さんの「歴代ミスiDグランプリの女の子は、心に聖域を持っていました」という言葉がとてもしっくりくる存在だった。
審査員の吉田豪さんが「いつも審査員の評価が分かれるミスiDで、珍しく満場一致だった。玉城ティナ以来」とコメントしていたのも印象的だった。この日の審査員コメントと、後に発表された選評から「最終面接でのダンスパフォーマンス」が、見た人全ての心を打ち、グランプリの決め手になったということが伝わったので、そのダンスをいつか一般大衆にも見せてほしい!
<印象に残ったファイナリスト>
本当は67人全員紹介したかったけれど、なかでも特に印象に残ったファイナリストの方々の記録。
新谷姫加 ミスiD2017
PartyRocketsGTのライヴも観たことがあり個人的にも応援してた新谷姫加さんは、最終スピーチで泣いてしまい「本当は歌おうと思ってたんですが…」と言いながらも時間切れで歌えず、どんな歌を唄おうとしていたのかとても気になった。いつもの衣装と全く違った大人っぽい服装(私服?)で、改めてこんなにスタイルのいい人なんだ!とわかった。
海乃 ミスiD2017
Twitterが面白くてよく見ていた海乃さんは、スタイルの良さも勿論際立っていたけれど、顔がキラキラと光っていて、小さいのに遠くから見ても目立つ美しさだった。最終スピーチが、全ファイナリストの中で最も滑らかで安定感ある喋り方で、聞いていて気持ちよかった!
あめ(赤神幸依) VoCE賞
実際に見ると超~~~顔が小さくて群を抜いたスタイルの良さが印象的だったのは、あめ(赤神幸依)さん。囁くような話し方でおとなしそうな印象と、意志が強そうで凛とした佇まいが両立していて不思議な存在感だった。こんな看護師さんが存在するという事実だけで日本という国の価値が上がると思う!
洪潤梨(東佳苗賞)
洪潤梨(ホンユニ)さんは、緊張を緩和するグッズ…と言ってモフモフの耳当てをずっと着けていた。はじめのPR動画からバッサリ髪を切っていて、実際に見ると様子や喋り方が宮崎あおいちゃんにそっくりで、ある角度から見ると本当にあおいちゃんに激似だった。「あまりにも好きすぎて好きな対象に自分を寄せる」という、ものすごい意志の強さを感じた。
栄籐仁美 (安藤美冬賞)
ずっとお会い出来るのを楽しみにしていた栄藤仁美さん。
ステージに映えるスラリと綺麗な全身像で、とある番組に出ていた時と同じドレスだったので一張羅なのかな?と思った。(都合により断念されたという和服姿も、いつか見たい!)
「京都の花街の世界を変えたい」という彼女の主張を動画で聞いた時は、「なぜミスiDでそれを?」と思ったけれど、あの動画の中だけでは語りきれなかったお話をツイキャスやブログなどで知って、心掴まれた。
この日のスピーチでも、短い時間に言いたいことを簡潔に詰め込み語っていて、「アイドルになりたい」というより「ビジネスを始めたい」という意志が伝わってきた。
その聡明な姿と、個人賞を受賞した時にびっくりして泣き崩れていた様子が、対照的でリアルだった。
松本さゆき(吾妻ひでお賞)
同じくとっても会いたかった松本さゆきさんは、彼女のキャラクターからセクシーな衣装かなと予想していたら、赤い花柄でロング丈のヴィンテージっぽいワンピース姿で、良い意味で予想裏切られた!
そして個人的に審査員の中で最も気になっていた、吾妻ひでお先生(イベントは残念ながら欠席)の賞を、彼女が受賞した事も嬉しかった。彼女が主演する吾妻先生原作の映画「チョコレート・デリンジャー」の宣伝をしっかりしていたけど、後からTwitterで「吾妻先生は自分に気を遣って選んでくれたんじゃないか。本当は他の子に賞をあげたかったんじゃ…」と言っていた謙虚さがいじらしかった。
松本さゆきさん&栄藤仁美さん、この大人っぽい(そして二人とも人妻の!)二人が、審査員個人賞の始めの方に呼ばれたので、その後に呼ばれた受賞者が泣いてしまった時、絶妙なタイミングでティッシュを差し出す「ティッシュ係」のようになっていた。
希代彩(ファンタジスタさくらだ賞)
この方も会えるのをとっても楽しみにしていた希代彩さん、舞台上で、他の人のスピーチの間ずーっと欠伸していて、自由すぎるな…と初めは思っていたけど、もしかして眠気じゃなく極度の緊張からくる脳の警報なのかと、途中から心配になってきた。
しかし自分の番になると、「眠気と緊張を吹き飛ばすために叫びます!」と言って『アーーー!!!!』と、マイクを離れても聴こえるくらいの大声で叫んでから、普通に話しはじめていた。
(「ミスiDでいろんな女の子と友達になりました。あなたの推しも、私の友達かもしれません」という言葉、ツイキャスなどでいろんな人と絡んでいて、普通の仲良しグループというのともちょっと違った、少し変わった仲間達の共同体みたいなものが形成されている様子をリアルタイムで見ていたので実感が持てた)
会場に入った時、受付に希代さんが居る姿が一番はじめに目に飛び込んできて、「わー!本物だ!」と、思い切りミーハーに喜んでしまった。写真や映像よりももっと眼の力が鋭くて、野生動物みたいに綺麗な女の子だった。
ひさつねあゆみ(特別賞)
スピーチの時間をパフォーマンスタイムとして、歌ったり演奏したりという人も多かった。その中でも、文句なしに最もインパクトが強かったのは、ひさつねあゆみさん!
自己紹介で名前を言う直前でこの世の終わりみたいな声で呻き出し、床を這いずり回り、どうにかこうにか吐き出すように自分の名前を言おうとするも、グエェッとなってしまってどうしても言えない…という、何とも説明しづらいパフォーマンス…とにかく強烈だった。
HAL(小林司賞)
HALさんが「SEX, DRAG,ROCK’N’ROLL!!!」といきなり叫んだ時は「やばい…」と焦った。
会場もざわついていた。AV女優をバンドに例える遊びが男友達との間で流行っていて、「成瀬心美は僕らにとってのバンプオブチキン!」と聞いた、という話で笑いが起こっていた。客席のほとんどが男性だったので、おそらく「わかる~!」という感じだったのだろう。
その直後にはるなしおんさんが「オススメのAV女優はですね…」とAV女優ネタを広げていたのもおもしろかった。その二人はずっと舞台上でもヒソヒソ話してたけど、美少女たちがAV女優についてこっそり話しているという状況に心がざわついた…!
クリスタルのの(家入一真賞/岸田メル賞)
クリスタルのの神は、「宗教遊びに大人たちが真剣に聞いてるのがおもしろかった」という全てを覆し新しい世界を創る、まさに神にしか言えないコメントが衝撃的だった。眼が本当に深い闇のようだった。
審査員の山戸結希監督は、全てのファイナリストに対して「◯◯の役があったら出演していただきたいです」と、その子に似合う役柄を提案するコメントを残しているのだけど、のの神は「そのままで、スクリーンの中のテレビ画面に出演していただきたいです。」というコメントだった。彼女には「そのまま」しか求められていなかった。
紫苑(わたしはこの星で生き残る賞)
紫苑さんは、10歳の頃自分が書いた「未来の自分」宛ての手紙に「女優のオーディションを頑張っていますか」と書いてあって「女優ではないけれど今このコンテストを受けていて頑張っているよ!」と答える姿、もう全てが可愛らしくて、泣いてしまった。
若杉実森(わたしはこの星で生き残る賞)
何度も似顔絵に描いていた、若杉実森さん。
全ての少女漫画趣味人間の妄想を掻き立ててやまない存在だと思う。
近くで姿を見たら、想像していたよりずっと小柄だった。スタイルがものすごく良いので、二次元だと背が高く見えていたということがわかった。
ステージでは、全身黒で少年っぽい服装に、靴だけがハイヒールという絶妙なバランス感が素敵だった。スピーチでは自分のことは殆ど言わず、体調不良で来られなかった私。さん(ミスiD)の紹介をして、「今めっちゃトイレ行きたいんで終わります!」とサッサと終わっていた。
牛乳寒天なつみん(特別賞)
牛乳寒天なつみんさんは、スピーチでも謎の堂々とした雰囲気で、「(天才!)志村どうぶつ園に出ること」が目標と宣言し、司会の方に「もう志村どうぶつ園ぽい格好で来たの?」と突っ込まれていたオーバーオール姿が、ほのぼのした可愛らしさだった。
若杉さんと牛乳寒天なつみんさんとが仲良しコンビで、最後のハロウィンパレードで二人手をつないでキャッキャと歩いて登場した時は、高まりすぎて鼻血出るかと思った!
おおくぼけい
パフォーマンス系(?)では、おおくぼけいさんも素晴らしかった!「今初めて明かしますが、ミスiDに応募したきっかけは、失恋したからです…」と、切ないエピソードを語った後に、振り切ったように着ていたセーラー服を脱ぎ捨て、上はセーラー下は赤褌という逮捕一歩手前の姿になって「あんたのバラード」を熱唱という衝撃。その場の空気を全部持っていく力は全ファイナリストの中でダントツで、場数の違いを見せつけていた!
ナカムラルビイ
ナカムラルビイさんは、サックスの演奏こそなかったけれど、花道を縦横無尽に動き回りながらの自己紹介が、舞台の使い方をわかってる人! という印象だった。「今の気分は、プリキュアの最終回みたいです!」という捨て台詞のような一言、プリキュア世代でない自分は、それってどんな気分なんだろう…と想像することしかできなかった。
ゆっきゅん
みんなの王子様・ゆっきゅんは、スピーチタイムではガチ恋口上の替え歌(替え口上?)、「消滅口上」を披露し、「みんなヲタクだから言えるよね?」と、強制的に観客に言わせていた。勿論私も大声で参加。「自分を消滅させたいよー!」と、大勢の人と一緒に叫ぶというのは、なかなか貴重な体験だった。
綺麗で可愛くて面白くて、ミスiDにおけるジェンダーの可能性を切り開く存在の筈なのに、何も受賞しないなんてもったいない!と思っていたら、最後の最後に縷縷夢兎ファッションショーの選抜に入り、モデルとしてランウェイを歩く姿が、気高く美しかった。ショーの後にコメントを求められて「こんな綺麗な服を着られて嬉しい」と、ちょっとヒネクレたキャラクターからは意外に思えるピュアな言葉が口をついて出て、その直後に「ああっ!僕もっと面白いこと言わなきゃいけないのに…」と言っていたことに切なくなり、東さんが「ゆっきゅん、泣いてるー!」と言っていた瞬間にもらい泣きした。『可愛いお洋服が着られて嬉しい』という純粋な喜びに涙しながらも『他人に求められている自分』を造らなくてはと葛藤する乙女心に、キュンキュンした。
noodle
そして個人的に最も会いたかった人、noodleさんのスピーチでは、客席(多分舞台裏も)みんなが息を飲んで集中しているのが伝わった。「自分の言葉で、みんなの中にある孤独や淋しさを照らしたい」という言葉と、握手した時の手の温かさを、今でもセットで思い出す。ステージ上で、首から下げたカメラでバシバシと撮っていた姿が印象的だった。あのカメラに、どんな光景が写っていたのだろうか。
<雑感>
私は以前から、この「ミスiD」というヘンテコなコンテストを観察するのが個人的に好きだったけれど、今年はこの「大人になるのは向いてない」連載でミスiDのことを扱った事もあり、今までで一番のめり込んで見守っていた。
全セミファイナリストの自己PR動画を、数日かけて一気に観た時は、あまりにも濃いエネルギーの塊に影響され、夢にまで候補者の方々が出てきた。
この史上最多数のセミファイナリスト&ファイナリストの、全員を詳細に追うことはできなかったけれど、気になった人はできる限りSNSや本人の発信している情報を追い、ツイキャスなどで声を身近に感じて、勝手に親戚のおばちゃんみたいな気持ちでいた。
でも、結局はどこまでもただの傍観者でしかない。
自分の中のドロドロしたものに様々な形で真摯に向き合い、人前に顔と名前と声を晒し、こういうコンテストに出ることで自身の欲望を他人に曝け出す、彼女(彼)達の行為は、いち観客として彼女(彼)達の表現するものを消費する側である私にとっては、手の届かない、神懸かっていると言ってもいいくらいに尊いもので、67名の全員と、このオーディションに応募した全ての人が、この日のステージよりもずっと高い所にいるように思えた。
数値化できない謎の基準によって順位を付けられるのは、美大受験にも少し似ていると思った。美術大学の実技試験では作品が評価を受けるけれど、ミスiDオーディションでは人間そのものが評価対象になり、合格/不合格が人目に晒され、その過程がエンターテイメントショーになっている。何て残酷なんだろうと思うこともあったけれど、それを経ていなければ見られなかった女の子(男の子)達の特別な姿、到達し得なかった特別な美しさが確かにあった。
ミスiDフェスの後、生まれて初めて動物園に行った一歳児が、それまでテレビ画面や写真でしか知らなかった動物たちを実際に見て、興奮して知恵熱を出してしまったという話を思い出した。
今まで映像や写真という2次元の世界でしか知らなかった彼女(彼)達63名が、この一日で一気に3次元化して、その情報量に圧倒されて何も考えられないくらい疲れ、翌日は12時間以上懇々と眠ってしまったからだ。
一人一人と濃密に会話を交わしたわけではないけれど、強烈なエネルギーを発している人が同じ時間・同じ場所に大勢集まっている状況は、今までの人生の中でもかなり特殊な体験だった。
☆☆☆
当日の流れ
◆過去のミスiD受賞者や関わりのあるアイドルグループのライヴ
(ライヴ出演者:ロカ&メンフィスキッズ、クマリデパート、Maison book girl、放課後プリンセス、アキシブprolect、drop)
◆ファイナリスト63名の最終スピーチタイム(1人約2分)
◆各賞とグランプリの受賞者発表
◆ミスiD2017ファイナリスト&受賞者全員の握手会
◆縷縷夢兎(るるむう)ファッションショー
(過去のミスiD受賞者・山田愛奈、来夢、保紫萌香、弓ライカに加えて、当日に発表されたミスiD2017ファイナリストから選ばれた武田杏奈、杉本桃花、Tomiko Claire、早野有純、牧原ゆゆ、洪潤梨、ゆっきゅん)
◆ファイナリスト全員+縷縷夢兎モデル達でハロウィンコスプレパレード
(敬称略)
松村早希子
プロフィール
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。ブログにて、アイドルのライブやイベントなどの感想を絵と文で書いています。
雑誌『TRASH-UP!!』にて「東京アイドル標本箱」、WEBサイト「リアルサウンド」にてコラム「松村早希子の美女を浴びたい」を連載中。
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