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Learn Like a Pro 読書ノート 2/3 【働学併進#008】

前回は、集中 focus モード活用した課題や勉強への取り組み方」と「散乱 diffuse モードを活用した行き詰まりの打開法」についてまとめた。

今回は、さらにその先の「勉強した内容の長期的記憶法」と「記憶だけでは解決しない問題解決法や技術の身につけ方」についてまとめる。

3. Learn Anything Deeply

この章では「そもそも学ぶとはどういうことか」「何かを深く学ぶための方法」について説明されている。

「学ぶ」の脳科学

専門的に言うと、人間の頭に860億個もあるとされる神経細胞 neurons は、一つひとつに(軸索軸索 axon)と複数の足(樹状突起じゅじょうとっきスパイン dendritic spines)があり、片方のニューロンの腕が別のニューロンの足に捕まった時に接触構造 synapse ができる。

wikimedia

この神経細胞同士の繋がりが学びの根源的仕組みであることは間違いない。
実際に、どのような技能skillも自制的な振る舞いも、脳細胞の大小異なるリンクの構成で成り立っている。
しかし、ただ脳細胞同士が結びつけばいいと言うものではなく、真の意味での学習とは、長期記憶とより強固な繋がりを構築することを忘れてはならない。

「深く学ぶ」ための能動的学習法

正直、私は"アクティブラーニング"という言葉に胡散臭さを感じる。
しかし、脳は受動的passiveに何かを学ぶより、能動的activeに記憶を取り出そうとする時にこそdendtric spines がaxonに引っ張られ、結果としてより強固なシナプスを形成する(深く学べる)ことは否定できないようだ。
10回以上も聴いた曲よりも、何も見ずに1曲歌ってみた曲の歌詞の方が記憶に残っている経験をしたことがあるだろう。
因みに、能動的学習法の影響は睡眠中にも現れて強固な結びつきをさらに補強してくれる。

つまり、能動的学習法とはすなわち「学んだ内容を長期記憶に定着させるために、必死に自分の力だけで思い出そうとする」学習法 retrieval practiceである。
そんな能動的学習法の具体例をまとめる。

  • 問題の解決法をなるべく見ずに、自力で解いてみる。

    • どうしても途中の方法を見る必要があるなら、問題を解いた後にもう一度はじめから解いてみる。

  • 動画、本、授業、記事などで見たこと聞いたことの中から最も大切な概念やアイディアを思い出す recall

    • 散歩をしたり、家事をしたりしているときに思い出してみる。

  • 自分で自分だけの問題集を作ってみる

    • 時間制限をつけたテストをしてみる

    • 自信のない内容でもテストを受けてみる

      • 「推測する」ことも効果がある。

    • 単語帳を作る Quizlet

    • 友達などと問題を出し合ってみる

    • 友達などに学んだことを説明してみる

  • 具体的な説明 elaboration を試みる

    • 友達などに学んだことを「単純に」「元より面白く」「具体例を豊富に」説明してみる

  • 少し違う内容も交ぜながら勉強する interleaving

    • interleave: [TELECOMMUNICATIONS•COMPUTING]
      mix (digital signals) by alternating between them.

    • ただ概念を理解するだけでなく、他の概念との「違い」も理解する

    • フォアハンド」「バックハンド」「ヴォレー」を別々に練習するのではなく、一緒にまとめて練習してみる

    • 問題集を初めからではなく、複数の章からランダムに取り出して解いてみる

    • 暗記カードをシャッフルする

その他の学びを助ける要因

  • スポーツ、運動

    • BDNF(brain-derived neurotrophic factor)という物質が、dendritic spines の成長を促進し、神経細胞を結びつきやすくする。

    • 単発の運動でも効果があるが、定期的(1日20分を週3回ほど)に行うほうが、より効果が得られる

  • 食事

    • カフェイン Caffeine

    • 炭水化物 Carbohydrates 取りすぎ注意!

    • プチ断食 Intermittent fasting

    • フラボノイド Flavonoid: ポリフェノールの一種。ココアや緑茶などから摂れる

  • サプリ

    • 現段階では個人が家で試せるような薬で、劇的な効果があるサプリはない

  • 睡眠

    • 日中に脳が活動して排泄された毒素は、睡眠によって洗い流される

    • お昼寝にも同じ効果がある

    • 入眠時間も含めて、睡眠の研究者は8時間ほど睡眠時間をとることを推奨している

    • 入眠のヒント

      • 明日やらなければいけないことをまとめておくことで心配事を軽減する

      • 眉や肩などの無意識的に力が入るところを意識的に緩める

4. Maximize Working Memory

作業記憶 working memory はその名の通り、作業中に必要な情報を一時的に保存するところで、問題を解くときも、何か難しい概念を理解するときにも使われる。
また、長期記憶に定着させるためにも作業記憶内で整理しておくことが重要となる。

一般的に、作業記憶が同時に保持できる考えや概念は4つと言われているが、人によっては2つや3つ、多ければ5つ以上保持できる。
この章では作業記憶を鍛える方法ではなく、「どのように今の自分の作業記憶を最大化するか」についてまとめられている。

長期記憶を活用する

先ほど、作業記憶内で整理することで長期記憶に定着しやすいと書いたが、反対に長期記憶の内容を作業記憶が拡張機能として扱うこともできる

例えば、ソフトウェアの新機能を実装するときは、中核となる仕組みやアルゴリズムを頭の中で考えながら実装するが、その際には長期記憶にある「プログラムの書き方」を参照することによって、作業記憶で扱う内容を一つ減らしている。

これこそが次の章で紹介する「暗記/記憶する」大きな利点である。
その前に、作業記憶で物事を整理するためのヒントをまとめる。

作業記憶を最大活用する

本を読んでいる途中で理解に苦しむ新しい概念が出てきたりするときは、脳がその煩雑さや量などで圧倒されていることが原因であるため、脳が理解できる情報の塊にすることが有効である。

  • 単純化 simplify
    本や動画で最も大切な考え方を見つける
    時には自分の言葉で簡単な説明文にしてみる

  • 分解して、基礎だけに集中する Break Material into Chunks & focus on the fundamentals

    • 最も簡単な演習問題を足がけに、だんだんゆっくりと難しい問題に移行する

    • 簡単な語彙だけで文を作り、だんだん難しい語彙を取り入れる

  • 難しい言葉を自分にとって馴染みのある言葉に置き換える

  • 勉強中に湧き出る雑念や心配事はリストとしてアプリや紙に書き出す

  • 紙やホワイトボード、メモアプリに書いてみる

ノートの取り方

作業記憶だけで整理するのが難しい場合は、ノートでまとめることも有効である。
しかし当たり前だが、ノートを取ることが目的ではなく、ノートを見返して思い出し訓練 retrieval practice を行い、長期記憶に定着させることが目的であることを忘れてはならない
面白いことに、「ノートは手書きだろうが電子だろうが関係ない」という研究(General sense from research: Jansen et al. 2017; Zureick et al., 2018.)もあるそうだ。

因みにこの本では、以下のようなノートの取り方を推奨していた。

  1. ノートを縦に1/3と2/3に分ける線を引く

  2. 学んだこと、聞いたことなどを右の欄に書くときから「大切なことだけ」「記号や略語(e.g., etc.)を使い」簡潔にまとめる

  3. さらにそこから、大切なキーワードを抽出して左側に書く

  4. その日の夜などに、右側を隠して、左側のキーワードからできる限り深い内容まで思い出せるか試してみる

その他にも、マインドマップや共有ノートについて軽く紹介されていた。
近いうちに、ノートを取るときに役立ちそうな略語や論理記号をまとめてみようと思う。

5. Memorize

「このデジタル化時代にわざわざ暗記する必要とかなくね」と思っていた時期が私にもあるが、案外、私が日々行っている業務には「暗記/記憶」が影響を及ぼしているようだ。例えば英語で本を読む、C#をC++と比較しながら学ぶ、本の内容Pomodoro Technique, Hard Start Techniqueを実際に活用してみる、などなど。

数学の問題を解くにしても、新たなビジネスを考えるにしても、新たな芸術を生み出そうとしても、長期記憶にある膨大な経験や知識が高次元な思考を可能にしてくれる。
また、既に深く学んだ(長期記憶にしっかし定着した)知識の一部を使うことで、全く別の概念の理解の助けにもなる。

この章でまとめられていた、記憶法は以下の通り。

  1. 言葉を使った暗記法 Verbal Memory Tricks

    1. 頭字語 Acronyms

      • Google Amazon Facebook Apple → GAFA

      • Socrates, Plato, Aristotle → SPA

    2. 変な文章 Quirky sentence

      • My Very Elderly Mother Just Served Us Noodle
        (私のとても歳をとった母はただ私たちに麺を出す)
        Mercury, Venus, Earth, Mars, Jupiter, Saturn, Uranus, Neptune

      • "How I wish I could calculate pi" (どれほどπを計算したかったことか)
        → 3.141592 (文字数)

  2. 視覚を使った暗記法 (人は言葉よりも視覚的情報の方が記憶しやすい)

    1. 変な画像の想像 crazy, fun and vivid image

      • Ne 10(元素番号) Noble gas (希ガス)と書かれたネオンサイン

    2. 記憶の宮殿 Memory Palace / the Method of Loci
      記憶したいものを具体的に想像し、馴染みのある場所においてある様子を記憶する方法

  3. 例え Metaphors
    完璧な例えは目指さず、最も大切な考え方を共有できる、既存の何かを自分で見つけることで脳細胞が相互的に繋がり、長期記憶とも結びつきやすくなる。(もしくは長期記憶そのものと結びつく)

    • 昨日の、FocusモードとDiffuseモードをCPUとGPUに例えたのも、私にとっては直感的な理解の手助けとなった。

6. Gain Intuition and Think Fast

「暗記はやっぱり大切」と言いつつ、何か問題を解いたり既知の情報から付加価値を生み出すためには、直感的とも言える発想やより身に染みた技能が必要である。
そういう洗練された思考法や技能も長期記憶に保存されているが、これまで紹介した意識的に保存した長期記憶とは保存場所と特性が違う。

そのような何度も反復することによって脳が勝手に傾向を見い出し、いつの間にか身についた、いついかなる時でも取り出せるような記憶領域のことを専門用語で手続き記憶 procedural memory という。
第6章は、新たに学んだ考え方を手続き記憶に定着させ、実際に問題解決に活かすための学習法 Procedural Learning について紹介されている。

FocusモードとDiffuse モードの関係ように、Procedural Learning は、5章までに紹介した"意識的な勉強法(記憶法)" Declarative Learning と一緒に行われることで最大限効果を発揮する。
例えば、チェスの新たな定石を学んだ時は覚えたての定石を頭の中で反芻しながらゲームを進めるが、さまざまな経験を通していつの間にか意識しなくてもその定石を使えるようになり、また新しい定石を勉強する、といった具合だ。
FocusモードとDiffuseモードは作業記憶の両輪、Declarative LearningとProcedural Learningは長期記憶の両輪といってもいいかもしれない。

と、ここまでだいぶ長い前書きが続いたように思われたかもしれないが、Procedural Learning はこれまで紹介した学習法と大きな変化はない。
とにかく反復することこそがProcedural Learning の肝である。

  • Internalize 手順の内在化

    • 数学や物理の問題を解くときに、「どのような点に着目するか」「どのように解き始めるか」「最終的にどのような式で解決できそうか」など、無意識に考えていることを、意識的に言葉にする。

    • 何問か解いて共通のパターンに気づくことで、格段に早く手続き記憶に定着される

  • Interleave

    • 種類や方法の違う問題を本の中からランダムに集め、それらを解くことで問題解決のパターンを学ぶ

    • 言語学習なら、ネイティブ話者と話すことが一番予想できない順番で多くの語彙に触れられる

      • 多読も同様な効果を持っている

  • Spaced Repetition 間隔をあけて反復

    • 語彙は意識的に暗記しても、実際に使うときになかなか出てこない

    • だから単語帳などで「何度も」「思い出し訓練 retrieval practice」を行い、手続き記憶に定着させる

    • 3週間後に復習して覚えていれば、1年ほどは覚えていられる

    • 復習(単語帳)の順番を変えて、interleave 技術も同時に使う

こう見ると、「英語を学ぶのに単語帳はいらない、意味がわからなくてもたくさんの英文に触れよう」という一派は、interleave テクニックを使ってProcedural Learningを行い、手続き記憶に語彙を増やそうとしているのだということがわかる。
もちろん、単語帳でinterleave テクニックを使ったProcedural Learningもできるため、自分が学びたい分野によって調整するのが一番だろう。


明日はこの本の残りの部分、「どのように怠惰な自分に負けずに勉強を継続するか」と「これまで学んだ"学び方"の他の活用法(読書法)」についてまとめる。


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