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桜の花びらの色 寺田寅比古

桜は川や池のそばに植えられていることが多いような気がする。桜は咲いたかと思うと数日で散ってしまう。そのはかなさが桜の魅力のひとつである。

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雨が降れば散る。しかし、散った花びらは石にはりついて石を装飾してしまう。

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風が吹けば散る。しかし、散った花びらは蜘蛛の巣に引っかかり、空中に浮かび上がって見える。

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桜は咲いているときはもちろん美しい。しかし、散りっぷりも本当に美しい。どこかにはりついた花びらも、風に乗ってゆく花吹雪の舞い方も、優雅かつどこかユーモラスで悲壮感を感じない。散る姿、そして散った後に命が宿るように思える。散り際の美学としての無常感は、滅びのはかなさではなく、散った後に再生する生命の美学のように思える。

ソメイヨシノの色は淡い。ほんのりと薄いピンクである。限りなく白に近いが、やはりほんのりと白。このほんのりとした色こそが散った桜の花の色を美しくしている。

実はこの桜の色は、自分を主張させる色ではない。自分が存在することで自然の「地」の色を「図」として浮かび上がらせるものだと気づいた。

空の青を際立たせ、水面や藻の色を浮かび上がらせる。花筏と呼ばれる水面の美しさは、桜の花びらが形づくる「図」と水面や藻の「地」がセットであることで生まれる。

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美しさが特に際立つのは日暮れから夜にかけて。ライトアップせずとも夜桜に心惹かれるのは、本来色のない闇の輝きを桜が引き出すからだ。上の2枚の写真も日が暮れようとしている時に水面に映りこむ空や、木々や、まだ花を残す桜の木や水面の色の違いが、花びらの散らばっているおかげで浮かび上がるのだ。

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そんなことを考えながら山道を歩いていると、黒土の地面にピンクの色が鮮やかな花びらがあった。確かにピンク色の濃い花びらではあったが、周囲の土の色との対比でよりグラデーションがはっきりする。

ここまで周囲とともに色を変える花は他にはないだろう。散ってから変幻自在に空や水、土とともに様々な色あいとなり、周囲とともに輝く。そこに桜の花の本当の魅力があるということに気づいた。

こう考えると、桜が川や池の近くに植えられているのは、水と空と土との饗宴を愛でようとする人が思い至ったからではないかと思えてくる。


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