「トレンド」を完全解説!「ビッグシルエットはもう終わり」の本当の意味、転換期にあるのは本当か?今年の夏以降は「昨年よりワンサイズ下」を必ず検討するようにしよう!【連載】
ファッションと切り離すことが出来ない要素、「トレンド」。
洋服屋でふと気になった服を手に取れば、すかさず店員さんが「その手の服今トレンドですよね」と話し掛けてきたり。
試着して、この服のココ、気になるのだけど…こんなものかな?なんて思っていると「その感じがトレンドですよね」と言ってきたり。
そんな時「そうかコレがトレンドなのか…」「トレンドだから何なの?」と思うこともあるでしょう。
かくいう私もついつい「これがトレンドだから」という一言で済ませてしまうことが多いのが実情です、反省しないと…。
ただトレンドは、言い換えると「流行り」であり、追い風です。
それに上手く乗れれば、ファッションはとても楽になる、そういう要素になり得ます。
逆にトレンドでは無い服は、それ相応に覚悟が無いと、ファッション的には難しくなってしまうこともあります…。
トレンドを怖れる必要や、毛嫌いする必要はありません。
ただ知った上で、取り入れるかどうかの判断をすれば良いだけ。
そのための判断材料にしてもらうため、抽象的でふわっとしたトレンド評論ではなく、取り入れるべきか否か、また取り入れる時は具体的にどうすれば良いのか?まで解説しています。
この記事におけるトレンド解説は、街中や洋服屋の店頭で起こっている、よりリアルなトレンド実態についてのものとなります。
そのため、あくまでも日本国内でのものとなります。
海外のコレクション内容などは、トレンドを理解するための一助としては活用していますが、単にコレクションはこうだから、といった大上段からの解説にはしておりません。
※今月から、【連載】という新たな形式を取り入れて、普段のアイテムレポートや特集とはまた別に、最終的には再構成・加筆を経て一つの電子書籍のようになるような記事を配信していきます。
まずは「トレンド」連載。
今後はさまざまなテーマで、この連載記事が不定期に配信されます。
これまでのアイテムレポートの合間を縫うイメージです。
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定期購読をしてくださる方が常時1000人前後の規模感となり、ただ新しく発売されるアイテムを提案するのではなく、ここからはもう少し骨太な提案…
原点である「オシャレ脳を鍛えよう」、「読みものとしてのファッション」というところに立ち返ってマガジンをより満足感のあるものにパワーアップさせていきます。
「ビッグシルエットはもう終わり」の本当の意味、転換期にあるのは本当か?「次」を提示出来ないままのファッション業界と、本当にトレンドを終わらせる残酷な現象とは?
ビッグシルエットにオーバーサイズ…「ゆったりしたシルエット」のトレンドはなぜ流行った?
トレンドというもの自体に色々言いたいことはあるのですが、それは後回しにして、いきなり本題!
2024年現在のファッションを語る上で最も注視したいトピック。
それはビッグシルエットやオーバーサイズといった「ゆったりしたシルエット」はこれからもトレンドファッションであり続けるのか?ということ。
一般的にはビッグシルエットは身幅や肩幅を「あえて大きく作ったアイテムを着ること」。
オーバーサイズは自身の身体にとってジャストと言えるサイズから1〜2サイズアップし「その服が想定した本来のサイズよりもあえて大きく着る」という違いがある、とされます。
ただ結局どちらも「あえて大きい洋服を着る」、という意味では同じと言えます。
ここではより話を単純に「ゆったりしたシルエット」とひとまとめにします。
このゆったりしたシルエットのトレンドは、2010年代後半から徐々に台頭してきました。
2010年代後半には、それまでの細身シルエットからトレンドは完全に逆転。
2020年台に入って主流としての地位を確固たるものにしました。
(いやいや、街を歩く人達はほとんどそんなゆったりシルエットの洋服は着てないよ?という疑問が浮かぶところですが、後ほど解説します)
このビッグシルエットが流行った理由としては、様々な理由が挙げられます。
洋服を実店舗ではなく通販で買う時代、ビッグシルエットであれば厳密なサイズ感を問われないから、とか…。
日本人はどうしても頭が大きいから、ビッグシルエットだと相対的に頭が小さく見える、とか…。
しかし、ビッグシルエットそのものに何かメリットがあり、それが発見されたことで流行ったということはありません。
よくファッショントレンドは、こういう合理性があるんだ、メリットがあるんだと都合良く解釈されがちですが、ものは言いようです。
タイトで細身な服が流行っている時も、華奢な人が多い日本人こそ似合うのだ!とされていたのですから…。
ビッグシルエットが流行った一番の理由として挙げられるのは、2000年代中盤から2010年代中盤までファッショントレンドとして君臨しづつけた「タイト・細身シルエットへのカウンター」ではないでしょうか。
そしてこのタイト・細身シルエットが終わり、ゆったりシルエットと入れ替わった事象にこそ、「果たしてゆったりシルエットのトレンドはいつ終わるのか?」を考察する上での大きなヒントがあります。
タイト・細身シルエットの始まり、加熱、その副作用
タイト・細身シルエットは、2000年代序盤のエディ・スリマン率いるディオールオム旋風が大きなきっかけとなっています。
誰もが名前だけは知るであろうフランスの高級ファッションブランド、クリスチャン・ディオール。
そのメンズラインとして生まれたディオールオムは初代デザイナーにエディ・スリマンを迎えスタートしました。
エディ・スリマンのディオールオムは、タイトかつショート丈なシルエットのテーラードジャケットやPコートなどで一世を風靡します。
それまで世の中に漫然と存在していたアイテムを全て再定義・再構築してしまったのです。
そして何と言っても、それまではロックミュージシャンしか穿かなかったようなタイトなシルエットをジーンズに落とした込んだ、「スキニーデニム」を一気に世の中に普及させてしまいました。
このディオールオム旋風によるタイト・細身シルエットトレンドは、日本のトレンドをも瞬く間に席巻。
ディオールオム自身が流行ったのはもちろんのこと、タイトかつショート丈のトップス・アウター、スキニーデニムなど。
もうどれだけのブランドが作ったことか…。
そして加熱していったのが「いかに細いものを作るか、着るか」という競争です。
当時の洋服はSサイズ、一番小さいサイズから売れて、Lサイズ、一番大きなサイズは売れ残ることが多かったのです(生産数的な問題はあるにせよ)。
そして、1サイズ2サイズ、自分のジャストサイズよりもサイズダウンして着るなんてことも当たり前でした。
今とは真逆ですよね。
私の友人で180cmを超えているのにSサイズを着ている人がいましたが、それでもそれが当時は格好良いとされていたのです(彼は極端な痩せ型でもありましたが)。
ストレッチ素材を駆使して、タイツやレギンスのような細さ…つまり、その人の身体にピッタリと密着したような、裸そのものに近いような「究極の細さ」を追求するようなところまで行き着くことも。
細いアイテムを作ることがアイデンティティのブランドまで生まれました。
また細いアイテムを着ることが出来るというのは一種のマウンティングだったりしたのです(当時はマウンティングという言葉自体あまり普及していませんでしたが)。
このトレンドの流れはいくつかの副作用を生みました。
まずは著しく洋服の着心地が悪くなったこと。
いくらストレッチが効いているからと言って、身体に密着した洋服の着心地は今から考えると悪いなんてもんじゃない。
「オシャレは我慢」という大昔からある格言を地でいくものになってしまいました。
そして、細さを追求すればするほど、少しでもふくよかな人はもちろん、筋肉質だったり骨格的にゴツいだけの人も着れない、似合わないファッションになっていきます。
いくらタイト・ジャストがトレンドと言っても、当時から「パツパツは格好悪い」という概念はありましたから。
また肩幅も非常に小さい作りの当時の洋服では、頭が大きい人はそれが目立ってしまうということもありましたね。
華奢で痩せていて、そして小顔の人以外は徐々に最前線から脱落せざるをえません。
ただし、タイト・細身シルエットのこうしたデメリットはトレンド全盛期には「トレンドである」ということを理由に浮き出て来づらいものです。
「着こなせないのは、そいつが悪い」、という風潮にどうしてもファッションの世界ではなりがちです。
(基本的にはファッションの世界は「性格が悪い」ものです、優しい世界はそこにはあまり広がっていない)
またそれでも、無理してでも着たい!と思う人が多いというのが、トレンドの恐ろしい魔力です。
パツパツになりながらスキニーデニムを穿いている人を見たことがない人はいないでしょう。
(もしかしたら未だにいるかも?)
タイト・細身シルエットを終わらせたもの、ビッグシルエット・オーバーサイズという次の選択肢と…
さて、いくつかの不満を抱えながらもトレンドの覇権を握っていたタイト・細身ファッション。
少なくとも2015年あたりまでは、超・長期政権と言っても良い長さでトレンドに君臨し続けました。
これがビッグシルエット、オーバーサイズといったゆったりしたシルエットへと覇権を譲り渡す過程で起こったことが2つあります。
一つは、ビッグシルエットという次の選択肢が生まれたこと、そしてしっかりとアイテム数が作られて受け皿としてきちんと用意がなされたこと、です。
実はタイト・細身シルエット全盛期においても、それなりにゆったりしたシルエットの選択肢は用意されてきたのです。
ワイドパンツだったり、ドロップショルダーだったり。
ただしそれはあくまで部分的、局所的な展開に過ぎず。
試しに作ってみました、どうですか?みたいなレベルだったのです。
当然売れ残り、次のシーズンでは引っ込める。
そんなもので大々的にトレンドは変わりません。
ところが2010年代中盤になり、ゆったりしたシルエットの洋服が数多くラインナップされるようになりました。
マーケティングの結果、この時期タイト・細身シルエットからの脱却にようやく目処がたったのでしょう。
次の選択肢が、この時期に質・量を伴ってしっかり用意されました。
アパレル業界にはトレンドを無理やり変える力は無い、けれども「トレンドが変わるぞ!」となった時の変わり身はとても速いし、そこの正確性はありますね。
その頃のシルエットは、今の基準として見るとビッグシルエットやゆったりというよりは「ゆとりのあるジャスト」といったところ。
そう、大して太くは無いのですが、それでも相対的に見るとゆったりした≒「タイトではない服」が出揃ってきたのです。
従来のタイト・細身なシルエットの服とゆったりしたシルエット半々で展開するようなブランドがこの頃から現れたり。
2017年あたりが、トレンドが切り替わる大きな節目となりました。
またこの頃からファッションメディアの主役はインスタグラムへと移っていきますが、インスタグラムで人気を集めるブランドは非・タイト細身ブランドばかりでした。
ファッション雑誌、例えばメンズノンノのような、あまり現実感の無い、明日すぐに全面的に取り入れようとはなかなか思えないメディアと異なり、親近感とリアリティーのあるメディアであるインスタグラム。
そこでより具体的に「次の選択肢」をファッションに興味のある層は認識し、自然とゆったりしたシルエットへと洋服を入れ替えていったのです。
象徴的な出来事としては、タイト・細身な洋服を提案し続けて人気となっていたブランドが2010年代後半に入り休止したり。
また細身でスマートなスタイルを提案していたファッション雑誌も休刊となるなど、トレンドの変化の余波が続きます。
そして何より大きかったのは、「ファッションにあまり興味が無い層」までタイト・細身シルエットになってしまっていたことでした。
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