何週間も変わらない薄暗い雲から、薄暗い雪が降ってきた。
何日歩いても同じ鼠色と同じ高さのビル群の中、
見えない誰もが誰もを疑い、拒絶していた。
この厳しい場所でやっと得た金を、権威を、
雨風凌ぐ頑丈な居場所を誰にも奪われないように、
切り立った壁はどれも、取り付く島もない。
やっと見つけた、
周りよりは雪も風もやってこない庇の下に
なんとか潜り込んで、持ち手以外が砂埃で汚れた
ポリバケツの隣で小さくなった。
ここは誰の敷地なのか。読めないローマ字の看板は何の店なのか。いつ追い出されるのか。追い出されないのか。

惨めなほどに寒い。ずっと腰を下ろしている場所はしかし暖かくなることもなく、しんしんと冷えている。


耳の上のあたりでずきずきと頭痛がする。


踏み荒らした浅い雪で、スニーカーとズボンの裾が汚れて濡れている。


丸まっていなければ見つかってしまいそうだ、
でも、少し小さくなったところで、何も変わらないだろう。
つま先だけを見ている。顔を上げたら、自分を追い払う大人を見つけてしまう。

何日も

何ヶ月も

何年もそうやって、うつむき続けた。

10年は、経ったろうか。誰にも襲われず、手を差し伸べられることもなく、屋根のある路地の隅で生きてはいたけれど、風に飛ばされてきた小さな雪で、まつげの先まで凍っていた。



そしたらある時、寒さがふとやわらいだ。
見ているには少し退屈なくらいの時間をかけて、
まつげの氷が溶けて、雫が頬を伝った。
しばらくしてから、震える視線を上げた。新しくて眩しい色が瞳を刺した。
追い払おうとする大人も、奪おうとする大人もいなかった。
肩が肩甲骨から剥がれるかと思った。肋骨、脇腹、尾てい骨、足首、ばりばりと、霜を折るような快い痛みが走った。

歩けるかもと思った矢先、体の脇についた腕が体重を支えきれなくて倒れ込んだ。下敷きになった腕に、今度は雑に嫌な痺れが走った。
それからは悲惨だった。18歳にもなって、
ひとりでは到底立ち上がれやしなかった。
冷たさの引いた地面がもう体力を奪うことはなかったけれど、
ただ立てなくて、頬に、肩に、腕に、腰に、
固い地面を感じて、血が止まるのも感じながら、
変わらない庇の屋根と、気休めをくれる小さな液晶を見ていた。
進まなければならない時が来たら、
醜く関節を開いて、肘を立てて、
全身をのたうつ虫のようにして這いずっていた。
手足を踏ん張ったのに、体を動かすに至らなくて
意味もなく抜けていったささやかで無駄な力が
どれほどあったのか数えていたなら
暗い闇が目の前を覆うほどあっただろう。

2本の足で進んでいるように見せかけられるよう
になったのはそのずっと後で、
歩くというよりは数歩前によろめいて倒れるのを
誤魔化すだけだった。




美味しいお酒でも飲みます。