遅刻 希望

みんなが、同じ教室で授業を受けてるみんなが、シャラシャラと立つ音が薬のパッケージ同士がこすれる音だと知らなければいいなと思いながら、遅刻した俺は運良く一番後ろの席で、バッグから教科書を出した。特に整理されているわけじゃないから、ファイルにぽんと入れてた薬を机の上に出す訳にもいかないから、それらをバッグに戻そうって思って結局うるさく鳴った。見下ろした大きなショルダーバッグには、帰りにコンビニで発送するメルカリの荷物、ノート、お酒、お酒だけを買うには気まずくて一緒に買ったミックスナッツ、その前に買ったストレス低減のチョコレート、ペットボトル、散らかった薬、薬、薬。薬の音、ペンの音、チャックを閉める音、教科書を置く音さえ、結構響いて、他人事みたいにあちゃー、と思った。

前に紙を受け取りに行くことが毎回のようになってて、恥ずかしくて、気まずくてそれで、行きたくないなって思うようになってしまった。
これは大学に入ってしばらくして知ったことだけれど、週に一度同じ教室で授業を受けるだけの人間の顔のこと、俺は全く興味もないが、意外と覚えてる人がいるらしい。厄介なことだ。

音がしなくなって、みんなに溶け込めると、安心する。まあでも、数年後にはみんな覚えてないよ。先程とかは、その信念だけを想うようにして、教室の引き戸を開けていた。俺は俯いている。今現在を生きたって、いいことなんてないんだ。みんながなんだあいつ、いつも髪もボサボサだし、遅れてくるし、ちょっと変だね、不真面目なんじゃない、どうせ気楽でいいな、そう思われるそれが俺だ、たぶん。でも、もちろん、なんだあいつといわれたら、間違ってると思いながらも俺だと返す他ないし、顔も知らないひとたちのために着飾る余裕がないだけだし、何回変わってるねと言われても私からしたらそれがふつうだし、君らみたいに「ふつう」になれるんだったら、自分を捨ててでもなりたい。遅れるのだって好きでやってるわけじゃないし、もちろん気楽とは対極にいる。
現在ばっかり考えると、シンプルになにもできなくなってしまう。希望は、未来、それも、若いうち、その上、希望なき現在の延長線上に気まぐれにふってくる、神頼みのような未知にのみ存在する。


美味しいお酒でも飲みます。