虚言



「こういうことが起こってる!」って目をきらきらさせて、人生で初めての感覚に息を弾ませて感動しながら一生懸命に言葉にしても、少しよくちょっと考えればそれは、ちょっと前に本で読んだ、なんのことはない、既に、実に論理的に、温度のない文章で書かれた事実に照らし合わせて間違いなくて、なんも言葉にならない気持ちになる。しかしそう言葉にならないところを無理やり言葉にするのが得意だしそうすべきだと、なんだっていいから形を与えてそれから全て考えるべきだと、思うのでやってみる。



本で読んだことがあるということ。それは、

「うずくまっていても知れる頭でっかちな知識」

「踞る」

に相違なくて、苦しさとはなんだって、これはどうしたら治るんだって、脳もそれだけは読むのを許してくれて、ちまちまいそいそ読んでた文章に、俺の経験が追いついたってことだ。そう、追いついたんだ。ああもう、言葉にさせたいものが大きすぎて手段が足りない。俺が俺の経験をもって、必死に道無き道を切り開いて出していった不格好な言葉が、この本の上に無機質に書かれていた文章に追いついたということ。俺自身はひとり、辿り着いた地点からの景色に感動しているのに、先んじてもうずっと前からそこに無表情で立っている先達の姿に気づいた途端、感動は苛立ちを通り越して悲しみへと萎えるのだ。言ってくれるなよ、何も。ほんとに。
わかってるよ、その先を。矛盾も、出てくる疑問点も。でもこの足で辿り着いたのがここなんだよ。

へんな虚しさがある。これまで読んできた本の文章の厚みの全部を俺は、実際の経験に結びついてはいないまま、楽しんでいたってことなんだろうか。そういうことになる。そのことを考えたことがないってことはないけど、それでも本物だと信じていたのに、人生経験が足りないのだと、
俺の言葉はやっぱり、やっぱり、やっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱり、
中身を持たぬ虚無だったんだとこの破裂しそうな感情をどんな破壊で表現出来る?スマホを叩きつけたい。俺の言葉に中身が伴ってなかったのなら、
それで表される俺の実存にも、また中身はなかったんだと。
やり場のない感情に下唇を噛む。当たり散らしたい。抱きしめられたい。実存(この言葉は!「居常」を参照してくれ、ため息)を確かめられたい。誰に?わからない、わからないわからないわからないわからない、ただ俺ひとりで抱えるにはあまりにも大きすぎて抱えきれなくて暴力的に行動に出てしまう、もし、誰かに受け止めてもらえるならば!歯を食いしばる。酒を飲む。行動に出したい苛立ちとぐちゃぐちゃな感情を、アルコールで飲み込むという行動で押さえつけるのは、本当に皮肉でそれすらも苛立ちになる。舌ピアスを永遠にガジガジしている。噛んでも割れる事が無いから思い切り前歯で噛んでは弾かれるのを繰り返している。舌ピアスが無かったら舌でも噛み切っていたのかな?そうできたらどれだけ幸福か!生きているという事実は控えめに言って喜べることではない。
汚い言葉が出そうになる。ゴミ箱とはいえ漁られる可能性があるのだから、後々見返されても恥にならない言葉遣いをしよう。本当にいらいらする、怒りの根源には常に悲しみがある。思い通りにならない、なってくれない、幸せになれない、悲しみ以外の何と言えるだろうか。
当たり散らしたい、他者の存在を求めている、
存在が浮かぶ、消える、消す、ひとりだ。
ひとりでいなくてはならない。ひとりで!誰かに依存するなんて格好悪い、格好悪い、格好悪い、格好悪い、良くない、良くない、良くない、不自然だ、人ができてない、精神成熟してない、子供だ、見下すべきだ、子供だ、無責任だ、汚い、馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ、阿呆だ、人として欠けてる、見下されるべきだ、不完全だ、できあがってない、欠けてる、馬鹿だ、未熟だ、卑しい、卑しい、子供なんだ、ひとりで、ひとりで生きなければ、誰をも目的とせず、ひとりで、たったひとりで、開いているくせに閉じて、たったひとりで誰にも頼らないで……!そうあれたらどれだけ幸福だろう。本当は誰かがどうしようもなく必要だ、そんなコンプから来る考えかもしれない。多分そうだ。
わかるのに、言葉上分解と理解ができるのに、実感が追いつかない、心の在り方が追いついてくれない、重さが、結局最初に言ったような、元ある文章がわかるのに経験が伴わないってことに戻る、理屈がわかっていてもどうしようもなく「できない」、もう、もう、どうせ俺は!馬鹿で子供で人として欠けてて……!もう、言葉にならない、自己嫌悪も、怒りも、悲しみも、孤独も、寂しさも、不安も、言葉にすればたったこんなことでしかなくて、今までほんの少しの心の動きを軽率に重たい言葉にしてきたせいで、本当の実感が伴った言葉が本当に伝わらない、そんなオオカミ少年は自分自身へ、結局は嘲笑!できることなどなくて、もう嘲り笑ってるのは、本当である。



美味しいお酒でも飲みます。