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情けないカネ貸しを嘆くカネ貸したち
問題人物についての概略紹介
数年前、夕暮れのドトール。
30代の社員数人と50代の社長の会話が店内に響いていた。
社長「まったく山田(仮名)のヤツ、どうしようもねえよなあ。
あっちこっちからカネ借りまくって、
ニッチもサッチもいかねえってのに」
社員A「あの人はこっちから金ひっぱっておいて、
自分のお客に貸しちゃうんですからね。
相手がほっとする顔を見るのが好きらしいんですよ」
社長「いくら利息が取れるからって言うけど、
考え方がまだバブルなんだよ、まったく。
あいつの財産って言ったら、もう自転車だけだぜ、ガハハ!」
抜け目のない対策
社員がちょっとまじめな顔になって、社長に聞く。
社員B「で、どうしますか?」
社長「また、あいつの実家と交渉するしかないよ。
実家の資産を元手に商売やってんだからさ」
社員A「でも、前に交渉したじゃないですか。
お母さんにワンワン泣かれちゃって、まいりましたよ」
社長「あのときだっておかしいんだよ。
山田のヤツ、おふくろなだめたりしやがってさ。
『お母さんが心配することないよ、オレが全部、カタつけるから。
なにも心配することないよ』なんてよ。
そんなこと言ってたけど、結果的に返せねえんだからよ。
このままどんどん膨れあがったら、
いくら実家が金持ちだって大変じゃねえかよ」
社員B「そうですね……」
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社長「だからさ、オレの考えとしてはさ、あいつのおふくろさんには
ビジネスのためじゃないことを強調したいわけよ。
『息子さんのために力貸してもらえませんか? お願いします!』
っていうふうに、もっていきたいわけだな。
あくまでもオレたちが金返せとか、そういう理屈じゃないよ。
あいつのためだよ、あいつのため!実際そうなんだから。
とりあえず800万出してもらうようにもっていこうよ」
社員A「全部でいくらでしたっけ?」
社長「まあ、1500万とれればいいんじゃないか?1500万あれば大手を振って歩けるよ」
社員B「そうですね……」
金貸しにとって「大手を振って歩ける」とはこういう状況においての表現らしい。だが、ふと社長が渋い顔になった。
金貸しの仁義を守る
社長「でも、山田(仮名)は○○や××や△△でも借りてるから、
そのへんの社長とのつきあいを考えたら、
彼らにも分け前をあげないと、オレの気がすまないんだよなあ」
社員A「じゃ、とりあえず800万ですか……」
社員B「……となると、まわりもいろいろ」
社長「まあそれは、オレがおさえながらいくから。
とにかくこういうことは、みんなで仲良く分け合わなきゃ」
社員B「じゃその方向で、明日書類をそろえておきます」
社長「おう、頼むわ」
社員のひとりが思い出して言った。
社員A「そう言えば、この前あの人、へんなこと言ってきましたよ。
『小切手だけ貸してくれませんか?
貸してくれるだけでいいんです』なんて」
社長「ああ、見せ小切手ってやつだ。
お客を安心させるために見せるための小切手だよ。
そんなもの貸すなよ。ヤバイこと考えてるかもしれないから」
社員A「はい、もちろん」
![](https://assets.st-note.com/img/1640170601162-8A8zBJOxty.jpg)
狡猾だが計算の足りない男
社長「まったく、カネなんとかしろったって、どうにもならねえからなあ。
山田のヤツ、オレの前で妙に貧乏ぶるんだよ。
『今日も100均でカップラーメン買ってきて食べてるんですよ』
なんて、さびしい顔つくって言いやがるから、
『バカヤロー、となりのスーパーじゃ79円で売ってるよ!』
って言ってやったら、
『えー?!』なんて悲しそうな顔しやがって、ハハハ!
このあいだも『車貸してもらえませんか?』なんて言ってさ、
『会社のがあるだろ』って言ったら、
『いえ、遠くへ行くんで、
燃費がかからない社長の車の方が良いと思って』だってよ。
金貸してるヤツに車貸すバカがどこにいるんだよ!」
社員A「だれに甘えればいいか、どんな言いかたをすればいいか、
あの人わかってやってるんですよね」
社員B「そうそう」
社長「まったくだな」
社員A「でもあの人、節約してるようで、
まったくはずれたことやってるんですよ。
お客さんがこない時間にいつまでも会社でブラブラして、
電気つけっぱなしにしたり、
ときどきお客さんと飲みにいったりして」
社員B「暖房なんかも、ずっとつけっぱなしですよ」
社長「どーしようもねえなあ、山田のヤツ!
あれだけカネがねえんだから、こまかいところで節約しろよ!
あーくそ、あいつのこと話してたら、だんだん腹が立ってきた!
あー帰ろう、帰ろう!」
そそくさと席を立つ金貸し一行。
聞いてるまわりの客たちも思ったにちがいない。しっかりしろ、山田。
完
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