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【アイマス】関裕美と出会ってから、10thツアーFINALの帰り道でスマホを水没させるまでの全記録

2022年4月に開催された、アイドルマスターシンデレラガールズの10thライブツアーFINAL公演で、私は一生忘れることのない経験をしました。誰のためでもなく、まずは自分のために、書き残しておきたいと思いました。

ただ、それを書くためには、シンデレラと自分のそれまでの歩み、そして関裕美というアイドルについて考えてきたことを前提にしなければならないため、内容は膨大になってしまいます。
結局、想定していた何倍も時間はかかりましたが、ようやく筆を執ることができました。

まず、これは回顧録であり、アイドルやコンテンツの考察といった有益な内容は含まれていません。めんどくさい私の思考の流れを追って書いているので、万人が共感したり面白いと思ってくれるようなものではないと思っています。また、プロデューサーであると同時に声優ファンにもなった経緯も書いている都合上、ライブや中の人といった要素をかなり重点的に扱っています。

皆さんがどうかは分かりませんが、他の人が何を考え、どうやってアイマスと向き合っているかということを物語として聞くのが個人的には好きです。
この一篇もそんな物語としてあなたの暇つぶしになれば幸いです。

本文の記述は筆者個人の見解や不確かな記憶に基づくものであり、必ずしも客観的事実や集団の共通認識を反映しているものではありません。

最初の一歩 ~ モバマスを始める

2011年11月28日、Mobage版アイドルマスターシンデレラガールズ(通称モバマス)サービス開始。
当時、私はPとして既にアイマスを楽しんでいたものの、モバゲーのアカウントは作らなかったし、事前登録もしていなかった。
有り体な話だが、ソーシャルゲームというものが漠然と苦手だった。

FLASHゲーム(死語)ほどのゲーム性もないくせに、何故こんなものが世間で持て囃されるのか。ガチャというシステムはいくらなんでもひどくないか。それにしても怪盗ロワイヤルのCMは何故あんなにウザいのか。

加えて、大好きなアイドルマスターがソーシャルゲーム化したという事実がショックだった。自分にとって大切な存在がいけすかないものに染まってしまったような、あえて露悪的に言うと765PRO ALLSTARSが人質に取られてしまったような、そんな気さえしていた。

この感情を乗り越えるには相応の期間が必要だったようで、実際に私がモバマスを始めたのはサービス開始から1年近く経った頃かと思う。
モバマスについてのネットニュースに目を通すようにしたり、キャラの名前を少し知ったりと、アレルギーは少し薄れてきていた。
そんな中で、自分より先にモバマスを始めていた友人が(招待特典目当てで)私を誘ってくれたのだった。

アカウントを作成すると、チュートリアルが始まる。
そして、私は前川みくに出会った。

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▼ 前川みくは、LIVEバトルというふんわりした概念を説明するために一方的に勝負を挑んでくる最初のライバルアイドル

チュートリアルというものは、どんなにゲームが下手な人でもクリアできるように作られている。
よって彼女は当然のように敗北し、プレイヤーの手持ちカードに加わる。
R(レア)という区分けに属するそのカードは、とくに強力というわけでもないので、ほとんどの人はレッスン素材として、あるいはゲーム内通貨に変換することでそれを消費するだろう。

だが私は、チュートリアルで手に入れた前川みくのカードをユニットのセンターに置いていた。

それは、ソーシャルゲームの新自由主義的世界に対するささやかな抵抗、あるいは意趣返しのつもりだったかもしれない。システムが前川みくを紙切れのように扱うのならば、私はあえて彼女を自分のアイドルとして選ぶ。そこに何らかの物語性を見出したかったのかもしれない。

(言うまでもないが、プレイ開始初期から私の衣装は数えきれないほどの襲撃に遭った。)

だが、前川みくに関する悲観的な見立ては、むしろ誤っていたと後に気づくことになる。

それが顕著に表れるのが、シンデレラガールズにおいて無視できないメディア露出量の問題だ。「チュートリアルで必ず出会うアイドル」であることは、認知度に関してはむしろ絶対的なアドバンテージとなる。

とりわけシンデレラガールズ黎明期において、前川みくは、CDリリースやボイス実装、ライブ出演、アニメ登場、総選挙――と獅子奮迅の活躍を見せた。彼女に手を引かれるようにして、私はシンデレラガールズの世界にのめり込んでいった。

また、第一印象では気づけなかった彼女の様々な側面にも、少しずつ時間をかけて目を向けることができた。プロ意識の高さ。仲間への思いやり。気丈さの裏に見え隠れする脆さ。たまに出てくる関西人気質。

気づけば、自分の中では当たり前のことになっていた。
前川みくは私の担当アイドル。
誰と比べるでもなく、自問するでもなく、素直にそう思っていた。

出会い、第6回総選挙 ~ 関裕美に集う

関裕美というアイドルを最初に知った時のことを、どうしても思い出せない。正直のところ、あまり印象に残っていなかったのだろう。

一般的には、属性や記号的な部分からアイドルを知っていくことが多いと思うが、個人的には彼女の表層に強く惹かれることはなかった。また、自分がシンデレラガールズにハマっていった時期はボイス実装されたアイドルの活躍が華々しく、全体に目を向ける余裕がなかったということもある。

彼女を明確に意識するようになったのは2017年第6回総選挙の時期である。

本筋と関係ないので詳細は省くが、みく担当Pとしては第4回、第5回の総選挙を終え、担当の順位争いとは違う観点から総選挙を楽しめるようになりたいと思い始めた頃でもあった。

まず私の目に留まったのは、関裕美担当プロデューサーという人々だ。

あくまで私の考えに過ぎないが、関裕美Pは現在の総選挙戦術を完成させた陣営であると思う。

代表的な例としては、関裕美の情報だけを集めたWiki、せきペディア
有志でアイドル個人Wikiを作成するという試みはその後広く浸透したが、これはその最初期の例として知られる。
また、単純にデータを集約するだけでない、当時のPの心情が窺い知れるリッチな文章がWikiに独特の魅力を生み出している。

(本noteを読みつつ、せきペディアの「関史」のページ等と照らし合わせていただくのも一興かと思う。)

また、「関裕美」などの関連ワードが入ったツイートを見つけてはいいね&RTしていくというアクションも、今となってはシンデレラガールズ界隈での定番となっている。これについても、起源は明確でないが、早々に取り入れていたのは関裕美Pコミュニティかと記憶している。

ただ、こういった戦術的な面よりも私が衝撃を受けたのは、彼らのスタンスそのものだった。

Twitter上では「感謝感激関裕美」「関ちゃんかわいい略してせかい」「関ちゃんのまるいやつ」といったフレーズを生み出し、第5回総選挙で31位となったことにあやかりサーティワンアイスクリームを食べ……決して多くはなかった供給の一つ一つに狂喜しては、どこにでも楽しみを見出す、そんなPとしての在り方。

すごくな人たちだな、と思った。
憧れていた。

私は担当アイドルを積極的に宣伝するということが得意な方ではないし、同担当の輪の中に混じって何かをするのは今でも性に合わない。

だからこそ、自分とは真逆のやり方でアイマスを楽しんでいる関裕美Pの姿に惹かれた。そして、そんな彼らが夢中となっている関裕美をもっと知りたい、応援したいという思いが芽生えた。

ここで一本の動画を紹介したい。
関裕美に集え」という動画だ。

いわゆる「エミネムさんが教えてくれるシリーズ」の嘘字幕動画だが、この動画が私に与えた影響はあまりにも大きい。

特に印象に残ったのは後半部だ。
少し長くなるが引用する。

「彼女の成長を一緒に感じて 見守ってもらいたいんだ
 別にプロデューサーになれって言ってるんじゃない
 そりゃなってくれたら嬉しいが
 立場をそこに限定することは無いって話だ
 それぞれ好きな立場で裕美に接してくれたらいい
 別の子の担当プロデューサーでいい
 ただのファンでいい
 親戚でいい 同級生でいい
 近所の人でいい 通りすがりのおっさんでいい
 犬でもいい
 とにかく好きにしろ! お前らの自由だ
 だから彼女のことを気に掛けてみてくれないか
 ほんの軽い気持ちで構わないんだ
 少しだけ目を向けてみてくれ
 それだけでお前は関裕美を取り巻くひとりだ
 さあ 関裕美に集え

シンデレラガールズ界隈では、担当プロデューサーの数はそのまま総選挙における地盤ともなる。
だが、「関裕美に集え」は、担当かどうかなど関係なく、彼女を取り巻く存在の一部になってほしい、ただそれだけでいいと主張する。

なんてスケールの大きい考え方なんだろう。

前川みくのおかげでシンデレラガールズを受け入れ、知り、愛することができるようになった自分の世界では、シンデレラガールズは彼女を中心に回っていた。
担当を増やすということは、その歩みへの裏切りになるように感じていた。
また、(あくまで自分自身に対して思っていたこととして)「にわか」の自分が関裕美を好きと言ってよいのだろうかという心理的障壁もあった。

だからこそ、「関裕美に集え」の言葉は心地よかった。
自分の立場を一旦忘れ、彼女の歩みを追いかけてもよいのではないか、と思うだけの勇気をくれた。

やがて私は、彼女の担当プロデューサーではないというスタンスを保ちつつ、手持ちの票の一部を割くことに決める。

▼ N(ノーマル)関裕美

元々、関裕美に対しては「Nの目つきが悪い子」ぐらいのイメージしかなかった。そんな、ほぼゼロの状態から担当プロデューサーの言葉を通じて、彼女の人となりを知っていったこの期間は、今も思い出深い。
プロデューサーや仲間への信頼、変わりたいという想い、年相応の純粋さ。
気づけば、関裕美は私の中で明確に「応援したい」と思えるアイドルに変わっていた。

2017年5月14日。第6回総選挙の結果発表。
関裕美Pの健闘は結実し、彼女は属性2位・総合9位という順位を勝ち取ることになった。
この瞬間、関裕美のボイス実装が決定した。

ボイス化、枝分かれする気持ち

そこからの展開はまさしく怒涛だった。
10月にゲーム内ボイス初実装。11月に総選挙楽曲「恋が咲く季節」発表。
そして11月19日に迎えたリアルイベント6th Anniversary Memorial Partyは、関裕美役として会沢紗弥さんが出演する初のステージとなった。

配信で視聴していたが、「うおっ」と思ったことを覚えている。

会沢さんは前髪を上げ、関裕美を忠実に再現したヘアスタイルで登壇していた。デレラジ出演時からもシンデレラガールズへの並々ならぬ思い入れを感じさせるところがあった彼女。その徹底ぶりに感服すると同時に、目が離せなくなるような魅力を感じた。

翌年、2018年3月にはCINDERELLA MASTER第11弾が発表された。
関裕美のソロ曲は「楽園」。

壮大なピアノのイントロから始まる美しいトラック。透き通るような、それでいて芯のある歌声。ぐっと心を掴まれた。
ライブで聴けたらいいな、という思いが芽生えた。

また、3月末にはデレステにて関裕美の限定SSR[青春デビュー]が追加される。

自分の中で関裕美が熱くなってきたタイミングだったので、結構動揺した。しかし貴重なジュエルを使ってしまってよいものか……とも思った。が、同時追加アイドルがもともと好きだった多田李衣菜だったことを幸いに「どうせ李衣菜狙いで回すってことでいいっしょ!」といっぱい回した。(結果、関裕美を引き当てた。)


この頃、関裕美への興味と並行して、会沢紗弥さんのパーソナリティを知ってみたいという気持ちも湧いてきていた。

そんな折、ひとつの偶然が重なる。

当時、会沢さんがとある声優ユニット――奇しくもシンデレラの仏語読みをその名に冠していた――に所属していたことは、ご存じの方もいるかと思う。
私もなんとなく存在を認識してはいた。
そんな折、飲み会でサークルの後輩が偶然にもそのユニットの現場に通っている、という話をしていたのを耳にした。めちゃくちゃビビった。平静を装いつつ、その現場の雰囲気について根掘り葉掘り聞かせてもらった。
そして、首尾よく4月末のライブチケットを購入した。

その場での経験は、それまで自分が親しんでいたアイマスライブの世界とはまったくかけ離れたものだった。
会場は秋葉原の小さなライブハウスで、披露されたのは主にアニソンカバーと、いくつかのオリジナル曲。また、客の盛り上がり方は、控えめに言ってとても奔放な感じであった。

その日、私は初めて会沢紗弥さんを肉眼で見た。
ただ、ライブハウスの喧騒と熱気の中で、「関裕美を演じている声優さんがいる」という実感は湧かないまま、漠然とステージを眺めていた。

一通りライブが終わると、客たちが整然と列を作り始める。
特典会が始まるのだという。
物販で一定金額のグッズを購入するごとにチェキ券が貰えるというもので、ほとんど地下アイドルの文化であったし、私にとって馴染みのないもので、ちょっと怖かった。

……いや、正直になろう。
既に私はアイマスきっかけで知った声優さんのソロ活動をなんとなく追うということをしていたし、いわゆるお渡し会に参加したこともあった。
だが、そこにはあくまで「このアイドルが好きだから声優さんのことも応援しよう! ※良い感じの距離感を持って」というモチベーションがあった。

当時の私は関裕美のことを好きになりつつあったが、あくまで新参だと思っていた。
だから葛藤した。ここで私が会沢さんにがっつくのって、アイドルという媒介を挟まずに声優のファン活みたいなのをするようなものであって……それは流石にやばくない? と。
やっぱ俺はオタクじゃなくてプロデューサー、だからさ……。



特典会の列に並んだ。
一緒に来てた友人を置き去りにして並んだ。
後輩からは「お、やってますねぇ~~!」という生暖かい目つきで見られた。

実際に葛藤はあったのだが、それでも行動に移した理由は、特典会の際に二言三言の会話ができるからだ。

ファンレターやSNSなど、思いを伝える手段はあるとはいえ、キャストに面と向かって何かを伝えられる機会は本当に少ない。
関裕美役の会沢紗弥さんと話した、という経験が今後できるかどうかも分からない。失うものもほとんどないのだから、飛び込んでしまえ、という気持ちだった。

やがて私の順番が回ってきて、いよいよ会沢さんと対面する。
大した言葉は浮かんでこなかったが、今日のイベントについてのありきたりな感想などを述べた。
それでもひどく緊張したし、気づいた時には終わっていた。

会沢さんと話せたという喜びと同時に、罪悪感もあった。
私は、会沢紗弥さんに言えるようなことを、彼女自身のことを全く知らない。

結局、その日を境に、私は、段々と会沢紗弥さん個人のファンになっていった。
先に述べたように、とにかくアイマスを大事にしてきた人間にとって、それは多少なりとも自分のスタイルを曲げることでもある。

しかし、関裕美の担当プロデューサーになるよりはよっぽど気楽にできることだった。
私の知っている、偉大で、面白く、関裕美のことを私よりずっと前から応援している担当プロデューサーには、どう頑張っても追いつけない。
でも、関裕美と関係なく、いち声優としての会沢紗弥さんのファンになることに、誰がケチをつけられるだろうか。

そう思うことで自分を納得させた。
自分の中で膨らんでいく、関裕美への屈折した感情を、会沢紗弥さんへの応援に昇華しようとした。

振り返ってみると幼稚としか言いようがないが、当時の自分には自然な成り行きだったのだろう。

ちなみに、私は某ユニットにのめり込み、現場にまあまあのペースで通っていくようになる。それは彼女がユニットを卒業する日まで続いた。
秋葉原の店舗に早朝から並び、手紙を書き、ライブハウスに出向き、CDを買い……青臭い思い出だが、そこで過ごした時間の一つ一つは、今も私の胸に大切にしまってある。

そして楽園へ ~ SS3A

2018年9月、スターライトステージ(デレステ)の3周年に開催された、「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS SS3A Live Sound Booth♪(以下SS3A)」。リミックス楽曲の披露が示唆されたり、前橋での開催となったりと、通常の周年ライブとは違った趣向を凝らした斬新なイベントだった。

私は運よくチケットを手にすることができ、喜び勇んで会場に向かったのだが、このライブは本当に印象に残っている。当日の思い出も併せて書き残しておく。

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▼前橋駅に降り立つと現れるサイネージ

会場の前橋市が協賛に入ったこともあり、街の雰囲気がアイマス一色となっていたことが、まず嬉しかった。

一方で、私の身体には異変が起きていた。

昼食にソースカツ丼を食べていた時だ。
全く自慢にならないが、自分は割と早食い・大食いの方なので、食事はたいてい短時間で済んでしまう。

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▼ とってもおいしいソースカツ丼

だが、この日は、目の前のソースカツ丼がやけに重く感じられた。
何故か。

SS3Aの出演者として、関裕美役会沢紗弥さんがクレジットされていた。
この時期での大型ライブ初出演、ということになると、どうしても意識してしまう。

「楽園」、やるんじゃないか……?
期待していいのか。でも、やらなかったらどうしよう。
周年ライブじゃないんだよな……コンセプト強めっぽいし……いや、案外あり得るのか?

そんな思いが頭をもたげるたび、箸は鉛のように重く感じられ、サクサクのカツは喉を通らなくなっていった。

子供の頃、ジャニーズにハマっていた姉がライブを見に行く前に決まって少食になるという現象があり、両親は「恋煩いかよ」と言って爆笑していたのを思い出した。

時間をかけて完食し、会場であるグリーンドーム前橋へ向かう。

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▼ フラワースタンド、と言われ列に並んだ先でこれが見れる。やばい

到着してからは、Cygames提供の凄すぎるフラワースタンド(?)の映像にライブの始まりを感じた。また、知り合いのP仲間と語り合い、開演前の気持ちを高めていった。そして入場。

セットリストはデレステのユニット曲やRemix楽曲が中心で、シンデレラガールズの幅の広さを見せつけるような展開となった。
左右が非常に広い舞台構成も相まって、視界いっぱいに広がるステージを眺め、極上の音を楽しむ、最高のライブだった。

そして、9曲目にその瞬間は訪れる。

この日まで何度も、本当に何度も何度も何度も聴きこんできた、荘厳なピアノの協和音。
楽園」のイントロだ。

心臓が痛かった。
私は、目の前で起こっていることが、二度とやり直せない、しかし大切な瞬間であることを本能的に悟った。一秒たりとも見逃さず、目に焼き付けようと試みた。

私が見たのは、
ステージ上で完璧に表現される関裕美というアイドル。
私が親しみを抱くようになった会沢紗弥さんという人間。

ふたつが完璧に調和し、溶け合っている。

関裕美しか見えなかった6th Anniversaryの時とも、会沢紗弥さんしか見えなかった某現場の時とも違う。
二つに枝分かれしたものが、再び一つに融合し、とてつもない輝きを放っていた。
鳥肌が立つほどの歓喜と感動。天にも昇る心地。

私にとっての「楽園」がそこにあった。

歌唱中、ステージ上の彼女の表情が歪み、声色に涙の気配が混じる。
当時の彼女にとってそれが人生最大の舞台だったことは間違いないだろう。ここまで来れたという思い、失敗したくないという恐怖、様々な感情が脳裏を巡ったはずだ。観衆にも緊張が走る。
泣き崩れてしまうんじゃないか――。

私は、指に痣ができるくらい、力いっぱいコンサートライトを握りしめていた。
心の中で必死に唱えた。

頑張れ。
大丈夫だよ。
絶対行けるよ。
信じてるよ。
頑張れ。

自分の立場も、それまでの葛藤も忘れていた。
彼女と自分とステージだけがそこにあり、他の全ては、まるで最初から存在していないように感じられた。
長年アイドルマスターを追ってきて、そんな想いでライブを見たのは初めてだった。

やがて彼女は「楽園」を歌い切り、会場は万雷の拍手に包まれた。

また、ライブ後半では、新規ボイス勢が揃って「always」を歌唱した。

この曲を聴いたことがないという人は、歌詞にだけでも目を通してもらいたい。
凄まじい数のアイドルがいるシンデレラガールズの中で、たった一人のアイドルと出会い、向き合うという物語。それがプロデューサーの数だけ存在しているということのかけがえなさを想わずにはいられない、素敵な歌詞だ。

いつも いつも いつも
あなたは見つめていて
くれてたんだね
私に出会ってくれて
ありがとう

「always」

ステージ上のアイドルたちを眺めながら、関裕美に出会えたこと、彼女にボイスがついたことのありがたさに思いを馳せた。

終演。

開演前の道中のことは鮮明に覚えているのに、会場を出てからの記憶があまりにもおぼろげになっている。暗い空、バス待ちで混み合う会場前、本当にそれぐらいだ。

ただ、自分の中で根を生やしつつも、真剣に向き合うことを避けていた感情を、この時から明確に意識するようになった。

関裕美は、私にとって特別なアイドルになりつつある。

それでも、担当プロデューサーになるということはなかった。
あくまで私は前川みくのプロデューサーであり、彼女への想いや熱を保ったまま、新しいアイドルを担当するということは、どうしても難しいことのように思えたのだ。
そして、関裕美のために何かをするという決意もできなかった。

何者でもない自分 ~ 6thライブ

2018年11月、12月に開催された「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 6thLIVE MERRY-GO-ROUNDOME!!(以下6thライブ)」は、それぞれ埼玉と名古屋を舞台にしたシンデレラガールズ初のドーム公演。
全4公演を四季に見立て、テーマパークを模したスペクタクルな演出を取り入れたこのライブは、シンデレラガールズというブランドの強みを最大限に活かしたものだった。

前川みく役 高森奈津美さんは埼玉公演DAY1に出演した。
個人的イチ押しユニットである*(Asterisk) with なつななが揃っての場面も印象深いが、ソロ曲をドーム会場で歌う担当アイドルの姿は、やはり誇らしかった。

11月の埼玉公演を終え、翌月には名古屋公演。

当初は、このナゴヤドームでの公演に参加する予定はなかった。
学生という私の身分ではチケット代の工面にも苦労しており、「担当が出るライブでなければ関東外への遠征はしない」というのが基本的なスタンスだったからだ。

だが、SS3Aを経て、私の心は揺れていた。
名古屋公演DAY2には関裕美役 会沢紗弥さんが出演する。
もしかしたら、「楽園」をまた聴けるかもしれない。

そうして迷っていた私に、知人から「連番枠が余っていますがどうしますか」とのお誘いが舞い込んできた。(当時はチケットの連番者記名がなかったおかげで、こういったことも多かった。)

改めて、自分自身に問い直した。
「楽園」を聴くチャンスが今後の人生で何度あるだろう?
SS3Aでの体験は、そんなことを思わざるを得ないほどに強烈なものだった。
見逃したくない、という感情が確実に生まれていた。

結局、私は参加を決意し、学業の傍らアルバイトに勤しんだ。


いよいよ迎えた公演初日。
長距離バスで名古屋入りした私の身体は疲れていたが、着いて早々に発見した実物のナナちゃん人形にテンションは爆上がりした。

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▼ 安部ナナちゃん人形と関裕美バナー

DAY1は現地チケットを取っていなかったため、市内のLVで鑑賞することになった。埼玉公演の流れを引き継ぎつつも壮大な楽曲や激しい楽曲が続く、ボリューム満点のセットリストだった。
その熱のままに知人Pとの賑やかな打ち上げに参加し、とことん語り合い、濃密な時間を過ごした。

DAY2、千秋楽の朝。
橘ありす好きの友人と「名古屋に来たってことは、行くっしょ」という流れで喫茶マウンテンへ。

店前に着くと昼前にも関わらず長蛇の列。とにかく時間があったので、関裕美も登場していた7th Anniversaryアイプロを一心不乱に走った。アイプロの舞台が遊園地なこともあり、ライブテーマと地続きになっている感じがして楽しかった。
そうこうしているうちに入店し注文。

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▼ 喫茶マウンテンの定番メニューのひとつ。ピンク色の麺にはいちごが練りこまれており、ほのかな香りが漂う……

いちごパスタを食した。味に関してはここでは一切触れないが、どうしても気になるという方は「ほっかほかのいちご」を脳内で想像してみてほしい。


会場、ナゴヤドームへ。

スタンド席だが真正面のほぼ最前という感じで、目の前に長い花道が伸びており、その先にエンドステージがある、というなかなかの眺めだった。

ライブが始まる――。

少し緊張感を抱きながら観ていたが、意外にも6曲目という序盤に「楽園」が披露された。

その景色は、SS3Aの時とは全く違うものだった。
会場の規模。[出会えた憧憬]モチーフの個別衣装。自信に満ちたパフォーマンス。
改めて、ここに来ることを選んでよかったと思った。

曲が間奏に差し掛かる。
関ちゃんが、会沢さんが、口元にマイクを寄せた。
そして、言った。

「アイドルになって、世界が輝いて見えたの。でも、きっと最初から輝いてたんだよね。プロデューサーさんが気づかせてくれたんだ!」

(参考:「関裕美構文」from せきぺでぃあ)

最初のカード、N+ 関裕美の有名な台詞。
関裕美Pコミュニティの中では関裕美構文と呼ばれるほど定着し、愛されている言葉だった。

その存在は知っていた。
だが、その時、私の心を駆け巡ったのは、暗い感情だった。

「プロデューサーが気づかせてくれた」と関裕美は言う。
でも、私は彼女の担当プロデューサーではない。
最初から彼女を応援していたわけでもない。

彼女が成長したのも、ボイスが付いたのも、会沢さんという素晴らしい役者に出会えたのも、何一つ私のおかげではない。

私はたまたま、彼女とプロデューサーが頑張っているところに居合わせて、都合よく感情移入していただけじゃないか。

だから、ここで彼女の言う「プロデューサー」は、私のことじゃない。
この言葉は、私に向けられたものじゃない。

エンドステージが限りなく遠く、遠くに見えた。

(言うまでもなく、これは私の勝手な逆恨みである。あの演出は多くのプロデューサーを感動させたはずだし、結局は私が考えすぎな性格だったために、歪んだ形の受け取り方をしてしまったというだけのことだ。)

それでもライブは進んでいく。
私の眼前で――奇しくも、再び「always」が披露された。
それは、「流れ星キセキ」を終えたnew generationsが歌い始め、最終的には当日の出演アイドル全員が歌唱するという演出だった。

そこに前川みくが立っていたとしたら、あるいはそこに関裕美が立っていなかったとしたら。私は何か違うことを考えることができただろう。
だが、関裕美のいる空間で、私は「always」という曲の歌詞と向き合うことを余儀なくされた。

急に、ステージのどこを見ればいいのか分からなくなった。

いつも いつも いつも
私はあなたに
愛されていたんだね
私を見つけてくれて
ありがとう

「always」

歌詞の一節一節が心臓に突き刺さり、私の欺瞞を暴いていくかのようだった。
私はどうしようもないほど関裕美のことが好きになっていた。せめて夢想の世界の中では、彼女の愛や信頼を享受したかった。
だが、彼女のために何もできていない、という事実――あるいは、私の捻じ曲がった性根が、それを許さなかった。自分にはこの言葉を受け止める資格がない、と。

私を選んでくれて
ありがとう

「always」

最高のステージを前に、ただ立ち尽くすしかなかった。
ここまで来て、関裕美の担当を名乗れない自分は何なんだろう。もしかしたら、自分はただ会沢紗弥さんが好きな声優ファンに過ぎないのかもしれないとさえ思った。

そういえば、SS3Aの終演後にある知人Pが言っていた。
あの「楽園」のステージは、関裕美Pに嫉妬してしまうほどのものだった、と。結局のところ、私の逡巡もそこに帰結するのだろう。

私は、関裕美のことを、関裕美担当Pをきっかけにして知った。彼女の奥に、いつも彼らの姿を見ていた。
画期的な戦術と底なしの明るさで担当アイドルを導き、ボイス化を勝ち取ったプロデューサーたち。

私も彼らのようになりたかった。
でも、タイムマシンで過去に戻れない限り、それは叶わない。

だから彼らを猛烈に妬んでもいた。あまりにも単純な僻み、ないものねだり。結果として、真正面から関裕美に向き合うということができないまま、自分で自分を傷つけていた。

ライブを終え、帰路に着く。
ただその時は、どこでもない、夜の闇に消えていきたいと思った。

(前川みくの担当であり続けることに対してはどうだったかと言われると、不安感を覚えたことはなかった。私にとってのシンデレラガールズは紛れもなく彼女から始まっているので、頭で考えるよりも、当然の居場所として、ずっとそこにあるような感じがしていた。それは、新カードが引けなかったり、イベントが走れなかったりした時でも、全く変わらなかった。)

楽園は遠きにありて ~ 7thライブ

この経験をきっかけに、関裕美について考えるたび、後悔に苛まれるようになる。
それでも、やはり彼女との不思議な縁はあると思わざるを得ない出来事はあった。

6thライブからおよそ2週間後に開催されたCygamesFes2018(サイゲフェス)のシンデレラガールズ ステージに会沢紗弥さんが出演されたのだが、幸運にもその現地観覧招待に当選したのだ。

6thライブの記憶も冷めやらぬ中、「Starry-Go-Round」や「イリュージョニスタ!」などの楽曲を間近で鑑賞することができ、本当に贅沢な体験だった。また、会沢さんが初めて前髪を下ろした状態で関裕美としてステージに立ったことも思い出深い。

年が明けて2019年、一つの転機があった。
会沢紗弥さんのユニット活動卒業というニュースである。それは、役者として新しいステージに進もうとしてのことだ、というのは否が応でも伝わってきた。
また、彼女の卒業は、私が某現場で過ごしてきたモラトリアムの終わりも確実に意味していた。

5月の卒業ライブに足を運んだ。
特に印象深かったのが、最後のMCで会沢さんが語っていた、「アイドルを演じる時に必要になるスキルを、この場所で学んできた」という言葉だ。

率直に言って、すごく嬉しかった。

それまでの私は、アイマスを大事にしようと思うあまり、アイマスとそれ以外を切り分け、順位をつけようとしてきた。
でも、アイマスを作るスタッフにも、キャストにも、我々にも――個々の人生があり、生活がある。そんな人々がアイマスを作っている。

アイマス以外の全ての瞬間での気づき、感情、経験が血肉となり、アイマスに流れ込んでいく。そして、今度はアイマスから受け取ったものがそれぞれの人生へと還元される。無限のサイクルだ。

どんなに関係のないように見えることでも、きっと何かに繋がっている。
会沢さんの言葉は、そんな当たり前のことに気づかせてくれた。この空間で後ろめたい思いをしてきたプロデューサーとしての自分を、少し肯定することができたように思う。

(ライブ後、特典会で言葉を交わすことができた。
何を話したか、ここでは記さないが――色んな意味で記憶に残る、ちょっとした出来事もあり、自分の中では納得のいく形でピリオドを打つことができた。)

これを機に会沢さんのファン活動を終えたわけではなく、会沢さんの役者としての活動が本格化したこともあって、むしろ私の「応援したい」という気持ちは高まっていった。
とはいえ、一時期は特に舞台出演が増え、「これを全公演観るって相当大変だな……」と私も冷静になった。あくまで自分の軸はアイマスであると決めているので、そこはブレない程度に上手く追っていこうと決意し、今も継続している。
(初主演舞台の『暗転エピローグ』めちゃくちゃ良かった。もっと観たかった。また、最近はメインキャストとしてのアニメ出演がとても多くなり、押しも押されぬ人気声優としての地位を確立しつつあるようで嬉しい。)


シンデレラガールズの7thライブツアー、「Special 3chord♪」。
その皮切りとなる9月の千葉公演「Comical Pops!」の出演者に、会沢紗弥さんがクレジットされていた。

会沢紗弥さんが新たな道に進んだ2019年。私も昨年から引き摺ってきた想いを整理する方法を考えてきた。これから関裕美とどう向き合っていくか。
一つの問いを握りしめて、ライブ会場へ足を運ぶ。

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▼ 恒例のCygamesフラワースタンド。でかいモニターとぴにゃヘッド

セットリストはコミカルというタイトルにふさわしい内容で、ポップで盛り上がる曲が中心。途中、「きゅん・きゅん・まっくす」を歌う関裕美にめちゃくちゃやられたりしつつも、楽しいステージが展開されていく。

そして迎えた23曲目、「楽園」。
この日のソロ曲としてはトリだった。

「楽園」を聴きながら私が何を思ったか――とにかくステージに集中していたので、正確に言葉を起こすのは難しい。
ただ懸念していたようなネガティブな感情は全く無かったのだが、明確な変化があった。

これまでライブで「楽園」を聴く時、私の頭の中には関裕美とプロデューサーという一対一の関係だけが浮かんでいた。
しかし、この時に初めて、(自分以外の)観客席の人々に意識が行った。

関裕美は、今、これだけ大勢の観客に歌を歌っている。
そんな当たり前の事実にふと気が付いた。

たくさんの笑顔 見せてあげるね
あなたに向けて

「楽園」

「楽園」の歌詞に度々現れる「あなた」という言葉。
関裕美は、誰を想いながらこの詞を歌うのだろう?
もちろん、プロデューサーのことも考えるかもしれない。だが、それだけでないはずだ。ファン。アイドルの仲間。学校の友人。両親。お世話になっている人々。さまざまな人々の顔が走馬灯のように浮かぶのではないか。

私が思っていたよりも、「楽園」は、スケールが大きい歌なのかもしれない。

「楽園」というタイトルについて、作詞・作曲・編曲の渡辺量さんは次のように語る。

「楽園=すべてが理想の場所というのはどこにもないんだけれども、自分が思えばどこだって楽園になる」
「人生の中で好きな人とかコトに出会えれば、その現実世界こそがその人にとっての楽園になる」
「関裕美は、きっと自分の楽園を探せる人だろうな、と思いながら作った」

※引用・要約は筆者による

THE IDOLM@STER MUSIC ON THE RADIO 第21回 (2019年3月6日放送)

自分にとっての楽園という言葉の考え方と符合するところがあり、とても嬉しかった。
加えて、次のようにも思った。

現実の世界において、楽園はどこにも存在しない。言ってしまえば対象のない単語だ。では、そんな言葉がどうして生まれたのか。

宗教的な文脈に深く立ち入らない程度に考察するなら、それは過酷な生を耐え抜くための逃避のようなものだったのだろう。ここではないどこかに理想郷を想像し、満ち足りた状態で生きている自分を思い浮かべ、一時の安らぎを得る。

逆に言えば、楽園は、遠くで想うからこそ楽園になる。
届かない、たどり着けないからこそ、私たちの想像の中で楽園は心を和ませ、勇気を与えてくれる。
自分が楽園と思っている場所に足を踏み入れたとき、楽園はもはや楽園でなくなってしまうのかもしれない。

そんな考えと、自分の状況を重ねた。
関裕美担当プロデューサーになれば、それは私にとって本当に幸せなことだろう。だが、その一歩を踏み出す勇気も出ず、かといって全てを諦める気にもなれない、この宙ぶらりんな状態にも意味があるはずだ。
「楽園」は、関裕美は、全ての人々を包み込む無償の愛に満ちている。
その愛の対象の一部に、私は既に入っていたのだ。担当かそうでないかという区別は、本当に必要だろうか?


Comical Pops!のセットリストの終盤は、ライブ映えするアップテンポな楽曲が続く。その締め括りとして全員で披露された曲は、「M@GIC!!」。
アニメ・アイドルマスターシンデレラガールズの集大成的な曲でもあるが、その歌詞は、コンテンツ全体を総括するようなメッセージにも満ちている。

ここでめぐり逢えた
ずっと大好きなキミに
ここでめぐり逢えた
キミと共に

「M@GIC!!」

ライブでは、この「ずっと大好きなキミに」の部分をコールするのが慣例になっている。プロデューサーとアイドルの間でエールを交換できるような素敵な瞬間で、本当にいつも胸がいっぱいになる。

私は、前川みくがステージにいる時は前川みくを、それ以外の時はシンデレラガールズ全体を想いながらこのフレーズを口ずさむのが好きだった。

だが、この日は関裕美のコンサートライトを握り、彼女を想っていた。
シンデレラガールズずっと大好きなことは嘘じゃないし、その中には当然関裕美が含まれている。
それでいいんだ、と一人で納得していた。

7thライブを経て、私の中での関裕美に対するスタンスは、一定の落ち着きを得た。

僕たちの止まった時間 ~ Happy New Yell !!!

7th幕張公演で突如発表されたワンステップスのイベント。楽曲は「ステップ & スキップ」。
同ユニット待望のユニット曲ということで、とても嬉しかった。

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▼ イベントコミュの冒頭。このメンツで何故か焼き肉屋から始まるのが最高。初手エビ行くことある?

関裕美のユニットについては、代表的なGIRLS BE NEXT STEPも含めモバマスでの展開が中心だったわけだが、モバマスに精力的に取り組めていなかった自分にとっては情報として把握しているだけの領域だった。
そんな中で、ユニットの新しい1ページをリアルタイムで追えるというのは新鮮な経験であった。

また、そのモバマスでは10月にイベント「空想公演 森の彷徨い花」が実施。久々に上位報酬となった関裕美は、同時に公演の主役ともなった。

華々しい活躍を経て、関裕美というアイドルがステージを駆け上っていくのを見守った。そして、2020年を迎える。

2020年春、世界が止まった。

我々の生活はもちろん、アイドルマスターも大きな影響を受け、シンデレラガールズ7th「Glowing Rock!」公演を最後に、ライブ自体が長期中断、無観客化。

先行きが見えない中で、色々なことを考えた。
ただ漠然と、自分はアイドルマスターを、シンデレラガールズを、関裕美をずっと見ていられると思っていた。
だが、この時に初めて、いつか来る終わりを意識した。

私に残されている時間は、思っていたよりずっと少ないのかもしれない。

かつて自分に問いかけた言葉が、再び頭をよぎった。
「楽園」を聴くチャンスが今後の人生で何度あるだろう?

そして、人生を終えるとき、関裕美の担当プロデューサーとならなかったことを、本当に後悔しないだろうか?

この時から、私はスタンスを改めていった。関裕美の担当プロデューサーという肩書を背負うことはまだできないかもしれない。だが、あくまで行動の中でなら、自分を変えられるのではないか。

「関裕美担当プロデューサーであればやりそうなこと」を、ただやっていく。
そこにおいて自分の立場がどうか、他者の判断がどうか、といった尺度は持ち出さない。とにかく、何かをやりたいと思った。

そんな4月、第9回シンデレラガールズ総選挙が開催。
私は、手持ち票を前川みく・関裕美に1:1の割合で投じた。
ただ私が何者であるか、その判断は留保しながら。

続いて6月、梅雨の季節。モバマスで、あるイベントが始まる。
雨と歌おう♪ 第54回ドリームLIVEフェスティバル」で、上位報酬カードは[雨の日の笑顔]関裕美だった。

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▼ SR[雨の日の笑顔]関裕美

私は、総選挙期間を除くとそこまで精力的にモバマスに取り組んできたわけではないので、いわゆる上位報酬2枚取りを軽々出来るほどの資源は持ち合わせていなかった。
走れない。そのことは日の目を見るより明らかだった。

でも、やれるだけのことはやろう。前向きな気持ちが不思議と芽生えていた。
毎朝ログインし、ラウンド限定ドリンクを消費し、なけなしのアイテムを切り崩し、――久々の拙いイベランは1枚取りという結果で幕を閉じた。

しかし、確かな充実感と、関裕美のカードが手元に残った。

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▼ 大好きな台詞。

そんな2020年においても楽しめるイベントは各所で開催されており、シンデレラガールズというコンテンツでは24時間生放送「LIVE Broadcast 24magic」があったりした。

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▼ 朝6時からのラジオ体操。とりあえず起きた。頑張った。

また、2020年を通して、しんげき楽曲の「Sing the Prologue♪」への参加や、デレステでは「THE VILLAIN'S NIGHT」イベントなどがあり、関裕美の活躍の場は益々広がっていった。

そして、2021年の新年ライブの開催が発表された。「Broadcast & LIVE Happy New Yell !!!」だ。なんとDAY2には前川みく役の高森奈津美さん、関裕美役の会沢紗弥さんが出演するという。前川みくと関裕美の共演。恐れてもいた、しかしどこかで待ち望んでいた舞台。

運良く現地チケットも抑え、あとは当日を待つのみ……だったのだが、不幸にも直前で無観客配信への変更が発表された。

内容としては、前川みくが「Joker」、関裕美が「ステップ & スキップ」と、最新のユニット曲を披露する見せ場があり、非常に嬉しかった。

その一方で、全体曲を除くと両者が同じステージに並んで歌うことが一度もなく終わるという、個人的には「マジかよ」という結果になったのも思い出深い。

ただ、やはりこのライブを通して、自分の気持ちはポジティブな方向に変わっていることを確信した。特に、前川みくと関裕美の出番を同じくらい楽しみにしている自分に気づけたのが大きかったように思う。

そして関裕美に対して、「これだけ好きになっているなら、担当ではないにしても、"すごく好き"みたいな特別な何かだろうな」というぐらいには気持ちの整理をつけられるようになっていた。

きっかけを待ちながら ~ 10thツアー福岡公演

2017年に関裕美に興味を持ってから、気づけば、かなりの年月が流れた。
ゆっくりと、しかし確実に、関裕美と過ごしてきた時間が、私の心を変えつつあった。
やがて、「いつか関裕美の担当プロデューサーになるのだろう」という漠然とした予感を抱くようになった。

残されたのはタイミングの問題だけ。
何かが私の背中をトン、と押してくれたのなら、それで事足りる。
そうして、きっかけを心のどこかで待ち続ける日々が続いた。

2021年後半より、シンデレラガールズの10thライブツアー、「M@GICAL WONDERLAND TOUR!!!」が開幕。
当初予定されていた名古屋公演が延期となったこともあり、関裕美役 会沢紗弥さんが出演する福岡公演「MerryMaerchen Land」がツアーのトップバッターとなった。

いよいよ関裕美に対する葛藤に決着をつける。その上で、いま現地で「楽園」を聴くということは、自分の気持ちを確認するために最も効果的なことのように思われた。
絶対にこのライブ、行かなければならない。
ここまで割と関裕美のライブには行けている自分だ。なんならサイゲフェスの抽選とかも当ててるし。今回も大丈夫なはずだ。よし!



チケット抽選、全落した。
アソビストア先行も一般先行も全部。
嘘だろ、と思った。
正確に言うと、「嘘だろ~~いや~~嘘嘘嘘嘘!!!!やだ~~~!!!!俺が行けないことある!!??(あるよ)」とじたばたした。
ついでに福岡で美味しいもの食べるのとか色々計画してたけど、完全におじゃんになったショックもあった。

チケットが当たらなかった事実に病みモードが再発しそうになったが、ギリ耐えられたのは、本公演のテーマソングである「かぼちゃ姫」の歌唱メンバーに関裕美が抜擢されたことが大きい。

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▼ このイラストの衣装はライブ衣装のモチーフにもなっていた。関裕美と会沢さんによく似合う

9月末にはデレステで同曲のイベントも開催された。アイドルとしてのこれまでの歩みを振り返っていくような内容で、そこで触れられているいくつかの内容の意味に気づくことができたのは、純粋に嬉しかった。

そうしてライブへの気持ちを高めていき、当日は配信で視聴した。

DAY1開幕、「かぼちゃ姫」からのスタートに度肝を抜かれる。いやしかし、公演のテーマ、ひいてはシンデレラガールズのモチーフによく合っていて、これはこれでアリだな……と感動。

続くは「Starry-Go-Round」。色んな思い出がある曲だが、ライブはもちろんとして、関裕美の様々なカードのことを想起しては胸がいっぱいになった。

また、終盤には「THE VILLAIN'S NIGHT」も披露された。関裕美の新たな一面をしっかりと表現してくれる会沢さんのパフォーマンスに頭が下がる思いだった。

「楽園」が披露されたのはDAY2。
やはり配信で見ることの口惜しさはどこかにあったものの、大好きで大好きでしょうがない曲の前には些細なことだった。
そして、7th幕張公演を通じて確認することができた、この曲の持つスケールの大きさは、配信だからこそ感じられた面もあったように思う。

最後のMCでは、会沢さんが、この曲について「一生をかけて歌っていきたい」と語っていた。本当に心の底から嬉しかった。
死ぬまでに「楽園」をあと何回聴けるだろう、と恐れていた自分にとって、焦らなくてもいい、と思わせてくれるような言葉だった。

とはいえ、担当云々に関する問いはここでも保留することとなり、次の舞台へ。
このnoteもようやく本題に辿り着いた。

10thツアーFINAL公演

2021年末、10thツアーのFNAL公演開催が発表される。
単にツアーの締めくくりというだけでなく、シンデレラガールズの10周年の集大成となるような、そんなライブとなることが予感された。

なんといっても、両日出演者がオールシークレットという試み。
シンデレラガールズ全体をリスペクトし、応援している自分にとっては全く問題にならないが、それでもお気に入りのアイドルが登場するかどうかはドキドキしてしまう。

特に、前川みくについてはここまでのツアーで未出演となっていたこと、関裕美については福岡公演で私の現地参加が叶わなかったこともあり、個人的な期待は高まっていた。

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▼ 当日は公式グッズのカスタマイズTシャツで参加した。アガッた。全マスで作れるようにしてほしい

2022年4月2日。迎えた「M@GICAL WONDERLAND!!!」本番。
投票企画「My Best Cinderella Songs」の上位30曲を含め、2日間で100曲を披露するほか、DAY1ではシンデレラガールズのライブの歴史、DAY2ではコンテンツ全体の歴史を総括する……という、壮大な公演となった。

DAY1の開幕から熱いセットリストに心と体が熱くなった。その一方、前川みくが幕間の影ナレで登場したことで、「どうやら高森奈津美さんは出演しないかもしれない」ということが、なんとなく予感された。

とはいえ、オールシークレットのライブに参加した時点でそのような可能性は覚悟していた。一曲一曲を楽しみながら、これまでの歩みを振り返り、あっという間にDAY1が終演。

そして運命の日、DAY2。

序盤から明るく激しい曲が続き、畳み掛けるようにライブは「ドリームLIVEフェスティバル」のブロックへ。モバマスの同イベントを思わせるようなユニットの豪華共演を楽しんでいると……

Love∞Destiny」by ワンステップス

めちゃくちゃなことが起こった。
もちろん、関裕美役 会沢紗弥さんの登場を心待ちにしていた。だが、あまりにも予想外の方向からの襲撃にあっけにとられているうちに曲が始まり、終わった。

(余談だが会沢さんのファンとして、彼女がなんといっても佐久間まゆを好きであるという事実に思いを馳せざるを得なかった。めちゃくちゃ最高だな……となった。)

その後、会沢さんは「THE VILLAIN'S NIGHT」や「Stage Bye Stage」を披露。

自分のいたスタンド席上段から、彼女はあまりにも遠くに見えた。それでもよかった。
2019年9月の「Comical Pops!」公演から2年半余り、彼女のステージを生で見ることができなかった。その年月を経て今、同じ空間に再び立てている。その事実がありがたかった。

FINAL公演もいよいよ佳境に差し掛かった。

まず、「My Best Cinderella Songs」1位に選ばれた「ガールズ・イン・ザ・フロンティア」の披露。
シンデレラガールズの歴史は、競争という要素が良くも悪くも彩ってきたように思う。そんな中で、この曲が1位となった事実にはシンデレラガールズのプロデューサーたちの矜持――それでもこれがシンデレラガールズだ、という決意のようなものが見え隠れしているような気がして、胸が熱くなった。

「S(mile)ING!」。シンデレラガールズのセンターであり象徴でもある卯月。思えば、シンデレラガールズの様々な場面には彼女がいつもいてくれた。島村卯月役 大橋彩香さんの、圧巻のパフォーマンス。

そして、「ココカラミライヘ!」。これまでの総選挙でシンデレラガールの称号を勝ち取った10人のアイドルが歌うことを許された、特別な曲だ。満を持して初代シンデレラガールの十時愛梨役 原田ひとみさんが登場した瞬間には、鳥肌が立った。
一方で、「ココカラミライヘ!」を聴きながら思い浮かんだのは、私の大好きなアイドル達のことだ。
プロデューサーとして、出来ることなら、そのステージに立たせてあげたかった。感動しながらも、改めて自分の至らなさや不甲斐なさを悔いずにはいられなかった。

そう思った刹那、次の曲のタイトルがモニターに映し出される。

always」。

その日に出演した全アイドルがステージに立っていた。
茫然としていると、歌声が聴こえてきた。全員が全てのパートを歌っている
パート分けがない、その意図は明確だった。
全てのアイドルが全てのプロデューサーに向けて、彼女だけの「always」を歌っているのだ。

そこに関裕美がいた。

ある時から抱いていた、「いつか関裕美の担当プロデューサーになる」「あとはきっかけがあれば」という予感。
その可能性として思い浮かべていたのが、「楽園」を聴くこと――そして、もう一つ有り得るとすれば、関裕美の歌う「always」を聴くことだった。
かつて6thライブで苦い想いをした「always」を、真正面から受け止めることができたとしたら、その時、私は、真の意味で関裕美のプロデューサーになれるかもしれない。

奇しくも、前川みくがステージ上におらず、関裕美がいるというこの状況が、あの6thライブと全く同じであるということに私は気付いた。
そして思った。目の前で起こっているこの瞬間は、二度とやり直せない、しかし大切な瞬間だ、と。

これまでのことを思い返した。彼女を知り、好きになり、挫折を味わい、また歩んできた記憶。全てが、あまりにも大切な思い出だった。
かつて先を行く担当プロデューサーに対して抱いていた気後れに対して、それでも楽しかった記憶の重みが上回っているのを実感した。
私と関裕美のあいだには、確かに、この世界で過ごした時間があり、数えきれないほどの喜びと悲しみがあり、それは誰にも奪うことのできない、私たちだけの物語だった。

もう、大丈夫。自分の胸の奥底から、誰に聞かせるでもない、自分のための言葉が浮かび上がってくるのを感じた。

ふと、モニターに、その場にいないアイドル達の姿が映し出された。出演が叶わなかったアイドル、ボイス未実装のアイドルが一人ずつ浮かんでは、画面を埋めていく。

そこに前川みくがいた。

モニターに映る彼女は、出会った時と変わらない笑顔で私を見つめていた。
大丈夫だよ。
胸の中の声が応えた。

私は、前川みくと関裕美の担当プロデューサーだ。

2本のコンサートライトを握りしめた。大粒の涙が冷えた外気に触れ、火照った頬に涼しさを運んでくる。私は、手元で輝く2つの光を、我が子のようにただ慈しんでいた。

いつも いつも いつも
私はあなたに
愛されていたんだね
私を見つけてくれて
ありがとう

私を選んでくれて
ありがとう

「always」

そこからの時間は、ずっと幸せだった。
「関裕美の担当プロデューサーになれた」という実感をもって聴く「お願い!シンデレラ」はいつもの何倍も楽しく感じられ、ライブが終わってしまうにも関わらず、笑顔で終演を迎えることができた。

その日は大雨が降っていた。会場を出ながら傘を取り出していると、偶然にも知人Pと遭遇。某現場でも度々顔を合わせていた方だったので、今日出会えたことに不思議な縁を感じた。
「良かったですね~」なんて話をしつつ一緒に駅に向かうことに。

ベルーナドーム(西武ドーム)ではいつものことだが、終演後の駅は混雑していて改札を通過するにも一苦労する状態だった。
でも全然気にならない。なんなら最高の気分。ふぅ~~~~~!!!!
夢見心地のまま電車を決め、ホームから車両に乗る、その瞬間。

スルッ。
奇妙な感覚を太股のあたりに感じた。
下を見る。

上着のポケットに入れていた私のスマホが、ホームと車両の間の暗闇を通って落下していくのが、スローモーションで見えた。

何かの事故に遭った人とかが「スローモーションみたい」と言っているのをよく聞いたが、冗談抜きでこの瞬間はそのように感じられた。

ボチャン。

聴き間違いではなかった。
あろうことか、スマホは線路脇に出来ていた水溜まりの中に落ちた。
終わった……。
頭が真っ白になる一方で、小さな液晶が暗い水面の中でぼやけて光っていたのをやけに鮮明に覚えている。

その後、知人Pのアドバイスで駅員室に駆け込み、事情を説明。増便しているということもあり絶望感がすごかったが、数十分後の奇跡的に線路が空くタイミングでスマホを救出していただいた。ただでさえ忙しいであろう時間帯にイレギュラー対応してくださった駅員さん、私の勝手なやらかしにも関わらず待っていてくださった知人Pに改めて感謝したい。本当にありがとうございました。

(交通ICカードはスマホを使用していなかったので帰宅自体はなんとか出来たと思うし、データ類もバックアップを取ってはいた。
ちなみに、数十分間水没していたはずのiPhoneは何故か普通に電源が点いた。だが、その日の夜から電源が勝手に落ちるようになり、潮時か……と思いスマホを買い換えたところ、数日後何事もなかったように息を吹き返した。今でもサブ端末として使用している。)

一日の中で、天国と地獄のような、あれほどの乱高下を味わうことも中々ないだろう。振り返ってみると、なんとも思い出深い、特別な雨の日になった。

以上が、私が関裕美と出会ってから、10thツアーFINAL公演の帰り道でスマホを水没させるまでの顛末である。

まとめ

改めて、自分の葛藤について書き起こしてみると「こいつ自意識過剰だろ」「考えすぎだろ」という突っ込みを想定せざるを得ない。とはいえ、アイマスにおいて担当になるかどうか、あるいは担当を増やすかどうかといった問題について悩む人は一定数いるはずなので、そんな人に何かを感じてもらえれば、この文章を書いた意味はあったと思う。

私からそんな人に伝えたいことをまとめると、次のようになる。

・担当になるかどうかについて結論を急ぐ必要はない。迷っている時間そのものにも意味と価値がある。
・一歩進みたいという気持ちが少しでもあるのなら、立場を無理に決めずに、まずは行動を意識的に少し変えてみる
・なりたい自分になれているかどうか、あえて答えを出さなくてもよいので、それらしいことを積み重ねてみる。それを続けていて嫌になったらやめればいいし、前に進むきっかけが向こうから来た時には、自分の心が勝手に決断を下してくれる

釈迦に説法かもしれないが、担当問題に限らず、何かのヒントになっていれば幸いだ。

今、私自身は、前川みくと関裕美の担当プロデューサーになることができて本当に良かったと思っている。

複数アイドルを担当するというのは、大変さもあるが、想像していた何倍も充実感のある日々だ。特に、私はアイマス各ブランドを追う中で担当を接点としているので、「頑張ろう」と思える機会が増えることが単純に楽しい。

そして、新たな目標も出来た。
一つは、前川みくと関裕美を、シンデレラガールズのサバイバルな世界で、少しでも高みに連れて行くこと。
もう一つは、前川みくと関裕美がステージで並んで歌う瞬間を、この目で見届けること。

10周年を迎えたアイドルマスターシンデレラガールズが、どんな方向に進んでいくのかは検討もつかないが――これから私の行く先は、大切な二人のアイドルが両手を引いてくれると信じている。


楽園は何処?
貴方といる此処がそうだよね

「Go Just Go!」


謝辞

関裕美をここまで連れてきてくれた全てのプロデューサー、スタッフ陣、会沢紗弥さんの愛と尽力に感謝します。
最後にはなりますが、今日8月17日に誕生日を迎える関裕美に、心からの祝福を贈りつつ、結びとします。

文: ナポリンP (@Napolin_P)



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