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乙女理論とその周辺 感想

※この記事は過去にはてなブログに掲載していたものの転載です


ほぼりそなルートへの言及のみ。


個人的にりそなルートで一番気になっていたのは価値観が昭和並にガチガチな朝日がどうやって近親相姦(それも義理ではなく異母とはいえ血縁)に踏み込むんだろう、というところだったんですが、元からお互いを大切に思い心が通い合っていた2人が、その延長線上で兄妹という関係のまま恋人になっていく様子がすごく丁寧に描かれていて、とても説得力のある√担っていると思いました。

プレイする前は、りそなからの猛アタックを受けて遊星が絆されていくのかなあ、なんてことを思っていたのですが、りそなが正々堂々と遊星を攻略していたのがお見事でした。ルートが進むにつれてどんどんとたくましく成長していく中で、特に印象的だったのは

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このセリフです。カッコよすぎる…男前受けの言うセリフじゃん…。

この台詞以外にも、『お情けで愛しの兄と結ばれるつもりはありません。あなたの口からスウェーデンへ行きたいと聞くまでは抱かれてあげるつもりはありません』『本気で抱かれる心構えができました』など、これまでの憧れが多分に含まれていた気持ちに区切りをつけて、これからは恋心を介してあなたと付き合っていくのだという覚悟を込めたかっこよすぎるセリフがバンバン飛び出してくるのはもはや迫力があり、ただただ気おされるばかりでした。

これまでのりそなは遊星にとっては庇護の対象で、そこに身を置いたまま自身を妹としても異性としても愛して欲しいと強請っており、何よりも大切な兄と結ばれることに執着していたその頃だったら、たとえお情けでも愛しの兄と結ばれることを厭わなかったであろうりそなが、あなたと共に同じ土俵で一緒に戦ってやると覚悟を決めて、きちんとあなたの意思で私を愛し私を抱けと告げる。

引きこもり殻に閉じこもり、遊星に手を引かれなければ前へ進むことができなかったりそなが、いくつものトラブルや逆境に見舞われながらも、兄と支え合い手を取りあい、いつしか双方向に強烈な兄二人と同等に並んで立ち上がれるほどにどんどんと逞しく、強かになっていく様子は蛹から蝶へ、という言葉がぴったりで、可憐且つ勇ましくもあり、なによりひとりの少女としてとても美しかったです。

この美しさには少女小説のヒロインにも似たものを感じました。未熟でか弱い少女が、自分の足で立ち前へ進めるようになっていく、凄く王道な少女小説の主人公。それでも美少女ゲームのヒロイン然としたどこか守ってやりたいと思わせる危うさとか、屈折したひねくれ者的言動は変わらずで、もう全部が魅力的でした。

 エッチシーンではりそなを妹としか見れずなかなか性的興奮を覚えることができない遊星がえろげ主人公にあるまじき性欲の薄さでとても彼らしかったです。挿入時もあくまでりそなとつながるということに重きを置いていて彼のりそなを大切に想う気持ちがとても伝わってきました。

挿入時の『不貞を覚えながら関係を続けることは怖い。楽しいと無邪気にはしゃいでいるだけでは、きっと生涯を寄り添うことはできないんだ。無邪気さを犯そう。これはいけないことだと知って、それがどのようなものであるかを知ろう。この世界を踏み出そう』という遊星のモノローグがもうほんとに好きで、スクショを取ったうえでその場で写経したくらいに好きです。

体を重ねて兄妹としても恋人としてもより強い結びつきを得ることで、ともすれば共依存へと転がってしまうかもしれない関係へと足を踏み入れていくことへの強い覚悟が感じられてすごく印象的でした。前述のりそなといい、覚悟を決めた大蔵兄妹の強さがメチャメチャ好きです。


余談ですが、近親相姦を打ち明けられたときのお兄様がめちゃくちゃ面白くて夜中に思わず声出して笑いました。最終的に肉体関係を推奨してお前らこのあとセックスしろよみたいなこと言ってくるのも面白すぎる。ここまで近親相姦に寛容な身内はじめて見た。

 

お兄様は、前作ではその強烈な存在感とは対照的に彼個人の事情についてはあまり掘り下げられなかったので、今作でガッツリと描かれていて大満足。どうしようもなくブラコンなことは前作から言われてはいたけれど、今作ではいよいよ三人が手を結んで兄妹として結託したことで、より一層その一面が強く見えて微笑ましかったです。

それにしてもお兄様にも辛い過去があって弱さや脆さを抱えた人であるんだと明らかにされても、彼のキャラクターとしての強度が全く下がらないどころか、むしろ上がった気がするのがすごいですね。こういうキャラクターがいることで、とっちらからないというか、すごくゲーム全体が締まった、芯の通った印象になるので、彼の扱いの塩梅がとても秀逸だなと感じました。

 

乙りろはりそなの為の作品で、その延長線として大蔵家、とりわけ衣遠遊星りそな三兄妹の為の物語なので、この三人が強く印象に残ったのは当然なんですが、個人的な影のMVPは、出番自体は少ないながらも登場シーンがあまりにもカッコよすぎたルナ様ですね。やはりルナ様はすごい…

大蔵兄妹がもうどうにもならないのかと途方に暮れ、いよいよふたりぼっちの逃避行が始まりそうだという時に、誰もが待っていましたというタイミングでソメイヨシノの樹から登場するルナ様はずるいです。

ルナ様はつり乙の頃から凛々しくて逞しくて、全てを捧げさせてくれと思わせてしまう圧倒的な魅力を放っていたけれどそれがなんならつり乙の彼女のルート以上に炸裂していました。とてもかっこよかった…。

 

この作品の根幹は『服飾』だと思うので、家族の問題に焦点をあてながらも、服飾というテーマがずっとぶれなかったのが凄く良かったです。

遊星が、心の拠り所としていた「お兄様との血の繋がり」という、どんなことがあっても揺るがないと思われていた唯一のものが虚ろだと判明したことで途切れそうだった糸が、才能がないと一度は切り捨てられた服飾でより強い繋がりへと変わるのが物語として凄く美しい。『あなたのために服をつくる』という行為が、何よりも一番の親愛の表現になっているのが完璧でした。

そして、その服飾によって確固たるものとなった兄妹の結びつきが新たな服を生み出し、今度は家族を繋いだ、という構図が本当に綺麗。痺れますね。

りそなルートの勝因は、りそなの成長物語と、服飾というテーマが揺らがなかったことの二つが大きいと思います。つり乙もそうだけど、服飾と真っ向から向き合ったかどうかがだいたい個別ルートの出来に比例しているように感じたし、服をつくるという行為で繋がっていく作品なんだよな~~~と改めて思いました。

 

つり乙もとても面白かったし楽しかったし最高だったけれど、断片的にしか描かれていなかった作品自体のラスボスといってもいい大蔵家という坩堝をしっかりと掘り下げていたこともあって深みが増していて、個人的には乙女理論のほうが面白かった、というか凄く前のめりになってプレイしました。特に三兄妹が結束してからの逆転劇がとても気持ちが良くて熱くて、爽快感がすごかったです。

 

 

 

 

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