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環境コンピュテーショナルツールの新規性と意義

まず最初に断っておきたいが、環境コンピュテーショナルデザインの個々のシミュレーション技術には、大きな新規性があるとは言えないだろう。もちろん、grasshopperとシミュレーションが繋がることで、効率的なモデル変更が可能であり、時間短縮にはなりうるが、それだけでアウトプットが新しくなるとは言えない。(作業の時間短縮により思考する時間が増え、結果としてより新規性のあるものが生まれる可能性が高まると言う理論もあるが、それはあくまで間接的な影響と僕は思う。)

環境コンピュテーショナルデザインにおいて、現状で中心的な役割を果たしているのがrhinoceros + grasshopperであるが、これを用いることの新規性があるとしたら、それは、各ツール・シミュレーション技術をいかに繋げるのか、と言う点である。

各環境シミュレーション(光・熱・風・音など)や最適化ツール、その他のプラグインや、外部ソフト(エクセルなど)をいかに繋げるのか、さらにもっと言えば、各シミュレーションの結果をどのような評価軸で判断し、また各評価値を重み付けをして、一つの形態やシステムに落とし込むのか、と言う部分がプロセスの新規性となりうる。そして、プロセスに新規性が生まれれば、最終的なアウトプットも新規性が生まれる可能性が高くなると言うことである。

これは設計も似たような作業かもしれない。例えば設備設計は既存のシステムをいかに組み合わせ、そのシステムをどこにどのようなバランスで配置するのか、そして目標をどのように定めるのかと言う部分において付加価値や新規性を生み出しているのであり、単体の製品そのものを生み出している訳ではない。(もちろんメーカーとの共同研究により新製品を提案することもあるが、それも直接生み出している訳ではない。)

ここで、果たして、組み合わせや順番を考えることが「創造的」なのだろうか?と言う思いもふと頭をよぎる。建築学科で勉強をし、4年間は曲がりなりにも意匠設計の授業を受講してきた身としては、「形を生み出すこと、0から1を生み出すこと」が創造であり、それをプレッシャーに課題をこなしていた。その時の怨念のようなものが未だに抜けきらず、設計において、自分は意義のあることをしているんだろうか、と時々葛藤している自分がいる。

でも例えば、アーティストのCDを考えてみてほしい。もちろん、シングルCDはその曲自体が生み出される瞬間であり、紛れも無い創造物である。一方で、アルバムCDは、曲を選択し、順番を考え、A面B面を考え、場合によってはアルバム用にアレンジし、最後にパッケージをする。これ自体も曲こそ生み出していないが、十分創造的と言えると思う。有名な書籍である外山滋比古著の「思考の整理学」では前者を一次的創造、後者を二次的創造と呼んでいる。自信を持って、後者も「創造活動」と呼んでいいだろう。この二次的創造では編集者的な態度が重要となり、この能力は今後、関係者・ツール・技術が多様化していく中で、非常に重要なスキルであると僕は考えている。

だとすると、いろんな人から言われる「既存のツールを扱うことにどんな新規性があるの?やる価値が果たしてあるの?オリジナルのソフトを作らないと差別化できないのでは?」と言う投げかけに対して、「既存のツールの組み合わせであったとしても、その組み合わせや順番を考えること、それらの評価をどう考え、評価値を重み付けするかを考えることが、十分創造的で新規性のあることなんです。」と、僕は胸を張って宣言することができる。プログラムをゴリゴリ書いて、新しいプラグインやシミュレーションソフトを開発することだけが、新規性のあること、意義のあることでは無い。もちろん、プログラミングを書きたい気持ちもあるし、その素質は自分にはあると言う根拠のない自信もあるのだけど。

少し言い訳のようになってしまったかもしれないが、環境コンピュテーショナルツールの新規性と意義は「二次的創造」にかかっていると言うのが、現段階での僕の結論である。

建築業界はアウトプットがいかに創造的で新規性のあるものであるか、と言う部分を昔から重視してきているように思うが、それには少し限界がきているのではないか。もちろん、ビジネスの守備範囲を広げて、例えばこれまで扱っていなかったAIやIoTなどの分野に手を出すことで、新規性を獲得するのも一つの手段であるが、僕はプロセスを創造的で新規性のあるものにして、それがアウトプットの新規性に繋がる可能性もあるのではないかと感じている。それが単に効率化や働き方改革と言う所に落ち着かないことを僕は切に願う。

・・・こんな偉そうなことを書いているが、「知っている」と「できる」は大きく異なるのである。「できる」状態にするには、まずは時間をとって潜らなくてはならない。それを会社が理解してくれるといいのだが。




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