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「肖像」を終えて

片付けも済まないまま、個展で販売した作品の発送をして、いくつかの仕事になだれ込み、これからはじまる仕事の準備をはじめて、ひどく業務的な書類を書くなどして、気がつけばもう12月30日、明日は大晦日。
準備期間中に、個展が終わったらあれをやるこれをやるという享楽的なリストを書き出し、それが叶わないまま日々と生活に埋もれていくところまでがセットになっているような気さえします。

肖像の会期を終え、落ち着くはずもなく、半月が経ちました。
まず今回の個展の開催にあたり、少なからぬ協力をしてくれた友人と家族、ROCKETの小沢さんと塚原さん、なにより、2020年12月の東京で行われた個展に来てくれた方、来たいと思ってくれていた方に感謝します。
ありがとうございました。

2年前からはじめた、4,800円でのオリジナル・プリントの販売も、2枚目ですという人もいれば、去年初めて買ってその後他の作家さんの作品を買ったという人、やはり初めて写真を買いますという人もいて、これはずっと続けたらやはり楽しいことになりそうだと確信を得られたりもしました。

思えば、奇妙なほどに未来的すぎる数字の羅列に、現実感の湧かないまま正月を眠り、オリンピックだオリンピックだTOKYO 2020だと大騒ぎの町を、起き抜けのようなぼんやりした気分で過ごしたのが今年のはじまりで、2月になると毎日、横浜の港に停泊した船の映像が流れ、海外旅行の計画も、展示の計画も、撮影の計画も、お祝いの計画も、とにかく計画と名のつくものは全て一旦霧散し、家の外に出るのさえ控えるような時間がはじまりました。

気がつけば夏がやって来ていて、久しぶりに浴びた閃光に、冬眠から覚めたような目と頭をこすり、カメラを覗きました。

まだまだ大勢のスタッフと大掛かりな撮影をすることは簡単ではない時期に、なにか明確にコンセプトがあったわけでもないけれど、ただ、直感めいたものを頼りに風景を探して彷徨い、何メートル、何キロと歩き、何百キロ、何千キロと車を走らせました。

今年も12月に個展をやろうと決め、大方の作品が揃いはじめたけれど、タイトルは一向に決まりませんでした。
いつも、ものをつくるときは、まずタイトルから考える癖があるせいか、コンセプトもない作品群にタイトルをつける作業は難航しました。

風景に、人の面影を探していたことに気がついたのは、タイトルを決めかねたまま出かけた旅の、帰路の高速道路でした。そこにいたであろう遠くの誰かと、これからそこにいるかもしれない近くの誰かを思っていました。
そして、ほとんど人の写っていない写真の展示に「肖像」と表題し、人の物語を書き連ねはじめました。
なんとなく思っていた「写真と文章」という作業的なテーマが明確になり、今後、おそらくはずいぶん長い時間、こういうことをしていくのだろうと実感したのもこの時です。

自分の興味はやはり、どれだけ風景を撮ろうとも人間に向いていることがわかったのは、ROCKETの壁から作品を降ろす頃でした。
風景なのか、人の不在なのか、人の痕跡や気配を撮っていたのか、そのどれとも違うのかはわかりませんが、まぁそれは、あまり重要なことではないのかもしれません。

写真には人が写っていないけれど、人への目線と、執念や偏愛にも似た湿度と温度にまみれた作品群をつくることができたのは、今年でしかあり得なかったような気がしています。
2020年、実在するどこかの風景を生きる誰かの肖像。
そういうものを描いて、風景がどことでも、誰とでもつながっていることの証明と、張り切って生きるのに値するどこか、もしくは誰かの美しさの肯定をしたかった。

できれば誰かが、地球のどこか、いたい場所にいられるように。
できれば誰かが、生きている誰か、いたい人といられるように。

歳が暮れていきます。
来てくれた方、ありがとうございました。
来たいと思ってくれていた方も、ありがとうございました、そしてお疲れ様でした。

寒くなってきたけれど、どうか健康で。
元気に過ごして、お会いするのを楽しみにしています。
ありがとうございました。

それでは、また来年。

NAOYA OHKAWA

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