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拉麺ポテチ都知事12「俺の現在地」

ゴールデンウィークが始まった、というか終わった。大学を卒業して以来、暦と関係のない仕事をしているので、そこまで嬉しいということもない。しかし自営の身ならば思い立ったが吉日、毎日がGWである。

前回も書いたが、先日『上海の夜』を隔月で主宰していた下北沢サーカスがいよいよ閉店した。手前味噌ではあるが、今思い出せばあのイベントは夢みたいであった。赤字の時は地獄みたいでもあった。

企画のコンセプトは藤田嗣治が20年代のパリでスターだった時に主宰したと言われるイベントを捏造する、というもの。つまり、あまりに情報がないので自分が同名のイベントを主宰すればグーグルをかく乱できるのではないかと思ったのである(これについては成功とも失敗とも言えぬ結果を得た)。

第1回目は形になる前のshowmoreのふたりやermhoi、DC/PRGの秋元修、フリースタイルの怪物・TKda黒ぶち等が出演していた。そしてアートワークは中山晃子、題字は徳山史典。

彼らが同じ空間に会するなんて今では信じられない。我ながら面白い企画をオーガナイズしてたもんだなと感心する。立ち上げに当たってのステイトメントは以下を参照してほしい(今読むとかなり恥ずかしいが)。

先日、一緒にバンドをやっていた池宮ユンタ氏と久しぶりに会ったのだが、彼が「小池くんと一緒に演奏した人は、うちら以外みんな売れちゃったよ(笑)」と話していた。この指摘は確かに合っている。

興味があれば過去14回の記録を検索してほしい。上記の面々をはじめとして、あの企画に出た者は我々を除き、ほぼほぼ音楽的/業界的に売れていった。ちょうど私もライターとして最近ermhoiのリリース記事を書いて、何とも言えない良い感慨を味わったところだ。

しかし考えてみれば、当たり前なのである。売れる売れないまでは先見できなかったが、私は才能のある人にしか声をかけない。だから彼らはどんな形でも出世していくに決まっているのだった。もちろん池宮氏も多大な才能の持ち主であるから、これからも活躍してくれるだろう。

私とて、自分が売れてないことは重々承知している、と同時に全く気にしていない。負け犬の遠吠え程度に書くが、実は「売れる」ということは必ずしも良いことではない。その後の未来は「売れ続ける」「売れなくなる」の2択で、大概は後者を辿るからだ(売れれば売れるほど)。

これは誰しもが逃れられない事実だが、それよりも大事なことはどのルートを進んだとしてもサステナブルであることだ。だから我々は成功しようがしまいが、感覚を研ぎ澄まし、創造を続け、且つサバイヴしていかなければならない。

そしていつか振り返った時に本当に自分が成功したと確信できる日が来ることを願っているし、また皆と合流し讃えあえると信じている。

・・・・・・・

さて、下北沢サーカスの最終日は人がすごかった。緊急事態宣言下だが裏の都知事として全てを応援しつつ、骨太なラストランに短い時間ではあるが立ち会ったつもりである。ミュージシャンもたくさん集まっていたのでセッションが行われ、私は自作曲「GPS」やshowmore「CIRCUS」を演奏したりした。

「GPS」は20代で書いた歌曲のなかで気に入っているもののひとつだ。「まだ会ったことのない誰かと渋谷でGPSを使った鬼ごっこをする」という謎のシチュエーションを歌った曲だが、私の作曲にしては多くの人に愛されたし、秋元修くんが大谷能生氏とカヴァーしてくれたのも嬉しかった。そして、なぜか喧嘩のもとになった曲でもある。

私のヴァースとフックは以下の通り。気づけば、ちゃんと記述するのは初めてかもしれない。

“途切れたGPS 失った現在地
ここはどこだ 分からない aka迷子
背後振り向いた360度
365日気になる着信のバイブレーション

今日は渋谷で5時って早すぎない?
まだ日も落ちない 戦争だって来やしない
「今どこ?何してるの?既読無視あり得ない」
近代文学の低年齢化を嘆きながら君を探す

サーチライト当てるまでもなく
明らかなことは
この群衆のなかで君が一番自由ってこと

顔も名前もわからない
手がかりはiPhoneとアイコンと
零コンマ何秒のアイコンタクトだけ

もし目が合って
影踏むくらいまで距離縮められたら
発信機埋め込みたい 現在地管理したい
外そうとすれば死体 鬼ごっこ終わらせたいよ

私を探してグーグルマップで
鬼さんこちらにおいで
騒ぎ奉る クラブにサイレン
Wi-Fiのないところに連れてって”

動画だと2ヴァース目のermhoiがヤバいのだが、その日のセッションでは、もちろん不在なので滅多にやらない(下手なので)フリースタイルを咄嗟に入れた。

その内容が思いの外、良かったのである。

“下北沢サーカス ここで数多くの
名演が繰り広げられてきた
そして俺も鍛え上げられてきた
このラップとかラッパ(サックス)とか もう関係ない

サキソフォン/マイクロフォンどちらでもいいから
大丈夫 俺は何でもできるようになった
30を越えた 20代は忘れて
ここから行くぜ 下北沢サーカスもGO”

とりとめのない内容に見えて、私の気持ちがだいたいまとまっている様にも感じられる。20代後半における創造性を燃やし尽くした場所で「20代は忘れて」という言葉が出てきたのが感慨深い。自分の現在地と30代で向かう方角が少し見えた貴重な瞬間だった。

下北沢サーカス、ありがとう。店主の新たな門出とこれからを期待している。そして私をこの店に誘ってくれた根津まなみさんにも感謝したい。


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