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エンターテイメントの灯は消えない

5月以来のnoteになります。

京都の猛暑の夏を終えて、ふと気づくと夜風が超気持ちいい。

いきなりですがこの3ヶ月間、僕は『泊まれる演劇』というホテルを舞台にした作品を作り続けていました。


そう、名前の通り演劇作品。もしかすると、演劇という言葉を聞くだけで拒否反応を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、僕はこのコロナ禍の中でずっと演劇作品を作っていました。

再演を含めると5月〜8月の間に5作品。たった6日間で終わる短い作品から、1ヶ月半に渡るロングラン作品まで。全部めっちゃいいので後ほど紹介させてください。


ちなみに僕は、いつもはホテル運営会社で企画だったりプロジェクトマネジメントのお仕事をしていて、エンターテイメントを作った経験は、学生時代に文化祭でお化け屋敷を作ったことくらい。

でもその時の、夜な夜な黒ビニールで壁を作り続けた日々だったり、普段使っている教室の窓を暗幕でビッシリ覆う時の背徳感(?)だったり、当日お客さんが列を作ってくれた時の感動だったり。そんな記憶がデジャブのように顔を覗かせながら、この夏一心不乱で、青春時代に戻った心地で”夢の世界”を作り続けていました。

今回のnoteはその備忘録。ほぼ自己満足で記しているので、駄文&長文で申し訳ないですが、よろしければお付き合いください。



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<2020年9月1日(火):書き始め>


5月から8月までの4ヶ月間。

素敵なクリエイターの方々とトライ&エラーを重ね、不眠不休で議論を続けた日々はまさに文化祭のようで、自分たちの想いが形になる瞬間のカタルシスは何物にも替えがたいものでした。

昨日、8月31日に集大成となる公演が千秋楽を迎え、今は肩の荷が降りてホッとする気持ちと、走り続けた足を止めた時の、胸に10センチほどの穴が開いたような感覚がぐるぐるしてます。

そして、この熱が冷めないうちに作品たちに込めた想いをちゃんと文字に残しておこうと思いました。今後も再演とかがあるかもなのでネタバレは一応避けつつ、書ける範囲で裏側をお伝えします。

まずは泊まれる演劇というプロジェクトが生まれた経緯から。


ホテルロビーのなにげない風景

カレンダーは2019年の冬。HOTEL SHE, KYOTOのロビーで仕事をしながら、ゲストのチェックインの様子をぼんやり眺めていました。

記念日を祝うために訪れる恋人たち、卒業間近で思い出を作りにきた友人グループ、バックパックを降ろしてチェックインを待つ外国人男性。

ホテルには世界中からさまざま人が集い、一夜限りの思い出を作って翌朝チェックアウトしていく。グラデーション豊かな物語がたくさん生まれているように思えました。そう思ったのは、少し前にみた群像劇映画『グランド・ホテル』の影響かもしれない。

ふと、そんなホテルの魅力を具現化するような”なにか”を作ってみたいと思い、泊まれる演劇というプロジェクトはスタートしました。


最初は翌年3月にやる!みたいな表明を後先考えずに言ってましたが、この時点ではプロジェクトメンバーは誰もおらず、右も左もわからない状態。

ですが有難いことにこのnoteを読んで、「なんか面白そうだから一緒にやろう!」と言ってくださった方がいて、舞台は劇団四季のライオンキングくらいしか観たことのない僕でしたがゆっくりとプロジェクトは進み始めました。(本当に色んな方にサポート頂きました...ありがとうございました...。)

ただ案の定、スケジュールを引いてみると全然間に合わなそうな感じで、早速予定を6月に後ろ倒し、それでも時間がないのでオーディション準備だったり脚本家さん探しを暗中模索ながら進め始めました。


初演作への期待、そして絶望

2020年の6月の公演に向けて急ピッチで動きはじめたのは2019年の11月頃。

泊まれる演劇は着席型の公演ではなく、イマーシブシアターというゲストも自らの足で空間を探索し、物語の一役として参加する形態。

イマーシブシアターの代名詞として名高い『Sleep No More』を上海へ弾丸で観に行ったり、

休日に時間を見つけては関西の小劇場に足を運んだり、とにかくインプットの日々。


そして年が明けたタイミングあたりで、前職時代に面識のあったSCRAPのきださおりさんに脚本・演出を相談し、俳優さんのオーディションも実施。

作品の世界観やタイトル(『MIDNIGHT MOTEL』)も決定し、色んな方におサポートしてもらいつつ発表したリリースにも大きな反響をいただき、抽選販売をおこなった公演チケットも10倍を超える倍率でソールドアウト。

その後の準備もラッキーが重なって怖いくらいに順調に進み、いよいよ来週から稽古スタートとなったのが4月の頭。

そう。その頃には、世界中の誰しもが予期していなかった事態となり、宿泊や観光、エンターテイメントの世界には先行き不明な暗雲が立ち込めていました。


”不要不急”という4文字

2月下旬からずっと頭の片隅にあった、最悪の事態。

音楽や芸能、観光などあらゆるエンターテイメントが”不要不急”の4文字で片付けられ、行き場のない想いは『自粛』という言葉の前に揉み消されていきました。

泊まれる演劇『MIDNIGHT MOTEL』も例に漏れず中止の判断となり、翌週には僕が勤めるHOTEL SHE, KYOTOも無期限のクローズに。

誰も責めることができない状況で、その矛先は政府だったり ”希望を捨てきれない人たち” に向けられ、世界のつながりは物理的にも、精神的にも分断されていくように思えました。まさに負の連鎖が渦巻く世界...。(これは僕がTwitterのタイムラインを見すぎているという問題も多分にあります。)

きっと今の時代こそ、人同士のポジティブな繋がりが生まれるような何かが必要。いつの間にかそんなカルト的な考えに支配され、泊まれる演劇は『 In Your Room』という冠をつけて、オンライン・イマーシブシアターとして生まれ変わりました。


他者とオンラインで繋がる体験

大切な誰かと会えない、色んな企業がテレワークに移行し、それがいつまで続くかわからない。

大学4年生の知人はずっと楽しみにしていた卒業式の予定がメール一本で中止になったそうで、僕たちの旅行の予定は『またいつか』があるけど、彼らには『いつか』は存在しない。

リアルができないならオンラインで、なんて反吐が出るくらい安直かもしれないけど、それでも少しでも心の穴を埋めることができるような表現活動はできないだろうか...。そんなことをずっと考えていました。

でもいくら考えても答えなんて出ないんです。きっと新しい時代に戦略なんてきっと絵空事にしかならない。だからとにかく、答えの片鱗が見えるまでノンストップで作り続けることにしました。


そこで生まれたのが「泊まれる演劇 In Your Room『ROOM 101』」(2020年5月1日〜6日)、『ROOM 102』(6月24日〜29日)という2つの作品。

(2作の脚本・演出は、映画監督 / 小説家 / 劇作家とマルチに活躍されている木下半太さん。そしてMIDNIGHT MOTELでもお世話になっているSCRAPのきださおりさん。お二人のエンタメに対する圧倒的熱量を間近で見ることができて、本当に感動しっぱなしでした...。)


泊まれる演劇 In Your Room『ROOM 101』

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ホテル客室からの中継やフロアに仕掛けられた監視カメラの映像を組み合わせながら、インタラクティブに物語が進んでいくというこのコンテンツ。ライブ中継がおこなわれる各客室では、画面越しに演者が実際に参加者に話しかけてきたり、質問を投げかけてくることもあるという。こういった会話や、自宅・メールボックスに届く謎の招待状を手掛かりに、物語の裏に隠された真相に近づいていく参加型のサスペンス作品だ。(引用:美術手帖オンライン


5月のGW期間中に本公演となった『ROOM 101』に続いて、翌月にはその続編を公開しました。


泊まれる演劇 In Your Room『ROOM 102』

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作品の鑑賞を通して、劇場のような “ただ隣に座っていた観客同士” 以上の関係性、すなわち人とのつながりが生まれていた。謎を解くことで登場人物や他の参加者とのコミュニケーションが自然と発生し、そこに関わった人間として解かれた謎の結末を一緒に見届ける参加者達は、ある種の“運命共同体”でもあった。それは外出自粛により人とのつながりが希薄になってしまった現在において、オンライン上演という実験的な試みを通して見出すことのできた希望ではないだろうか。(引用:KYOTO ANTENNA 体験レポート


これら二作品のキーワードは『双方向性』。

映画やドラマのような一方向的な映像作品ではなく、鑑賞者のパソコンのマイク機能やチャットを使った双方向的なコミュニケーション・演出を取り入れています。具体的には、実際の自宅に届く謎の招待状、公演中に演者から電話を受信したり、TwitterやLINE・地図検索など、あらゆる手法でゲストが物語の一部となるような映像体験をデザインしています。

また、ストーリーも(ネタバレになるので詳しく書けませんが)、その公演回に参加しているゲスト全員と、スクリーンの先に存在する登場人物が一緒になって大きな問題に立ち向かっていく構図になっています。

そのためオンライン公演であるにも関わらず1公演の参加人数をあえて最大25人に絞ったり、ゲスト同士のつながりがしっかりと生まれるようなバランスに調整しています。


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体験いただいたゲストからの声も大変好評で、「他のゲストとの一体感が凄くて、部屋の中で時間を忘れて叫びっぱなしだった」「オンライン演劇なのに、久しぶりに生の舞台を観たような感覚だった」など、たくさんの嬉しい感想をいただきました。

その一方で、(有難い話ではあるのですが)全公演のチケットも1時間で完売する状況で、体験の熱量はキープしたままより多くのゲストに参加してもらいたい...、三作目はそんなコンテンツを目指して動きはじめました。


原点回帰 : オンライン上に架空のホテルを再現する

「ホテルには夜な夜なグラデーション豊かな物語が生まれている。」

泊まれる演劇はそんなホテルの魅力を具現化することから始まったプロジェクトですが、オンラインに舞台を移した『泊まれる演劇 In Your Room』でもオンライン空間に架空のホテルを再現しようと思いました。

実はzoomのルームを複数同時に走らせて異なるメディアを移動しながら物語を鑑賞する、というアイデアは『ROOM 101』の時点からあったのですが、初演だったこともあり最初は敢えてシンプルな表現方法にしていました。

ですが、キャパシティの問題だったり、101・102とは異なる映像表現に挑戦したい気持ちもあって、三作目はサスペンス色の強いROOMシリーズとは分けて制作をおこないました。

脚本・演出は劇団『悪い芝居』の主宰を務める山崎彬さんにお声がけさせていただき(オンライン恋愛リアリティーショーという設定は複数zoomの仕組みにぴったりすぎて感動...)、過去作と全く毛色の異なる作品に仕上げていただきました。山崎さんのインタビューも必見です。


泊まれる演劇 In Your Room『ANOTHER DOOR』

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『ANOTHER DOOR』は同じ「泊まれる演劇 In Your Room」ながら、まったく違う趣向の作品だった。「恋愛リアリティショー」という触れ込みで、登場人物はあるホテルの出会い系イベントにやってきた6名の男女だ。それぞれ意中の人があるが、その矢印は複雑に交錯している。参加者は自由に移動して6名のうち気になる人の部屋を覗きに行って良い。といっても、この作品もZoomを使っての上演だから、実際にはミーティングルームを出たり入ったりということになる。6名は、チャット欄を使って自分の部屋に来てくれた参加者とコミュニケーションして、自分をアピールする。(引用:Yahoo!ニュース 体験レポート)


この作品は泊まれる演劇シリーズでもっとも言語化するのが難しい作品かもしれません。

ROOMシリーズ同様にインタラクティブな要素は残しつつ(むしろ多くなっているかもしれない...)、『zoom』で同時に6部屋配信することで、視聴者は鑑賞する物語を自由に選択・回遊できます。そのため追いかける登場人物や経路によって、同じセリフでも感じる印象やストーリーの見え方が異なってくるのが特徴。それに加えて、登場人物のカップル成立の分岐パターンも複数存在するため、まったく同じ絵を二度見ることはできません。

本作のキーワードは『双方向性』をさらに進化させた、『息遣い』。

まるで登場人物一人一人が自分の隣室にいて、そこから実況中継しているような妙なリアリティ感。どこまでが脚本かアドリブなのか分からないストーリー展開。ゲスト側も任意で顔出しやマイクの使用が許可されているため、彼らと一緒に恋愛リアリティーショーに参加しているような感覚に陥ります。

ROOMシリーズがヒーローとなるキーキャラクターやヒロインが存在したのに対して、演者と視聴者の立ち位置がよりフラットに、隔たりなく感じられた作品ではないでしょうか。一方向的な映画やドラマだと決して成り立たないけど、オンライン演劇だからこそ成立するストーリー・演出だったかと思います。

泊まれる演劇 In Your Room『ANOTHER DOOR』がスタートしたのが7月24日。本作の舞台は大阪・弁天町にあるHOTEL SHE, OSAKAだったのですが、その一週遅れでHOTEL SHE, KYOTOにて4作目の泊まれる演劇が開演しました。


物語の世界に泊まる、身体的な没入体験

6月中旬に『ANOTHER DOOR』と併せて、実際のホテルに宿泊しながら物語を体験する「泊まれる演劇『STRANGE NIGHT』」という作品を発表しました。

新型コロナウイルスの収束が見えない状況の中で、ウイルス対策を徹底した上でこの公演に踏み切ったのは、今の時代だからこそ身体的な没入だったり、他者と物語を共有するような体験が必要なのではと考えたからです。

オンラインで公演を展開した三作は、クロスメディアな演出だったり、物理的なギミックはありましたが、いずれも限られた公演時間の中で感じる頭脳的な没入体験でした。

頭脳的な感覚と身体的な感覚(二次元的と三次元的に言い換えられるかもしれません)にはやはり文字通り、次元の異なる情報量があります。それは例えば、旅番組を視聴するのと、実際に海外の国へ旅するくらいに。

どちらが良い悪いと言うわけで決してはなく、また今の状況であればオンライン体験の方が需要があるかもしれません。例えそうだとしても、旅番組を見て価値観が変わった!と言う人はほとんどいないのに対して、旅をして価値観が変わったと言う人は結構な頻度でいる。そして、そんな旅ができない今だからこそ、身体的な没入体験が求められるはず。

そんな願いにも似た想いで、プロジェクトはスタートしました。


第二波と”舞台クラスター”

泊まれる演劇『STRANGE NIGHT』が初演を迎える8月1日。その時、エンターテイメントを取り巻く状況は最悪で、本当に”想い”だけで公演をスタートして良いのかかなり悩みました。

特に東京のとある舞台でクラスターが発生したことにより、”舞台クラスター”という言葉がSNSのトレンドに数日間載り、メディアもそのような状況を煽るように報道。

そのような状況の中でこのプロジェクトを対策を徹底することで持続させようと思ったきっかけがありました。

物凄く個人的意見のため詳細は控えさせていただきますが、とにかくエンターテイメントが内部崩壊していくような予感がしたのです。それはコロナがどうとかではなく、制作者たちの色んな正義感が暴走することで、本来手を取り合ってサバイブすべき状況の中で発生した崩壊的な分断。

この状況が何年続くかわからない状況の中で、どこかで妥協点を見つけないと本当にエンターテイメントは死滅してしまう。大袈裟かもしれませんが、そんな感覚がありました。


withコロナ時代のエンターテイメント

その他にも色んなきっかけが重なり、泊まれる演劇は対策を徹底強化し、とはいえ公演中止のガイドラインも関係者に公開した上で続行の方向で舵を取りました。

関係者全員の検温や消毒はもちろん、公演キャパシティを最大4組8人に変更(当初は6組12人を予定していた)、ゲストにはマスク / ビニール手袋の着用・役者もクリアマスクの使用、公演の合間には屋内空間の換気と消毒等を徹底しました。

普通の興行舞台だとあり得ないと思うのですが、役者さん自らも公演の合間時間に消毒作業などを自主的に手伝ってくださり、チーム全体で「何がなんでも千秋楽まで走り抜けてやる」という熱量が本当に凄かった。おかげで無事大きなトラブルもなく1ヶ月のロングランを完走することができました。


泊まれる演劇『STRANGE NIGHT』

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「泊まれる演劇『STRANGE NIGHT』」が8月1日から31日まで京都・HOTEL SHE, KYOTOで上演される。「泊まれる演劇」は、京都と大阪で展開されているブティックホテル・HOTEL SHE,が企画する参加型演劇イベントだ。“リアル宿泊版”の「STRANGE NIGHT」では、脚本と演出をきださおりとヨーロッパ企画の左子光晴が担当。実際にホテルに宿泊した観客が、“モーテル・アネモネ”に流れる奇妙な噂の真実に迫るため、複数の客室やフロアを巡り、ストーリーを進めていく。(引用:ステージナタリー


上述の通り、脚本演出はヨーロッパ企画の左子光晴さん、そして今作もSCRAPきださおりさんにお願いし、その他にも『MIDNIGHT MOTEL』でご一緒頂いていた美術作家さん、舞台照明さん、音響さん、前職時代の同僚の音楽プロデューサーやゲームエンジニアなど総勢30人を超えるチームで制作しました。

本作は過去のオンライン三作品とは全く違うアプローチで制作していて、公演時間自体は決まっていたのですが、いかに公演時間を超えて作品の世界観に没入できるか、”物語の世界に泊まる”という泊まれる演劇のコンセプトの通り、非日常な別世界に迷い込んだようなギミックを張り巡らせています。


具体的にはチェックイン時にフロントで交わされる言葉から、ホテルの廊下に張り出されている張り紙、客室に置かれた謎のXXXXXX、翌朝のホテルロビーのXXXXXXXの変化などなど....。ネタバレになってしまうのでほとんど言えないのが残念なのですが、とにかく物語が拡張するように、脚本 / 空間演出 / ホテル運営 / フードデザインなどあらゆる異業種が混じり合った一つの『総合芸術』のように組みたてられています。


ホテル空間で生まれる、新しい没入体験の可能性

今回『STRANGE NIGHT』を作ってみて、想像以上にホテルという場所は没入型エンターテイメントと相性がいいなと実感しました。

そもそもイマーシブシアターを含む没入型エンターテイメントという概念は、ロンドンから生まれて、NYでロングラン公演されている『Sleep No More』で火がつきましたが、日本ではまだほとんど浸透していないコンテンツだと思います。

それゆえ、なにを”没入”と定義するのか難しいところですが、すごく大雑把に言うと『あらゆる境界を取っ払ったコンテンツ』だと思っています。

映画であればスクリーンという境界が存在し、演劇であればステージ舞台という境界が存在する。その他にも役者と観客、観客と観客といった関係性においても境界は存在します。

本来、アナログ世界にはこのような境界は存在していないはずで、デジタルデバイスだったり会社の組織図みたいな”人が生み出したもの”によって境界は生まれています。言い換えると、世の中のあらゆるコンテンツは本来は”没入”であるはずなのに、人が生み出した境界が増えすぎた故に、今の時代において没入型エンターテイメントが新しく感じられ求められているのかなと。


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ここからは少し概念的な話になりますが、人にとっての究極の境界は『時間』だと思っています。365日24時間、常に時間によって行動が制限されて生活をおこなっています。特に昼と夜、夜と朝の境界は絶対的で、この時間という境界によって人は生活のリズムが繰り返されます。

ホテルは自宅やオフィス以外でゲストの占有時間が最も長い空間メディアの一つです。終電も気にしなくていいし、滞在者に対して同じ一つの空間の中で一方的にサービスを提供することができます。

これこそがホテルだからこそ生まれる新しいエンターテイメントの可能性だと思っていて、実際に『STRANGE NIGHT』では”公演時間”という境界が曖昧になるような仕掛けを多数用意していました。実際に体験頂いたゲストからのアンケートにも「チェックインからチェックアウトまで、別の世界に放り込まれた感覚だった」「ずっと作品の登場人物になったような体験だった」などの意見も多かったです。


境界を無くすことで、新しいエンターテインメントを作りたい

泊まれる演劇『STRANGE NIGHT』では、新型コロナウイルス対策によって実施できなかったアイデアもまだたくさんあります。

その一つはパブリック空間(ロビーなどの共有スペース)とプライベート空間(客室)を交差するような演出。

人の価値観や考え方って環境に依存すると言われますが、ホテルという同じ箱の中で、客室で過ごすか、廊下の外に出るかでテンションって全然違ってくるはずで、言語化すると擬似的な日常空間が客室で、その他のパブリック空間は非日常的な感覚が生まれる場所だと思います。

当たり前ですが、客室には自分(ゲスト)以外の人間が介入することはないという大前提があって、だからこそ安心して寛いだりすることができる。

これって舞台と客席の関係性と似ていて、その境界を破壊することで誕生したイマーシブシアターというコンテンツとミックスすれば何か新しい体験が生まれるのでは...と思っています。(『STRANGE NIGHT』でも実はほんの少しこれに沿った演出もありました。)

その他にも、日常(リアル)と非日常(フィクション)だったり、施設と周辺地域の関係性だったり、様々な『当たり前』を見直すことで想像を超えた化学反応が生まれそうな気がします。


エンターテイメントの灯は消えない

初演『ROOM 101』の公演プロジェクトを始めた時、もう一つの大きな理由は、泊まれる演劇というプロジェクトを止めたくなかったからです。

もちろん、こんな時代だからこそエンターテイメントの希望が必要だ!とか、『MIDNIGHT MOTEL』を楽しみにしてくれていたお客さんに何か替わりになるものを!という気持ちもあったのですが、きっと根底は<何かを作るという行為を自分自身が辞めたくなかった>のだと思います。

もし『ROOM 101』の公演をしていなかったら当然『ROOM 102』もやってなくて、そうするとその後の二作品も生まれていなかったかもしれない。

これは仕事だけの話ではなく、人間関係だったり趣味などにも言えることだと思うのですが、何かを始めるには決意だったり仲間集めだったり時間がかかるけど、その終わりって凄く呆気ないですよね。木を擦り合わせて火を灯すのには時間がかかるけど風が吹いたら一瞬で消え去るみたいな感じで。

泊まれる演劇のプロジェクトでもやっと火がついて、これから少しずつ燃え上がろうとした瞬間に突風が吹いてきた。

それでも落ち葉の片隅に残っていたオレンジ色の火種を拾い集めて、消え去らないように周りを石で囲いまくった。この作業がなければ灯火はとうに消え、プロジェクトは空中分解していたかもしれません。

でも逆にこのような状況でなければオンライン公演やソーシャルディスタンスを徹底したリアル公演は生まれなかったかもしれません。そう考えると、この状況さえも少しだけポジティブに捉えることができるかもしれません。


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逆境だからこそ生まれるアイデアや物語。

言葉にすると安っぽすぎて恥ずかしいけど、たしかにそれは存在する。

僕たちはそんな可能性をとりあえず全肯定して、スポンジのように吸収して完成形は見えなくても形にしていきたい。

いつかこの期間を振り返った時に、「辛かったけど必要な経験だったよね」って笑える日を待ち望んで。

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