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もし、明日転職するなら。

もし、明日転職するなら

この記事を書いている2021年5月。
僕は、葛利毛織工業(株)に勤めている。
葛利毛織は毛織物の高級紳士服地を中心に、服地の企画、製造、販売までしている会社だ。

タイトルを見ると、「え、転職考えてるの?」と思われるかもしれないがそんなつもりは微塵もない。いや、微塵ぐらいはあるかもしれない。


僕は家でお酒を飲むなら日本酒が多い。
大学生の頃はレモンサワー2杯で眠気に襲われて何も喋らずボーッとしているタイプだったが、久しぶりに『醸し人九平次  human』という銘柄を飲んで日本酒の旨さにハマってしまった。

好きになると深掘りしたくなる性分らしく、日本酒の作り方から業界の慣習やらなんやらを少しずつ調べている。

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こんな本も買ってしまったぐらいだ。
そうして日本酒業界を調べていくと、日本酒の長い歴史の中で、それぞれの時代を牽引するスター蔵元が存在することを知る。『八海山』『久保田』という蔵元をご存知の方は多いことだろう。1980年代に新潟県の蔵を中心に広まった「淡麗辛口ブーム」を牽引していたのはこの辺りの蔵であり、今も根強い人気を誇っている。

そして、現代は「酸味」が強いワインの様な日本酒がブームになっている。
その中でも絶大な人気を誇るのが秋田県にある『 新政酒造 』である。

『 新政酒造 』の目指すところは、酒造りの歴史を伝えることであったり、農業や酒造技術の継承であったり、価値観、哲学、美意識の継承で、僕はこういう理念を持っている組織が好きだ。彼らの酒造りは年々、時代を遡っており、手間と時間と技術が必要な作りへと向かっている。

そんな堅苦しい理念を持ち、手法も現代から離れて行っているのに、彼らの醸す日本酒の味わいは現代のブームを牽引するほどモダンなのだ。


その理由は「 味は手段である 」という言葉に凝縮されている。

ただ旨い旨いと日本酒を嗜みたい人にとっては、美意識や哲学なんて堅苦しいものはどうだっていいものである。その前提に立っているからこそ、なるべく流行の最先端で、多くの人に飲んでもらえる旨い酒を提供しなければならないと考えている。その考え方に感銘を受けた。

さらに、そのバランス感覚も絶妙だ。
著名なクリエイターとコラボしたボトルで販売したり、多くの蔵が銘柄を漢字2文字で『 極上 』みたいに付けるところを『 見えざるピンクのユニコーン 』みたいな謎ネーミングをしていたり、本気で探しまくればギリギリ手に入るぐらいの流通量の生産だったり。
需要に寄せていく部分と、周りに流されず突き抜ける部分のバランスを上手くとっている。


これだけ魅力を感じてしまうと、自分も人生で一度くらいは触れておきたいと思ってしまう。
だが、転売されたものではなく、正規の値段のものを購入しようとすると簡単には手に入らず、結局2-3ヶ月ぐらい探して、なんとか手に入れることができた。

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左が『ecru (エクリュ)』、右が『viridian (ヴィリジアン)』である。colors(カラーズ)というシリーズの商品で、この他に毎年出ているのはラピス、コスモス、2021年は加えてアッシュ、アースも販売されるらしい。

両銘柄ともに、開栓直後から醸造に用いる木桶のどこか懐かしいような香りが部屋一杯に広がる。口に含むと米の旨味と強烈な酸味が襲ってくる。複雑すぎて何が何だか分からない。日本酒の原料は基本的に『水・米・麹』のみで、調味料も何も使っていないのにどうしたらこんなに複雑な味わいになるのだろうかと不思議になるほどだ。案の定、ここからまた今まで以上に日本酒沼にハマってしまった。


日本酒繋がりでもうひとつ書いておきたいのは福島県にある『仁井田本家』という蔵元である。僕はこの蔵元から『 自然と向き合うことの面白さ 』に気づかせてもらった。

この蔵元はとにかく『 自然 』を大事にしている。その分、不確定要素も多く、再現性が求められる現代的な日本酒づくりでは困難も多いようだ。しかし、日本酒という枠から片足出してみるとそこにはワインの世界に見られる「 ヴィンテージ 」という概念が転がっている。

『 自然 』を操ろうと向き合う中で、その手中からこぼれ落ちる要素が「 ヴィンテージ 」となる。それは、自らの持つ感性や技術の『 外側 』を表現することにつながる。それが僕を掻き立てるのだ。
一生をかけて向き合うに相応しい深みと変化である。

だから、僕は

もし、明日転職をするなら『 日本酒業界 』に入るだろう。



〜あとがき〜

今回は、初めて本業と関係ないことで記事を書いてみた。この記事に対してどういう反響があるかわからないが、これからも僕のフィルターを通して見える世界を記事に残していけたらと思う。
note に掲載している有料の記事は、本業に関して『触覚』や『表現者』などの様々なフィルターを通して、より深く、経験を交えて書いているので、よろしければそちらもどうぞ。

※心配されそうなので一応書いておくが、基本的に1日100ml程度しか飲まない。2018年に『ランセット』誌に掲載された論文も読んだ。「お酒は少量なら体に良い」というのは一昔前の幻想であったことも理解している。酒の怖さも理解した上でこれからも付き合っていくつもりだ。

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