[5−22]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第22話 合体!?
「リリィ、用事って何よ?」
授業も終わってその放課後、ユイナスはリリィに手を引かれて校内を歩いていた。
「用事は用事ですわよ。ちょっと付き合ってくださいな」
「だからなんでよ? わたし、一刻も早く帰ってお兄ちゃんに会わないといけないのに」
「アルデが帰ってくるのは夜ですし、そもそも毎日会っているではありませんか」
「毎日でも飽き足りないのよ!」
「毎日でもそうならどうにもならないでしょ。いいから付いてきてくださいな」
などと言い合いながら廊下を歩くことしばし(ってか宮殿並みに広い校舎よね)、わたしが連れて行かれたのは会議室で、そこには、ざっと三十数名の生徒達が座っていた。
それを見てわたしは眉をひそめる。
「なんなのこれ?」
「ここは学園祭実行委員会ですわ」
「実行委員? そう言えば、この学校はお祭りをするんだっけ?」
「そうですわ。そのために色々と準備をする人達です」
リリィに聞いてはいたけれど、学園祭って、どんなお祭りなのかはイメージがいまいち付かなかったのよね。わたし、村の祭りしか知らないし。
その村の祭りでは、御輿を担いだあとは大人達が呑んだくれて、あとは武闘大会と称して殴り合う……くらいしかイメージがない。しかしこのお上品な学校で、そんなことするはずないし。
ちなみにお兄ちゃんが武闘大会の大人の部に参加するようになってからは、みんなビビって不参加になったので、お兄ちゃんはシード枠になって、それでも圧勝だったから殿堂入りとなり、戦わずに優勝賞品と同価の食料をもらうことになった。まぁ当然よね。
でもそのせいで、群がる女狐どもを牽制するのが大変だったけども。だけど貧乏な我が家は、優勝賞品が重要な栄養源だったのだからやむを得なかったのだ──
──などと、そんなことを思い出していたらリリィが話を続けていた。
「それで、わたしが今期の学園祭実行委員長ですの」
「へぇ……それはまた、面倒な役を引き受けたのね」
「ええ……ですがこの学校では、何か一つの委員会か部活動かに所属しなければなりませんし」
「そうなんだ……って、え?」
そこまで聞かされて、わたしは嫌な予感を覚えてリリィを見た。
「ってまさか……」
「そう、そのまさかですわ」
そうしてリリィは、わたしの両肩をガシィっと掴んで、にっこりと笑う。
「ユイナスあなた、実行委員会に入りなさい」
「嫌よ面倒くさい! そもそもこんなのに入ったら、お兄ちゃんとの時間が減っちゃうじゃない!」
猛抗議するわたしだったが、しかしリリィは引き下がらない……!
「いま説明したばかりですが、この学校の生徒は、何かしらの委員会か部活動かに入るのが決まりなのですよ。ユイナスは転校してきたばかりだから、まだ入っていないでしょう?」
「知らないわよそんなの! お兄ちゃんとわたしの時間を奪うというのなら例え規則でも──」
「あらあら? アルデには『くれぐれも、学校で問題起こすなよ』といわれてましたわよね?」
「うぐっ……!」
「だというのに学校の規則を守らないなんて。アルデが聞いたらなんというかしらぁ?」
「わ、分かったわよ! やればいいんでしょやれば!」
「最初から素直にそう言いなさい。それにこの委員会は期間限定ですから、あなたにとっても好都合でしょう? 部活動などは、一年中ずっと練習してるんですからね」
「くぅ……分かったわよ……」
ということでわたしは、渋々ながらも学園祭実行委員会に入ることになる。
リリィがわたしの紹介をして、わたしも簡単に挨拶したあと、さっそく委員会が始まった。お兄ちゃんが帰ってくる前に終わらせないと……
「ユイナスもいますし、これまでに決まった内容を今一度説明しますわね」
そう言ってから、委員長のリリィが黒板に、デカデカと学園祭のスローガンなるものを書いていく。
それを読み終えて──わたしは呆れるどころか脱力感さえ覚えた。
「な、なんなの……これは……」
黒板に書かれたスローガン、それは──
──ティアリース殿下万歳! 我ら一同は王女殿下と共にある!! 今こそ殿下と一致団結!一心同体!はたまた合体!? 殿下を称えて崇め奉る大感謝祭(><)b
「どう見てもリリィの発案じゃない!」
「あら、よく分かりましたわね。さすがはユイナスです」
「一目瞭然でしょ!?」
あとしれっと『はたまた合体!?』って書いてるけどなんなの!? リリィ発案だとなんだかすごく卑猥に聞こえる! この学校の教師陣は何してんの!?
わたしが頭を抱えていると、リリィが事もなげに……しかし興奮気味に説明してくる。
「このご時世ですから、学生の我らであっても、一致団結して事に望む覚悟を見せるときなのですよ……!」
「だからって、ティスリを名指しにする必要あるわけ……?」
「もちろんですわ! 何しろお姉様は、この国に舞い降りた女神なのですから! 神の元に団結するのは当然の帰結ですわよ!!」
いやもう……何を言っても話が通じないだろうし、まぁいいか……
どのみちわたしには被害なさそうだし。っていうかこんな無駄な議論をして、会議を長引かせたくないし。
ま、ティスリが聞いたらすっごくイヤな顔するだろうけど、さすがに一国の王女が学園祭にまで気が回るわけ……
回るわけが……
「あっ……!?」
と、そこで。
わたしはハタと思いつく。
「ユイナス? どうしましたの?」
学祭内容を説明していたリリィが、首を傾げてわたしを見てきた。
「ふふっ……いいこと思いついちゃった」
「いいこと? それはなんですか? 学祭アイディアなら大歓迎ですわよ」
わたしは起立すると、リリィだけじゃなく全員に向かって言い放つ。
「どうせならティスリ──つまり殿下サマをゲストで招けばいいじゃない。こんなスローガンを掲げるんだし」
わたしがそういうと、委員達は大いにざわめいた。
リリィなんかは「ががーん!」というオノマトペを背負ってのけぞっている……そこまで驚く……?
周囲のざわめきを拾ってみると「殿下をお招きできれば最高だけど……」とか「でも殿下はお忙しいでしょうし……」とか「国の祭事ならともかく、学園祭ごときでお招きするのは……」とか遠慮しているようだ。
なるほど。だから誰も言い出さなかったわけか。ティスリのことをリリィが大げさに宣伝した結果、果てしなく遠い存在と認識するようになったのだろう。
だからわたしは、改めてみんなに言った。
「忙しいって言ったって、一日くらいなら大丈夫でしょ。それに忙しいからこそ、学園祭で息抜きさせたほうがいいって」
すると今度は、実務的な事をリリィが言ってくる。
「そうはいってもですねユイナス。お姉様のご予定を公式に確保することは、大貴族のわたしが声を掛けたところで難しいですよ? とくに現在の世情ではほぼ不可能──」
「なら非公式にすればいいでしょ」
「はい?」
「リリィが無理ならわたしから声を掛けるわよ」
わたしが気楽にそう言うと、周囲の視線が一気に驚愕へと変わる。
その反応がよく分からず、わたしは首を傾げた。
「ん? どしたのみんな」
そして、隣の貴族っぽい生徒が声を掛けてくる。
「ユ、ユイナスさん、とおっしゃいましたよね……?」
「ええ、そうだけど」
「殿下と面識があるとは聞いてましたが……まさか、殿下と拝謁までも出来るのですか……!?」
「はいえつ? えっと……そんな堅苦しいことしなくたって、アイツ、最近はちょくちょくうちに顔出すし」
「うちに顔を出す!?」
「それで夕食を食べてくんだけど、あれ、絶対にお兄ちゃんが目当てよ……」
「お兄ちゃんが目当て!?」
「ねぇリリィ。あんたは嬉しいでしょうけど、わたしはいい迷惑なんだからね。どうにかしてよ」
「あなたが住んでいるのはわたしの屋敷ですわよ!?」
なんか、会議室がただならぬ雰囲気なんだけど、どうしてそんなに驚いているのかしら?
よく分からなかったけれど、とにかくわたしは言った。
「どうせ、今日か明日にでもまたうちにくるでしょうから──」
「だからわたしの屋敷ですが!?」
「──そのとき『学祭にちょっと顔を出しなさい』と言えばいいだけでしょ」
「なぜに命令形ですの!?」
わたしが話し終えると、なぜか、周囲の全員がドン引きしていた。
そのうちの一人が、リリィに向かって聞いている。
「あ、あの……リリィ様……今後失礼がないようにどうしても聞きたいのですが……ユイナスさん──いえユイナス様は、実は、お忍びで留学されているやんごとなき御方だったり……」
「間違いなくただの平民ですわよ!?」
「何よ、ここに来て身分差別?」
別に気にしてないけどわたしがそう言ってみたら、リリィに確認していた女子生徒は、なぜか身をカチコチにして「そそそ、そんなことはございません! 大変申し訳ありませんでした!!」と、土下座でもするかのような勢いで謝ってきた。
「いや別に、そこまで謝らなくてもいいんだけど……」
「ありがとうございますユイナス様!」
「……?」
その態度の意味が分からず、わたしはリリィに視線を送る。
するとリリィは、盛大にため息をつくだけだった──
──などというやりとりがあって、ティスリを学祭に招待する件はうやむやになったのだけど。
その晩。
またぞろお兄ちゃん目当てでやってきたティスリにわたしが聞いてみたら、ティスリは学祭招待を快諾した。しかも大喜びで。
ほら見なさい、やっぱり簡単じゃない。
委員会の連中、なんだってあんなに驚いてたんだか……
まぁいいわ。
いずれにしてもこれで、お兄ちゃん目当てでうざったいティスリに一泡吹かせてやれるかもね。
学園祭が楽しみになってきたわ、くくく……