見出し画像

2023年に読んで印象に残った本

今年も残りわずかになったので、今年2023年に読んで印象に残っている本をまとめておきます。といっても、出産直後の妻の実家での年越しで、手元に肝心の本がない...ということで、Kindleで読んだ本が中心のレビューになります。ここで挙げている本は比較的新しい本が多いですが、中にはずっと積読状態になっていた古い本もあることをご理解ください。

こちらが昨年のリスト


基本的にVR・AR関連のものにはあまり興味がなく、「メタバース」という名前がついているもの全てに懐疑的なスタンスをとりがち。そんな自分の偏見を正そうと、年始に読んだ本。メタバース礼賛に偏らず、技術的なボトルネックがどこにあるのか(計算資源、ネットワーク帯域)冷静に噛み砕いて説明してくれる。メディアで語られる夢物語を期待しているといい意味で肩透かしを感じるはず。
その上で、MinecraftやRoboxのような人気のゲームに、いわゆるMetaverseの普及への道筋を見出す。ブラックベリーからは本当のモバイルインターネットが想像できなかったように、今あるサービスやゲームの寄せ集めから、未知の「メタバース」が立ち上がるだろうという指摘は説得力があった。
メタバースの現在地を理解する上でとてもバランスのよい良書。日本語にも翻訳されている。


拙著『創るためのAI』の半年後くらいに出た本でずっと気になっていた一冊をようやく読了。 「AIは単なる道具でも主体的なアーティストでもない」「コントロールを手放すことの重要性」など、共感できる主張が全面に散りばめられていた. 違いは拙著がAIを通して創造性のあり方を(アート以外も含めて)考えようとしていたのに対して、こちらはタイトル通り、AIを用いたアートの持つ価値を問うところ。AIを用いたメディア・アート作品の事例紹介も多数収録。「AIアート」の本質を知りたい人に強くお勧めできる一冊。日本語訳が待たれる


ロボットと人の関係の未来を考える上で、人と動物の関係の歴史にヒントを得ようというのが全体の骨子。ロボットを擬人化して考えてしまう傾向がある中で、動物、特に家畜に置換するともっとニュートラルに考えられるのではというもの。動物の「権利」とロボットのそれを比較して考える議論など参考になった。ちょっと敷衍するとAIと人の関係性を考える上でも役に立つはず。
実用化されたばかりの電子メールを、内容が読めてしまう「はがき」なのか、封筒に入った「手紙」としてとらえるか、法廷で議論があったという。ロボットやAIを人のようなものとして擬人化してとらえるかどうかはその後の法整備に大きな影響がある。比喩や例えは実社会で大きな意味を持つことに留意すべきという指摘。
6月にバルセロナのソナーでパフォーマンス形式のプレゼン(Daito Manabe君がその前日パフォーマンスを行ってたステージ!)を見る機会があったが、メッセージの伝え方が上手という印象は本を通しても感じたものと同じだった。



デイヴィッド・ホックニーが著名な美術史家と語り合うという形式で書かれた一冊。ホックニー展が都現美で開催されているのを知り、数年積読状態になっていたこの本を思い出して手に取った。分厚い本なのでなかなか読み始める勇気がなかったが、読み始めると面白くて一気に読んでしまった。

「A History of Pictures」という原題は、絵画というよりは「画像の歴史」と訳した方が適していたのではと思えるほど、写真やイラスト、映画の話がふんだんに登場。それらの異なる「画像」メディアが、相互にどのように影響を与えあって来たのか、絵画を軸に語られている。特に印象に残ったのは、フェルメールの一節。複数の人がテーブルの周りに集うフェルメールの初期の絵を見たときに、デッサンが狂っているように感じるのが気になっていたのだが、その謎が解けた。実はこの絵、モデルを一人ずつ立たせた上で、何らかの光学的な装置を使ってその輪郭をキャンバスの上になぞるやり方で描かれたと解説されている。複数の人をずっと立たせておくわけにいかないので一人ずつ描いたのだろう。そのせいで一人一人はよく描けているのだが、全体として見ると不自然に見える。他の巨匠たち(例えばカラヴァッジョ)も同様な光学装置を使っていたそうだが、みな一様に自分が装置を使っていることを認めなかったという。

フェルメール 「取り持ち女」


本の中には当然、写真技術が絵画に与えた影響についても言及がある。今まさに過渡期にあるアーティストとAI技術の関係を考える上でも興味深い。

他にも、ホックニーの「画家は長い時間をかけてキャンバス上にイメージを現出させる。絵画を鑑賞する際は、その時間の流れを時間芸術として楽しむ意識が必要」といった趣旨の発言も含めて(本が手元にないので正確な引用ではないです)絵画鑑賞の幅を大きく広げてくれる一冊なのは間違いない。

この本はKindleではなく、紙の本で読了(フルカラーの写真がとても綺麗なので紙で買うことをお勧めする)。


学生時代にも読んだドナルド・ノーマンの本が文庫化されたということで再読。生活を便利にではなく、人を賢くするためのテクノロジーはどうあるべきかを論じた、1993年出版の一冊。

人間の認知には体験的認知と内省的認知があり、体験だけでは新しいアイデアや考え方を作り出すことはできないとし、体験的な認知が重視されがちな昨今の動向に警鐘を鳴らす(「あらゆるテクノロジーの中で、もっとも危惧すべきはエンターテイメントに関するテクノロジーである」)。ノーマンが、スマートフォン(人をスマートにしたのだろうか?)やTikTok に対してどう感じているのか聞いてみたいところ。

AIに関する点でいうと、オートメートする道具とインフォメートする道具という言葉を使って議論しているセクションが示唆的。オートメート(自動化)する道具は人が機械に合わせることを強要し、テクノロジーの利用者ではなく、システム側(企業や政府)にメリットをもたらす。それに対して、インフォメート(infomate スシャーナ・ズボフの造語)する技術は、それなしには得られれない豊かな情報と選択肢を提供し、人間の主権と尊厳を尊重する(今年、目にしたエッセイの中で白眉ともいえるテッド・チャンの論考も参照)。生成AIという名の「オートメートする道具」が幅を利かせた2023年。30年前の議論が改めて注目される。


今まさに読んでいる一冊。2025年に猛烈な熱波で2000万人が亡くなる。環境変動に起因する未曾有の災害に対処するために設立された国際的な組織、未来省が舞台となる近未来SF。温暖化が極端に進むと国際政治、経済、そして我々の日々の生活に何が起こるのか。まだ半分しか読んでないのだが、リアリティのある描写にハッとさせられることが多い。Global boiling、地球灼熱化の時代の入り口の2023年に、新しい命を授かった一人の親として、この年末年始に読了し、改めてしっかり考えたい。


今年もKindleと紙で半々くらいで読んだのでまだまだ書くべき本があったはずなのですが、思い出せず… 東京に帰り次第、追加していこうと思います。

年始に今年は毎月英語の原書を一冊は読むという目的を立てたのですが、5、6冊読んで終わってしまいました。長距離通勤の時間がなくなったこともあって、本を読む時間が減ったのは一つ反省点です。来年こそもっと本を読む時間を増やしたい(と去年も書いていた気がするが…)。

2023年もありがとうございました。皆様、良いお年をお迎えください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?