火縄銃とBEV

ITmedia ビジネスオンラインに書いた記事、『EV減速の中でもっとも注意すべき政策』がよく読まれている。読まれているだけでなく、コメント欄やSNSでも議論も巻き起こしていて、それはありがたい限りである。

神の見えざる手に逆らったところで、どうにもならないという極めて常識的なことを7年間にわたって書いてきたわけだが、予想通り、いまだに「市場の選択の方が間違っている」みたいなご意見も散見される。前にも書いたけれど「この天気図なら雨が降らないのはおかしい。天気の方が間違っていて、俺は間違っていない」と言い張る気象予報士がいたらそれは笑い話だ。天気は現実が全て。マーケットも販売実績が全て。

いくつか典型的な誤謬のパターンがあるのだが、ひとつはルールや規制でマーケットを左右できると思っている人たちだ。彼らはルール作りをする側が決めたら、変革が起こると信じている人たちで、彼らの目から見える風景は「世界(ってどこよと思うけれど)はすでに内燃機関禁止を決めたので、内燃機関は一掃される。日本がいくらハイブリッドの技術を極めたところで、それは日本国内でしか売れず、内燃機関が禁止された世界から取り残されて日本のメーカーが滅びる」と信じている、自称科学的な狂信者である。

ポイントは物理量である。「世界の自動車需要を満たすにはどうやってもバッテリー原材料が足りていない」。これは物理制約である。バッテリー生産を現在の11倍に増産しないと間に合わない。だから全部をBEVにするのは物理量の制約上無理で、需要の不足分は今調達可能な他の手段で賄うしかない。普通の話である。

例え話をしよう。11万人の敵軍を迎え撃つ当方の武器は火縄銃で、弾薬は1万発であるとして、いったい火縄銃だけでどうやって勝てるというのか? 1万発の弾薬しかないなら、槍と刀も使うしかないだろうといくら言っても、「槍に対して、火縄銃は有効射程距離で優れていて、その技術革新によって槍と刀の時代は終わる」と言い続ける。

いや別に戦いにレンジの意味がないとはこちらも思っていない。対戦の基本としてレンジが重要なのは百も承知なのだけれど、現実の運用の話をしたらレンジで全てが決まるわけではない。何より飽和攻撃に対してはレンジの話は意味がない。

「合戦の当日雨だったら火縄銃は運用が厳しい」とか、「ベトナムの密林だと、ナイフや罠程度の旧式な武器でも脅威になる」と具体的な運用上の問題を指摘して、「だから他の手段もいるよね」と言っても「いつまで旧式のものにこだわっているのだ。技術革新によって世界は一変するのだ」と言い募る。そして即刻刀や槍の生産を止めて、銃だけにするのだと。出遅れだオワコンだと。何かBEVに全振りしないとダメな理由があるのだろうか。

下手をすると「やがて撃発装置の改良によって、雨でも大丈夫になるのだ」みたいな今言っても詮無いことを言い始める。そりゃその後250年ほどの間には円錐弾ができて、ライフリングが発明されて、薬莢と雷管がみたいにいつかはなっていくのだろうけれど、ここの議論ではこの1年くらいの間、長篠で戦う戦術をどうするのかの話をしていて、長期的に撃発装置の改良を続けることは何も否定しないけれど、今この場の戦術立案の条件として、当方の装備は火縄銃でしょという話が置き去りになってしまう。「火縄銃には無限の可能性が……」は今度ゆっくり聞かせてもらうとして、できれば今はその限界を認めた上で、創意工夫をし、せめて三段撃ちを提案してくれまいか。

しまいには「お前はアンチ火縄銃だ」ってねぇ。誰も火縄銃を使うなとは言ってないだろうと、不足を補うには槍と刀だって使わざるを得ないって話がどうしてアンチ論になるんだか。

もうひとつの勘違いは、「内燃機関は枯れた技術で効率向上には限界がある」みたいな言い方。限界は何にだってあるけれど改善代が全くない話ではない。それは撃発装置に進化の余地がある話と同じで、未来のポテンシャルが無いものと決めつけるのは科学的態度ではない。今現有戦力で戦う話における未来可能性はほぼ有用ではないけれど、長期的開発継続に対して勝手に未来可能性を閉ざされたものにする話は意味が違う。

例えばこう言う話がある「東北大、ガソリンエンジンのノッキングの全容解明に迫る新たな事実を発見」。何度か書いているけれど、内燃機関は予圧縮が高ければ高いほど熱効率が上がるが、現実の話として予圧縮を高めるとノッキングが発生してエンジンが壊れる。

今回の発表は東北大学が、そのノッキングの発生メカニズムを特定できたよという話で、そこがわかれば熱効率の向上は大きなステップアップが見込める。

もう飽和するほど書いている気がするが、マルチパスウェイにとってBEVは重要な技術のひとつ。否定する気はかけらもないけれど、それで全部は解決しないよと言っているだけなんだがこれが本当に伝わらない。

さて、本日はこれから四谷のnote本社に、ちょっと色々相談に行ってくる。前から言っていた通り、有料版のnoteをスタートしようと考えているわけだが、そのためには技術的なリクエストとか諸々があるのだ。

どうせやるならちゃんとやりたい。noteであっても、今までのように、ボクが書いてボクが編集するというブログレベルの運用ではなく、ちゃんと専属の編集者を付けて新たな媒体ビジネスとして運用したいと思っている。どうせなら編集作業もオンボードでやりたいので、編集者用のサブアカウントを出せないかとか、まあそういう諸々を聞きに行くのだ。

できれば次の本決算、つまり5月にはこれがスタートできたらいいなぁと思っている。

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