日本企業は中国を撤退すべきってホント?

さて、激化するばかりの米中対立です。アメリカは法律でどんどん中国の経済活動の首を締めにかかっていますし、よせば良いのに中国はキレてミサイルをぶっ放したりと大変物騒です。

全体の流れとしては、いま西側諸国(というかほぼ中国以外の全世界)は中国抜きの世界経済を構築しようとしています。もっともわかりやすいのはオーストラリアのケースでしょう。

新型コロナの発生メカニズムを精査するために「武漢に国際的な研究チームを派遣すべし」と発言した途端、中国はオーストラリアからの大麦の輸入をストップ。さらに牛肉の加工施設の大手数社を安全基準の再検査の名目の元に輸出を止めるという暴挙に出ました。主要産業の締め付けで圧力を掛けたわけです。

中国にしてみたら「どうだ。言うことを聞くしかないだろう?」と言いたかったわけですが、それは大変な逆効果になりました。自由主義諸国は「これってつまり中国との商取引が大きくなればなるほど、それを脅しのネタに使われるということ。つまりいま経済的に相当手痛いとしてもここで手を切らなければ、この先ことあるごとに中国に脅されて屈することになる」と認識をあらたにしたのでした。

もちろん国家間紛争がエスカレートすれば、最終的に経済的断交という可能性は常にありますが、それはよっぽどの場合の最終手段。「それとこれとは別の話」と言う原則が眼中になく、挨拶がわりに経済制裁を振り回すヤツとなんて商いはできません。アメリカが中国リスクを説いて回ってもなかなか腰があがらなかった各国の腰を上げさせたのは皮肉なことに中国の圧力だったわけです。

このあたり自由経済の機微がわかっていない中国らしい自爆です。さて、そんなわけで、ここ最近は世界中の企業が中国市場と距離を取り始めています。加えて、アメリカが「中国を取るか我が国を取るか?」と踏み絵を迫り始めました。中国を取るなら米国銀行との取引を禁止するというわけです。それはつまり国際通貨取引から締め出されることを意味するので、グローバル企業は窒息してしまうことになります。

さて、そんな中、今ネット周りでは「経団連はまだ欲の皮を突っ張らかして、中国との取引を続けようとしているのか? 時代が変わったことに気づかないのか?」という論調が盛んです。

ただねぇ。これ半分はYESですが、半分はNOだと思います。なぜか? まだ時間は掛かるかもしれませんが、米中対立はいつかどこかのタイミングで終わります。例えばクルマに関しては、中国は3000万台マーケット。弱度の内戦的なことが起こって、マーケットが2/3にシュリンクしたとしてもまだ2000万台マーケットで、世界で一番クルマが売れる国であることには変わりはありません。ポスト米中対立の時代がきた時、中国マーケットから完全撤退していたらどうなるでしょうか? そう、それは世界最大マーケットの争奪戦に乗り遅れることになるのです。

ただし、ポスト米中対立が来る前に、アメリカの踏み絵のターンがあるかもしれません。それで米国銀行の取引から外されたら堪らないのも事実。だから日本の自動車企業が取るべき戦略は、アメリカの言うことをいつでも聞けるように、中国撤退の支度を済ませておくこと。ただしそれと同時にアメリカが許容する限りの足掛かりを中国に残しておくこと。

今の時点で潔く綺麗さっぱり中国撤退なんて、ガキ臭いことはできません。「時代が変わったことに気づかないのか?」どころではありません。その次の時代にもちゃんと抜け目なくリーチを掛けておかないければならないのがビジネスです。

ということで、国内メーカーを見渡してみると、中国への進出許可が出なかったスバルは良い意味で蚊帳の外。「なんかウチのクルマ最近の中国じゃ小さすぎてもう売れないからやーめた」と言って2年前に撤退した天然の天才スズキも無問題。

中国よりもアメリカという方針がはっきり決まっているマツダはまあギリギリセーフ。それでも中国を失うようなことになると所帯の大きさから言って被害が結構甚大です。

さて、ヤバい1社目はホンダ。現在絶賛中国への設備投資拡大中で、むしろ欧州などを畳んでその分中国偏重に傾きつつあります。これアメリカに脅された時、巨額の設備投資をどうするのでしょうか?

そして日産。日産はもうかなり無理繰りの復活シナリオを書いています。状況が厳しすぎて普通のシナリオでは復活できず、どこか急成長マーケットを見込まないと青写真になりません。そうもう皆さんお気づきの通り、中国でホームランをかっ飛ばすことで復活する。日産のプランはそうなっていますし、中国マーケット抜きでプランが書けるかどうかは極めて怪しい状態です。汝の前途に待ち受ける災難に神の御加護があらんことを。

さて、最後にトヨタ。「トヨタはこの期に及んでまだ中国への投資を続けている不逞の輩である」的な威勢の良い意見を聞きますが、その対中投資額はわずか1300億円。対米投資の1兆4000億円と比べてみれば、町内会の会費みたいなもんです。すでに旗幟鮮明。もっと言えば、中国国内販売用の電動車両にだけ中国製バッテリーを搭載し、グローバルにはあくまでもパナソニックメインを貫くなど、いざとなれば尻尾を切って逃げられる状態が整っています。他のメーカーは、グローバル全体のバッテリー供給を中国メーカーに依存しているとことが多く、中国と縁を切ったら、電動化計画が全部オジャンです。トヨタの強かさにはもう舌を巻くしかありません。

アメリカへの忠誠をお金で示し、中国への義理を果たしながらポスト米中対立への布石を打つ。しかも最悪の場合、中国マーケットだけ切り捨てる体制まで整っているのです。

最後に独り言ですが、トヨタの場合、それを何十手先まで計算づくでやっているんじゃなくて、出たとこ出たとこで「そんじゃこうしよう」とやっているだけで大きな絵が毎度描けてしまうのは不思議でしょうがない。


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