セグメントが曖昧なのは曖昧なものを比較するために存在するものだから

先日の『「国民車」ヤリスクロス』のコメント欄に書き込まれたコメントについて。

評論家の使うセグメントという区分けはあまりにも曖昧。プラットフォームで語る時もあれば、他車比較で異なるセグメントを持ち込む時もある。
実際、Bセグであるヤリスよりヤリスクロスは10cm以上長く、欧州向けが国内導入された初代オーリスはヤリスクロスより4cmほど長いが、幅は5mm狭いことを勘案するなら、ヤリスクロスはCセグと言ってよいサイズではないでしょうか?
論理的と言うのであれば、「Bセグだから」という擁護をするより価格に対する性能・サイズ・品質/質感で他車との横並び評価をするのが筋でしょう。
200万の車としては基本ボディとADAS・燃費に優れ、運動性能とサイズに対する広さ・積載性は十分だが質感・音振はベーシック車のそれ、と言ったところか。

今回は原文ままです。なんだろうな。この行間に滲む敵意。そういう意味では名文だと思う。直接攻撃的な言葉を使わずに不快にさせる文章力には敬意を表そう。

評論家の使うセグメントが曖昧なら、クソコメを書く素人のご都合主義についても、礼儀としてツッコミを入れさせていただこう。何が基準なのかわからないと言いつつ、いきなり寸法の話を持ち出すのは、寸法で分けると合理的だと思っているのだろうか? セグメントがボディ寸法で決められるならば、大変簡単で素晴らしいけれど、ではこの表のクルマを全部分類してみて欲しい。どれが何セグメントなんだろうか?

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さていかがかな?

正解は、X車がフォルクスワーゲンup!で、A〜Hが歴代のゴルフ。つまりX車がAセグメントで、それ以外は全部Cセグメントということ。まさかCセグメントのメートル原器であった初代ゴルフがCセグメントじゃないなんて矛盾は起きてないですよね?

「それだけ時代が違えば」という言い訳は無し。バリバリの新型車ヤリスクロスとサイズ比較に持ち出した初代オーリスは10年前のクルマ。現行モデルじゃないでしょう? もっと言えば、なぜ新しい二代目オーリスにしなかったかと言えば、それじゃサイズが違いすぎるからじゃないですかね?

それと「価格に対する性能・サイズ・品質/質感で他車との横並び評価」って論理的であるみたいに書いてあるけれど、具体的にはどうするの? 性能って最高速度なの? 燃費なの? ダブルレーンチェンジの限界速度なの? 最大求心化速度なの? 品質ってのはビルドクオリティなの? 素材なの? 耐久性なの? 質感の定量化はどうするの? それのどれを価格に対してどう比べるの?

300万円で時速300キロ出せて、でもコーナリングはタコで、室内のビルドクオリティは素晴らしいけど、ボディスタイルは古色蒼然。リヤシートは法律ギリギリの極小サイズだけどラゲッジは広大みたいなクルマはどう評価するの?

クルマってのは非常に多面的なものなんですよ。だから定規で測ってこれが何ランクみたいには評価できないのです。けれども人間ってのは高い直感力を持っているからメルセデスのCクラスとBMWの3シリーズは同じクラスだなみたいに自然に思うわけですよ。あるいはヤリスとフィットとデミオとスイフトでも良いです。

良し悪しの判断はおくとして、クルマは年々大きくなりますから、寸法で分けると、2020年のセグメントサイズ定義とかをやらなければなりませんし、下手をするとゴルフの「新型と旧型」を比較すること自体がセグメント違い比較とかになる場合もあるわけですよ。それって合理的なのかしら?

そういう数値や条件分けでどうにもならない競合関係を人間はもっと直感的にグルーピングしているのです。それを枠組みにするためにセグメント分けはあるのです。知恵が生み出したグルーピングのノウハウを自分の理解の物差しで測って「曖昧」の一言で済ませるのは知的でない行為だし、多分、それ以上にボクがイラッとするのはその批判がどこからか持ってきた偽物だからです。

本当に自分で色々考えて、その結果「そういうのは問題があるんじゃないか?」と自発的に思ったのではなく、そこらに転がっているありきたりの成功前例の批判法を安易に使っているから。そういうの大嫌いだからね。

カタカナ語の批判とかも大嫌い。がたがた言うならやまとことばで書けと、漢語は使うな。それも外来語。日本語というのは外来語を平気で吸収して文脈の中で使いこなしてしまうところがすごいんじゃないかと思うわけですよ。そういうフレキシビリティをインクルードしているところがエクセレントなポイントです。だからカタカナ語はすこぶる日本語。英語を使うなというスノビッシュなフランス人みたいにだけはなりたくない。いや脱線。

借り物の批判手法というのは要するに紋切り型の定型クレームで、「客に対してその口の利き方はなんだ!」とか、もっと言えば「軍靴の響き」とかと同じで、思考停止の産物です。しかも当人は必殺技だと思っているからたちが悪い。要するに簡単にマウントを取りたいだけという裏側が透けて見えるんです。

で、結局はセグメントは何だと言えば色々な解釈があって良いし、そういうものじゃなければ使えないのです。

例えばスバルは元々、スバル360の流れを汲むRRの軽自動車シャシーと、スバル1000からの流れを汲むFF、あるいはFFベースのAWDのシャシーがあって、それをどう見るかは解釈次第。最新の世代はひとまず置いて、レガシィとインプレッサは基本同じ系統。となればインプレッサと同系統のXVも同じなのですが、レガシィはDセグメントでインプレッサはCセグメント。難しいのはXVでシャシーのポテンシャルから見ればCセグメントですが、スバルの販売戦略上持たされている役割は他社のBセグメントと闘うこと。だからXVはBセグメントだとも言えるわけです。価格的に拮抗しているのはBセグクラスですしね。

割り切れないことを理解しないと、永遠にわからない。それがセグメントです。セグメントの話は2015年の8月17日からしばらく連載で書いていますので、さらに興味のある人はリンク集から是非どうぞ。

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