小型車のエンジントレンド

とある人から、小型車の3気筒エンジンはこれからのトレンドと言えるのかという質問をもらいました。グローバル展開も含めて世界各国でどう思われそうかという問いも合わせて。

さて、まあ小型車のエンジンって何だと言えば、多分ど真ん中は1.5リッター。下は1リッターあたりでしょうね。さてこれを何気筒にすべきかという話ですが、経験則として1気筒あたりの排気量の適正値は450〜500ccです。それは点火プラグを使うならばという話でもあります。

燃焼室というのは、混合気の真ん中から(昔は端っこのヤツもあって効率が悪かったですが)スパークプラグで火をつけて、それを延焼させて端っこまで燃やすシステムですから、着火から全部が燃えるまでにそれなりに時間がかかります。ボア径を上げていくと、延焼に時間がかかり、回転を上げていくと燃焼に必要な時間が取れなくなって、ということはピストンが下がり始めるまでに得たいピーク燃焼圧力が低くなって、効率が落ちます。回さなければ良いじゃんと思うかもしれませんが、仕事量はトルク×回転数なので、回転上限を下げるとパワーが出ません。

諸々を考慮すると、シリンダーボアは大体決まってきます。とりあえず前述の単気筒容量をベースにスクエアで計算すると、ボア×ストローク=83×83で449.08cc。86×86で499.56cc。

ショートストロークのエンジンは燃費的にも排ガス的にも厳しい(ここをちゃんと説明するとやたら長くなるので、ロングストロークの方が燃焼圧力を長時間受け止めていられると考えてください)ので、いまやスクエアからロングストローク側が主流になっています。とは言え、直噴のインジェクターノズルも点火プラグもそうそう小さくなってはくれませんから、ボアを小さくするのも限度があります。そういうせめぎ合いの結果が1気筒あたり450ccから500ccというラインになっているわけです。

さて、では1.5リッターのエンジンを4気筒にするとどうなるか? 割り算をすれば375ccになってしまいます。これが3気筒ならばぴったり500cc。だから1.5リッターなら3気筒というのは、エンジンの熱効率から見たらもう正義なのです。

ただし、これが1.0リッターだから2気筒にするかというと、2気筒はエンジンとしてとても難しいのです。水を入れたバケツを両手に持ってグルグルまわる場面と2つのバケツを片手で持って回る場面を想像してください。これはどう考えても両手に分散した方が良い。エンジンだって同じです。2気筒エンジンの純粋な質量バランスは1つのピストンが上死点なら、もうひとつは下死点の方が良いに決まっています。

けれども4サイクルエンジンは720度(2回転)で1サイクルですから、燃焼のタイミングを等間隔に揃えるには、360度に1度燃焼してもらわないといけない。そのためには2つのバケツは同位相(片手)にあってもらわないと困ります。それが上死点と下死点にわかれていると、1度目の燃焼は180度、次に隣の気筒は540度で燃焼。つまり振動の元になる燃焼が不等間隔で起きて、起振要因になってしまうのです。

要するに、2気筒エンジンでは、回転における部品の重量バランスと燃焼によるトルク発生のバランスが相入れないのです。どっちを選んでも振動がすごいことになります。

ということで、どうしても止むを得ないケースはでてきて、仕方なく1.0リッターのユニットも3気筒にしています。理想的な単気筒容積にできない場合もあるのです。となると「いや3気筒だって、4気筒に比べたら振動が多いじゃないか」。それはその通りですが、2気筒ほど壊滅的なことにはなりません。

いまや2030年パリ協定に向けて、無駄のない熱効率を実現していかないと、巨額の罰金で事業が継続できなくなります。なのでそこでプライオリティは決まってしまいます。一番大事なのは熱効率。でそれを上回るほどひどい振動が出ない限りにおいては、単気筒容積を優先することになるわけです。だからエンジニアリング的には1.5リッターは3気筒一択と言っていいでしょう。

ところが、中国の市場は、まだそこまでユーザーが進歩していません。環境問題には全員でコミットしていかないとダメだよねというコンセンサスはどうもできていない。パワーがあってシリンダーが多い方がエラい。

こうなってくると、自動車メーカーがユーザー教育をしていくしかないでしょう。彼らの望むままのものを作っていたら、事業が継続できなくなる。「環境なんてのは意識高い系の戯言」という理屈に乗っていたらやがてメーカーには地獄がやってきます。

結論としては、熱効率的には1.5リッターエンジンは3気筒が正解。マーケットがそれを望まないとしても、彼らが望むものは国際ルールが許さない。短期的には市場迎合でやっていけるかもしれませんが、そのまま10年なんてあり得ないでしょう。だから変わって行くしかないし、そのために教育していくしかないのです。



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