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電動化と電気自動車

ITmedia ビジネスオンラインに書いた生地『RAV4 PHVとHonda e予約打ち切り どうなるバッテリー供給』に寄せられたコメントからです。

原稿の趣旨としては、「バッテリーは足りないよ」という話で、トップ画像は2019年にトヨタが説明会で使用したプレゼン資料からの抜粋です。横軸に目盛りがないイメージ画像みたいなものですが、色々秘密を守るために、数値を入れてないだけで、おそらくはリアルなカーブです。ただ実はこの説明会は一番最初2018年に開かれて、その後予想よりハイブリッドの普及が前倒しに進んだ結果、電動化の達成が5年前倒しになっています。それが青線と赤線の意味するところです。なので資料が何年のものかという話になるとオリジナルは18年で、19年に修正されたものと書くのが正確ですかね。

もうね。間も無くバッテリー供給はどうしょうもなくなるとトヨタはこの時点から予告していたわけです。むしろすでにハイブリッドでバッテリーメーカーと長年の取引があり、既納客の立場からも、バイイングパワーからも奪い合いになれば、トヨタは有利だとは思うのですが、有利な側ですら憂鬱になるくらいこの奪い合いは熾烈であると。そういう話です。

はい。そしてコメント欄で噛み付いてきたのはもっとレベルの低い話でした。電動車と電気自動車の関係について。

要約すると「俺には常識がある。その俺が電動車と電気自動車の違いを知らない、読んだこともないのは、業界が周知徹底させるのをサボっていたからだ」というものでした。別の読者からのコメントで「さすがにこれを知らないってのは本人のせいだろ?まあ興味の範囲はそれぞれだけど」と書かれて再びキレてましたね。「俺は業界の不作為に怒っているのであって、俺のものしらずを指摘することに意味がない」と。

まずですね。これは筆者の基本的スタンスですが、電動車と電気自動車の違いを読者レベルに全員知っていろなんてことは全く求めておりません。人間それぞれの生活があって、関心事はそれぞれ。筆者のような職業の常識をあまねく全国民に求めるほど、愚かしくはないつもりです。ここで「常識があれば」と書いているのは、テレビや新聞などの大手マスコミの記者としての常識です。

だからこの読者の方が、電動車と電気自動車の違いを知らないのはいくつかあるクラスターのひとつとして普通。興味の範疇によってはそういう人もいます。この問題に興味があるなら知っていた方が良いが、さほど興味がないなら知らなくて良い。それでいいのです。

でも国民の知る権利に答えることを職務とするメディアの記者はそれじゃダメです。この読者の問題は「自分が否定された」という被害妄想で、「俺と同じように知らない記者だって悪くない」になっているところで、そりゃ職務が違うんですから同一視できませんよ。

仮に業界、これ定義をはっきりさせましょうか? 要するに自動車メーカーですね。そこが電動化という単語を曖昧に使ったら、メディアはそれをそのまま鵜呑みにして記事にするんですか? 例えば、トヨタが「ヤリスクロスは世界最高のクルマです。70億人が買うべき」ってリリースを出したら、それが記事になるとでも?

トヨタのなんとか役員は、発表会の冒頭で「ヤリスクロスは世界最高のクルマです。70億人が買うべき」と述べた。

これはストレートニュースなんであり得ますが、この場合の記事のポイントは「おいおいトヨタの役員がこんなこと言っているぜ」ということであって、ヤリスクロスが最高かどうかは実は主筋から外れています。

さらに言えば、電動車と電気自動車については、トヨタは何度も何度も説明しています。

マイルストン

例えばこの図。フラッグが立っている年度の縦軸上の色分けを見れば視覚的にも台数構成はわかりますし、旗の中に具体的な数字も記載されています。まあ大手メディアの記者が本格的にバカで、「HVとPHVにエンジンがついているなんて知らなかった」とでも言うなら、話は別ですが、こうした資料のひとつひとつに、普通に読んだら電動車=電気自動車ではないということが散々、しつこいくらいに書かれているのです。

基本的にね。筆者は「俺が勉強できないのは先生が悪い」という論法が嫌いです。同じ教え方でわかる人とわからない人がいる。出来の悪い生徒に対して多少の配慮をして欲しいというのはわからんでもないですが、何十人もいるクラスでたったひとりの落伍者も出さないように教えようと思ったら、できる子たちが被害を受けます。

だってわかりやすくったって限度があるでしょう? 新型車のインプレッションでいちいち、「座って目の前にある丸い輪っかがハンドルで、これでクルマの進行方向を変えます。ペダルは3つあって右端からエンジンの回転を制御するアクセルペダル。真ん中は減速や停止に使うブレーキペダル、左端はエンジンと変速機の力の伝達をオン/オフするクラッチペダルです。タイプによっては変速が自動になっていて、左端のペダルがないものもあります」みたいなところから書くんですかね? それってあなたは読みたいですか?

大袈裟なと言う人がいるでしょうけれど、1億1000万人の中には3つのペダルの名前を知らない人は、多分二桁パーセントはいるでしょう。全員にわからせるってのはそういう話なんですよ。

ということで、最後に一応筆者の執筆方針について書いておきましょう。クルマに関する知識は人さまざまです。その全部に「ためになった」と思ってもらう記事を書くことはできません。大勢の書き手がいて、それぞれがどの層の読者に向けて記事を書くかが分かれているわけですが、筆者は基本「メーカーやエンジニアの説明を専門外の人に通訳する仕事」だと思っています。プロのちょっと下で、少し補助線を引いてあげればプロの言うことがわかる人に向けた解説。教科書を解説する副読本みたいなもんでしょうか?

教科書を読めばわかってしまうような人はターゲットではないし、補助線くらいではついてこられない人も残念ながらターゲットではないのです。もちろんもっといろんな人にとって有益な記事を書ければそれに越したことはないのですが、誰も彼もを満足させられる才能は筆者にはありません。マツダは「2%のお客様に大喜びしてもらえるクルマを作る」と言っていますが、筆者も同じです。何パーセントかわかりませんが、八方美人なんて不可能だという自分の限界を知った上で、可能なところだけなんとかご満足いただけるように心がけております。

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