EV教祖と対決せよと言われるけれど

この話の最初に、毎度毎度断っておかないといけないのだけれど、池田はEVに全く反対していません。むしろEVを推進するのは良いことだと思っておりますよ。

ただ、ユーザー個人個人にはそれぞれ色んな事情があって、少なくともこの1年や2年で、自宅充電ができる環境になるとは思えない人も、購入予算が限られていてEVに手が届かない人もいます。その人たちに無責任にEVを買えみたいに言うことはしないというだけです。だからマルチソリューションだと言っていて、そのマルチソリューションの中の有力なひとつにEVがあるよと、そういう話ですよ。

戸建て住まいか、最新の充電設備付きのマンションにお住まいで、資産に余裕があって、長距離のお出かけに充電計画を立てて、そのプランで動くことが気にならない人は、どうぞEVを積極的に買ってくださいなと。そう申しております。

で、EV信者というか、教祖みたいな人が何人かいて、池田はよくその人達と対決せよと言われます。まあそういうことを言う人は、概ねEV真理教の人達で、普通の健全なEVファンではないのです。「EVが他の全ての動力源を焼き払って中原に覇を立てるところを見たい。あるいは「EV経典をいただかない者には死を」みたいな人達です。

いやだってそうでしょ? あなたがEVに乗ることを誰も否定していない。むしろ貧乏人から集めた金で補助金までもらってブイブイ転がしながら、楽しいEVライフを送っているのに、なんでそんなに攻撃的でいられるんでしょうかね? 池田はこれからユーザーになろうと言う人に、リスクの説明をしているだけで、本当はそれはメーカーがやるべきことなのに、バラ色の未来しか語らないから、見るに見かねて「こういう人には向かないよ」あるいは「こういう点は今までと勝手が違うよ」と説明しているだけのことです。条件がぴたりと嵌まって楽しんでいる人には関係ない話なんですよ。

いや脱線しました。要するにEVを崇めない異教徒はポアしたいというこうした人達は池田がそういう教祖さまにやっつけられる姿が見たいという暗い欲望に駆られているわけですよ。何故なら自分で反論ができないから。

教祖たちの特徴は、前提条件を勝手に決めることです。まず「世界が全てEVに向かうことはすでに確定している」から始まります。全然そうは思いません。EVは増えるでしょうが、EVしかない世の中にはならないと池田は思っておりますよ。

だってね。世界の全てがEVになることが、すでに確定しているなら、何故あなたたちはそんなに余裕が無いんですかね? 蟻が象に刃向かう姿を嗤って見ていればいいじゃないですか? だって確定しているんでしょ? それから補助金も止めましょうよ。だってもう確定していているのなら普及のために税を投入する必要なんてないじゃないですか? どこの国だって財政は苦しいんですよ。覇権を取ったマイクロソフトオフィスに補助金付けますかね?

「フォルクスワーゲンもGMもすでに完全EV化を決定した」って本当ですかね? 水素だって合成燃料だって、もっと言えば内燃機関だって、研究開発してますよ。そういう部分は都合良くトリミングですか? そんなやり方なら何だって断言できますよ。だって誠実さが無いんだから。嘘が平気で言えるなら何でも言えます。

バッテリーの価格低減は進んでおり、すでに内燃機関よりEVが安くなることは間違い無い。へぇーそうですか、原材料もバッテリーも売り手市場なのに、自由経済のメカニズムの中で、どうやって価格が下がるんでしょうか? 技術的ブレークスルーが起きて、レアアースが要らない状態にでもなれば話は変わるかもしれませんが、普通に考える限り、ここ数年は多分バッテリー価格は上がります。というかそれ以前にEVに全振りなんてしてしまうと、調達に問題が起きて生産が止まる可能性が高い。

あそこもここも大規模バッテリー工場を作っているから安くなる。でもね、その原材料は解決付いているんでしょうか? 兵糧攻めのリスクを顧みず、兵を沢山集めて籠城した方が強いなんて理屈は全く理解できません。そりゃ賭けに勝つこともあるかもしれません。突然技術的ブレークスルーが起きて奇跡的に原材料問題が解決するとかね。でもそれって期待値として計算できるレベルの話じゃないんですよ。ガルブレイスの言う「不確実性」。もう少し正確に言えばケインズの定義に近いかな。誰かこの世にひとりでも、具体的な数量を持って原材料の調達プランを説明できる人がいたら是非話を聞いてみたいです。

どこそこの会社は何ギガワットの生産ラインを作った、と賢しらに数字を挙げているのをよくみますが、で、その原材料は? 数字が挙げられるんですかね? 池田はトヨタの首脳にも同じ事を言いましたよ。電動化800万台というけれど、バッテリーと原材料の確保を具体的に説明できないならただのリップサービスだと。結果、オフレコで正直ベースの話を聞きましたが、それを書くのは仁義に反するので書きませんけどね。

原材料の話はバッテリーだけじゃないですよ。モーターに使うネオジムだって危ういです。そういう不完全な状態でいまEVの事業は進んでいて、けれどもそれは環境問題について一定の解決策に成り得るから、世の中はそれに補助金を付けて普及をはかりましょうと言っているのではないですかね?

それから水素に対する極端なヘイトも見苦しいです。何度も書きますが、あれはマルチソリューションの内のひとつ。それが絶対に当たるなんてことは誰も言えないし、その先に未来があるかもしれないけれどないかもしれない。でもそういうことをひとつずつ潰して行くことでしか進歩はしないんですよ。EVだけやってれば良いなんてのは試験勉強で山を掛けるのと一緒です。上手く行けば効率は良いけれど本質的にはリスキーだし、理想的でも何でもない。

水素の話をし始めちゃったので、少しだけ説明します。詳しくはITmedia ビジネスオンラインの「再度注目を集める内燃機関 バイオ燃料とe-fuel」に書いたので、そっちを読んでいただきたいですが、水素を褐炭から作るとか、圧縮にエネルギーを使うとか、輸送効率が悪いとか、そういうことを言い続けるならEV信者のみなさまの言い方を見習って「勉強不足」と申し上げて起きましょう。産総研がやっているギ酸方式とか豊田中央研究所が開発した人工光合成によるギ酸生成とか、そういうブレークスルーは少しずつ実現し始めております。

まああくまでもまだ研究室レベルの話なので、鬼の首を取ったように言うつもりはないですが、「バッテリーの価格はこれから下がる」と未来の期待値で説明しておきながら、一方で水素については「現状で全てのポテンシャルを測る」ってのが科学的態度には全く思えないのですよ。

ということで、本当に未来がどうなるかをポジショントークじゃ無く話す気があるなら、色々意見交換する準備はありますが、そういう見苦しい嘘をいちいち暴く役割は面倒で非生産的なのでやりたくないのです。ただショーとして見たいなら有料ライブでひとり5000円くらい取ってやるかな。それでも気分が悪くなると原稿書くのに差し障りが出るから嫌だな。

お気持ちの投げ銭場所です。払っても良いなという人だけ、ご無理のない範囲でお使いください。